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第四話 ゴーレム生成

前衛(ゴーレム)を造る前に、前衛(メイド)を手に入れてしまった主人公なのだった。

「――で、何故メイドが此処に居る?」


 整頓と乱雑さがない交ぜになった研究室に、静かな、だけど少しだけ怒気を孕む声が響く。上座に置かれた革張りのアームチェアに座るのはこの部屋の主、青髪碧眼の美少年ガルガロだ。目を瞑りいつも通りの無表情だが、今は何処か威圧的な雰囲気を醸し出している。


「え~と、それは~その……」


 対して、部屋の下座に置かれたスツールに申し訳なさげに座る俺は、何から説明したものかと考えが纏まらず言葉を濁しながら自分の斜め後ろ、話題の主に視線を向けた。


「……メイドたる者、ご主人のいらっしゃる場所には何処へなりとも御伴するのは当然のことで御座います」


 俺の背後に侍るようにして立つメイド――桔梗さんは、しれっと当然の如くという風にのたまった。


「……チッ」


 ――ああっ、ガルガロの額に青筋が……!?


 進級試験を協力して合格した仲だから大丈夫かと思ったけど、やはり研究室にまで連れてきたのは不味かったか。

 あからさまに不機嫌さを隠そうともしないガルガロに対し、桔梗さんは至って自然体の何処吹く風、その佇まいには貞淑さと共に余裕すら同居している。


「は、はは……」


 そして俺は、剣呑さが漂う静かな室内にて、乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。




   ◆○★△




「私を、ご主人様のPT(おそば)に置いては下さいませんか? ――ずっと」


 今の状況はこの言葉から始まった。

 ユミル鉱脈洞に向かうため歪路洞窟に着いた俺を待っていたのは、極上の笑みを浮かべた桔梗さんだった。


 ――ご主人様? 誰のこと? え、俺っ!?


 前振りも何もない突然のことに狼狽し混乱する俺は、何とか頭を回転させた。

 進級試験での自己紹介時、桔梗さんは確かに「主を探している」と言ってはいたが、それが何故俺になるのかが分からない。しどろもどろになりつつも俺は疑問を口に出す。

 対して、彼女の返答は至ってシンプル。


「――ふふ、ヒミツです」


 そもそも答えてくれなかった……。

 ようやく落ち着いた俺は、PTを組むのは構わないけどご主人様はちょっと、という返事をしたのだが、「ありがとうございます。ご主人様♪」という絶対分かってないよね的な受け答えが返ってきただけだった。

 押しに負けて成り行き的に同行することが決まってしまった俺と桔梗さん。PTを組んでユミル鉱脈洞を進んだ。


 ユミル鉱脈洞はその名の通り、鉱物系の発掘素材が豊富なダンジョンだ。事務課で受けられるクエストにも鉱物の調達依頼は多くあり、それらはこのダンジョンで取れることが多い。

 蟻の巣状に広がる洞窟は下層に行くほど上等で希少な鉱物が採れるという話だが、MLOでは現在唯一の生産職――錬金術を扱える学生(プレイヤー)が未だ少なく、それゆえか情報も少ない。

 ルーン洞窟や他のダンジョンと同じようにレベル帯と深度によって区域分けされていて、第一エリア【薄明りの坑道】、第二エリア【土岩の回廊】、第三エリア【清晶の鍾乳洞】というようにそれぞれ特色が違う。

 俺たちが向かったのは第二エリアだ。

 蟲型、亜人型、獣型のモンスターに加え、【呪われた泥塊(カースオーズ)】や【粘土人形(クレイパペット)】などの土――つまり自然が変化したモンスターが出現することが特徴として挙げられる。

 推奨レベルは20と若干高めだったが、此処でPTを組んだことが幸いした。

 俺と桔梗さんの戦闘スタイルはかなり相性が良かったのだ。双短剣を操り、桔梗さんは素早い動きで敵を翻弄して思考する時間を稼いでくれるから、俺は余裕を持って状況を分析して適した呪文を選択、戦闘の優位を保つように魔術を放てる。

 他にも敵愾心(ヘイト)管理のタイミング、魔術の射線確保、前衛後衛の立ち位置(ポジショニング)からの標的(ターゲット)切り替えなど、俺の指示とほぼ同じタイミングで行動してくれる。まさに以心伝心。主の意を汲むことメイドの如し。

 もし独り(ソロ)だったら第二エリアではかなりの苦戦を強いられてただろう。

 想像以上の戦闘の手応えに、感嘆と感謝の言葉を桔梗さんに告げると――――


『うふふ、恐縮です。ご主人様の戦いは()()()見ていましたから……合わせるのは簡単なことです、メイドとして♪』


 思わず赤面してしまうほどに魅力的な笑顔で答える彼女だったが、俺の冷静な部分が言外にセールスポイントを強調して俺に自分を売り込んでいるんじゃないか、と囁いてもいた。


 ――だけど……。


『ご主人様。どうぞ、クッキーです。体力が回復しますし、何より凄く美味しいんですよ?』


『ご主人様、先ほどの戦闘では背後への警戒が薄くなっていたように感じました。お気を付けを』


『敵二体引き付けます! ご主人様、(あちら)の後衛はお任せします!』


『有難う御座います、ご主人様♪』


 第二エリア【土岩の回廊】の最深部、人の手の全く入って居ない柔らかい土が採取できる場所へ来た時には、彼女が傍に居るのが当たり前のような気持ちになっていた。

 メイドやご主人様云々は置いておいて、今までの桔梗さんの戦いを見る限り、固定PTを組むことは別にいいのではと思い始めていたのだ。


 だから――――


『使い古されたシャベル』と『平蔦製の土嚢袋』を使って土を入手した後、ガルガロの研究室へそれを持っていく際に彼女が俺の後に付いて来ているのに全く違和感を感じず、疑問すら思わずに自然に入室させていたのだった。




   ◆○★△




「進級試験のことは感謝している……が、だからと言って研究室にまで入れて良いというほどに僕はこのメイドを信用してはいない」


 ガルガロの言葉は尤もだ。

 研究室は文字通り、学生の研究結果を詰め込んだ部屋とも言える。秘匿を是とするMLOでは最も他人に見せたくは無い場所だろう。そんな研究室(しかも自分のではなくガルガロの)に、俺はほとんど面識の無い桔梗さんを連れてきてしまった。追い出されていないのは、偏にガルガロの優しさだと思う。もはや俺は身を縮こまらせて反省するしかない。


「ガルガロ様」


 不意に桔梗さんが口を開いた。


「なんだ」

「無許可で研究室に足を踏み入れたこと、本当に申し訳ありませんでした」

「……」


 深々と頭を下げる桔梗さんに、ガルガロは無言で視線を向ける。


「ですが、どうか解って頂きたく思います。私はただ…………ご主人様の御傍(おそば)にいつでも侍っていたいと願う一心なのです! ――メイドとして」


 ガクッ、と椅子から滑り落ちそうになった。

 その説得はどうなんだ? 冗談だと思われて逆に悪印象になると思うんだけど……。

 熱の籠った台詞を言った桔梗さんに対して、ガルガロは毅然とした口調で答える。


「その言葉を信用出来る根拠が無い」


 確かに。

 桔梗さんの言葉は全て自分の意思だけだ。何故、どうしての部分があからさまに抜けている。これではいきなりだけど信用してくれという方が無理な話だ。


「進級試験のことでカラムスの能力に目を付けて、どうにかして利用しようと思っている……という可能性は捨て切れない」


 ガルガロは俺の方にチラッと視線を向けてくる。

 その碧色の瞳からは何処か罪悪感を抱えているように感じた。

 もしかして、ガルガロは今の台詞がそのまま自分にも当て嵌まるというふうに思っているのだろうか? 俺が、ガルガロは俺のことを利用していると思うと、そう考えてしまったのだろうか?


 ――そんなことはない。


 自惚れかもしれないが、確かにそういう面が無いとは言い切れないかもしれない。

 だけど、ガルガロはそのことを考慮して互いに利用し合える協力関係という(てい)を取った。現状はむしろ俺の方が多く貰っている側なので、此方としては恩は感じても負の感情は全くない。


「メイドが手練れだというのは、この前の進級試験(たたかい)を見れば分かる。能力という点で言えば信用は置ける。――が、せめて『どうしてカラムスを(あるじ)と決めたのか』を納得のいく説明を以て説いてくれなければ、メイド個人を信用までは出来ない」

「……」


 ガルガロって、他者を拒絶してるように見えて実は凄く人が良いのではないかと感じた。

「信用できないから出て行け」ではなく、俺には「信用したいから納得のいく説明してくれ」と言っているように聞こえたのだ。いきなり自分の研究室(ひみつ)に踏み込んできた相手の無茶な要望に対し、そんな折衷案を出すなんて人が良いと言わず何という。

 ガルガロに対する俺の友達好感度は密かに上昇した。


「…………分かりました」


 桔梗さんは静かに頷く。


 ――あれだけユミル鉱脈洞の中で何度も訊いたのに答えてくれなった理由を、ついに聞けるのか!


 自分が何故ご主人様などと言われるようになったのか、気になって仕方なかった俺は椅子に座った姿勢のままで必死に耳を傾ける。

 だが……。


「それでは、お耳を少し拝借致しますね」


 桔梗さんはガルガロの耳元に口を近付け、俺に聞こえないようにひそひそと話していた。


 ――あれ? 結局俺には説明なしですか?


 少し、いやかなり残念だったけど、説明を聞いているガロガロたちの様子を見ているしかない俺。


「……は、…………なのに…………では……凄く……ですよね?」

「それにはまあ……しよう」


「私が……は……だけど…………が…………なのです」

「――は? うーん、そういう……も居るのか……?」


「だからこそ……は…………の……を…………したいのです。どうか…………下さい」

「…………」


 全く何を言っているのか分からない。

 ガルガロが困惑しているように見えるけど、果たしてどうなるのか。


「ガルガロ様も……と…………ではないのですか?」

「はあ!? どうしてそうなる!」


 ――うん? どうしたんだ?


 急にガルガロが怒鳴り声を上げた。

 見た感じ桔梗さんが挑発したのか?


「だって、ガルガロ様も……と同じ…………ですよね?」

「なっ……!? な、何を言っている」

「とぼけなくても構いませんよ。ちょっとした……や……は、……では…………ですから」

「……チッ」


 何だ? 何が起きているんだ?

 桔梗さんが俺を「ご主人様」と呼ぶ理由を説明しているだけだと思っていたが、いつの間にか桔梗さんがガルガロを追及しようとしているように見えてきた。

 どうする? 間に入って止めるか?

 誰が? 俺が? 他にこの場には誰も居ないけど、それでも俺が? 低コミュ力を自称する俺が?


 ――結論、無理です。


 すまないガルガロ。無力な俺には静観しているしか出来ないよ……。

 秘密の話は終わったのか、桔梗さんはガルガロから離れる。

 ガルガロは苦虫を噛み潰したような表情で桔梗さんを無言で睨んだままだ。

 その様子に桔梗さんは苦笑し、その直後、真面目な顔で言葉を加える。


「もちろんガルガロ様や、ましてやご主人様の不利益になるようなことは一切致しません。大抵の要望ならばなんなりと受け入れます。ですから、此処に居ることを許しては頂けませんか?」

「…………」


 俺とガルガロが協力関係を結んでいるということは、ユミル鉱脈洞でそれとなく話していた。

 此処、つまりガルガロの研究室に居ても良いかを訊くということは、俺たちの仲間になっていいかを訊くのと同義。

 態度から見れば桔梗さんに誠意があるのは感じ取れる。

 だけどそれは表面上だけだ。結局のところ、容姿、表情、性別、素性、全てが作り物のこの仮想世界で他人を信頼できるかは、ひとえに自分の勘しかないのだ。

 ガルガロは、いったいどのような結論を出す?


「……カラムスは、良いのか? 彼女が『仲間になる(ここにいる)』ことは」


 不意に俺に訊いて来るガルガロ。

 その見通すような眼差しが何を示しているのかは分からないが、求められたのなら素直な考えを話そう。


「俺は、桔梗さんなら大丈夫だと思うけど……。前衛としての実力も申し分ないし」


 実際に戦闘の相性も良かったし、色々と気を配ってくれているのを感じた。

 正直、ご主人様と呼ばれるのには慣れないが、嫌かと問われればその、特に忌避感は無いというか何というか。


「チッ……メイド萌えか」

「違うから!?」


 舌打ちするガルガロの言葉に否定を叫ぶ。

 違うんだ。そうじゃないんだ。俺は一般的な趣向しか持ち合わせていないんだ。

 決してメイドに興奮するとかそういう趣味は無い。……多分。


「まあそれはどうでもいい」


 ガルガロは吐き捨てるように言って桔梗さんの方を向いた。

 俺としてはどうでもよくはないんだけど……。


「条件がある」

「はい」

「僕と師弟を登録してもらう」

「かしこまりました」

「?」


 ガルガロの出した条件に、桔梗さんは即座に頷いた。


 ――だけど師弟? 師弟システムのことか?


 何故、師弟を登録することが条件に足り得るのだろうか。


「師匠側は弟子側の情報を常に知ることが出来る。位置情報やPT情報などな」


 MLOではPTを組まなければ相手の位置を把握することが出来ないが、師匠側は常に弟子の居場所や、誰とPTを組んでいるのかという情報を把握することが出来るという。

 俺としては別に知られても構わないことだけど、やましいことが在る学生(プレイヤー)なら嫌がるのか?


「この師弟登録(かせ)を条件として、メイドを僕たちの仲間に入れることを認めよう」


 何が決定打となったのかは分からないが、ガルガロの中で何かしらの決着が付いたようだ。


「ありがとうございます。これで何時いかなる時でもご主人様の御傍に侍ることが出来ます!」

『……』


 感謝の言葉を告げる桔梗さん。

 何故かガルガロに睨まれたのだが、俺は何となく気まずげに目を反らした。




   ◆○★△




「では、これからゴーレム生成を行う」


 椅子から腰を上げたガルガロは淡々と宣言した。

 誰かが余計な厄介事を持ってきたから予定から盛大に遅れてしまったが、と続けて恨み言をこぼす彼に、俺は無言の苦笑で返す。


「まずはゴーレムの核を造る。カラムス、例の物を」


 ガルガロの指示に、俺は取ってきた土を取り出した。

 袋のままそれを手に取ると、ガルガロは小型炉の上に置いた底の深い大きな鍋にその一部を投入する。

 斜め下に飛び出ている管の付いた中華鍋のような半球の鉄板を鍋の上に被せ、更にその上に同じような形の(ふた)をもう一つ乗せた。全て合わせると俺の首元くらいまでの大きさになる。


蒸留器(アレンビック)による【抽出】だ。現実ならばあり得ないが、MLOでの蒸留器では素材から様々な成分を【抽出】、【分離】などができるようになっている」


 ウィンドウ操作で小型炉に火を入れると、横に斜め下に突き出ている管から仄かに輝く黄色と黒色、青色の混ざったマーブル模様な液体が滴り落ちてきた。その液体をフラスコが受け止める。

 本当の蒸留器ならば、一番下の小型炉によって熱せられた鍋の中身が蒸発し、それを真ん中の半球鉄蓋で受ける。それを一番上の蓋に入った冷却水で冷やし、結露化して垂れてきた物が管から滴り落ちる設計となっている。

 しかし、普通はただの土を蒸留器に入れただけだったら、出てくるのはただの水分くらい。黄、黒、青のマーブル模様の液体が出てくるとは流石ゲームということか。


「やはりそのまま【抽出】しても色々と混ざっているな。なら次は【分離】か」


 ガルガロはフラスコに入ったマーブル模様の液体をろ過器に流し込む。フィルターに黒色の液体が残り、下のガラス瓶には黄色と青のマーブル模様の液体が零れ落ちる。


「この黒い液体は……ただの不純物か。使えんな、破棄」


 慣れた動作で黒い液体の情報をウィンドウ表示すると、要らない物と断定して早々に削除ボタンを押した。


「残るは『黄色』と『青色』か。青ということは水属性の成分か?」


 ぶつぶつと呟くガルガロは、今度はガラス製の小型蒸留器に先ほどの液体をセットし、オイルランプを点けてそれを熱する。原理はさっきの大きい蒸留器と一緒だが、こちらは水分系の【抽出】、【分離】に特化しているらしい。

 十秒とかからず、黄色に仄かに光る液体と青色の液体に分けられた。

 ガルガロが黄色の方の情報をウィンドウ表示して見る。


「……」

「ど、どうなんだ?」


 もし、俺の推測が間違っていて、精霊なんて宿っていないただの土を持ってきてしまったのだとしたら、今までの工程は全て無意味と化してしまう。俺にとっては此処が一番気になる所だ。

 ガルガロは此方に視線を向け、無表情な顔をふっと緩めた。


「成功だ」

「……!」


 情報ウィンドウを俺に見せてくる。

 そこには確かに【成分名:スピリット(土)】と書かれていた。


「これで精霊の宿る素材の確保条件は確立されたな」

「ああ」


 他の属性の精霊についても、今回の応用でいけそうだ。


「これを核とするのは確定として、【結晶化】しておくか? ……いや、他の素材との結合も考えれば液状のままの方が……」


 こうなるとガルガロの独壇場。

 俺と桔梗さんはもはや黙して見学しているしかない。


 ――こうして、ゴーレムの核が完成した。





「いよいよゴーレムの形状生成だ。此処からはカラムス、(きみ)がやってくれ」

「わ、わかった」


 錬金術で作り出した物は基本的に製作者の所有物となる。勿論、後で譲渡することは可能だが、そこはそれ、ゴーレムを造るというのはどうにも男心をくすぐる。


 ――つまりは自分でやってみたい!


 興奮する自分を必死に落ち着かせながら、俺は作業台の前へと移動する。


「今回は最初だからな、取り敢えずは土だけにしておこう」

「ああ」


 ガルガロはゴーレム強化用に様々な特性の土や岩などを集めていたようだ。

 今回、まずは実験という意味合いが強いので、普通に何処でも採取できる土だけを素材としてゴーレムを生成することにした。

 俺はシングルベッドほどの広さの作業台に描かれた魔法陣を軽くタップする。

 すると【生成陣設定画面】と表題されたウィンドウが目の前に表示された。


「まずは……形状の選択か」


 球状、正六面体(キューブ)状などのシンプルな立体系や、持ち物の中から元となる形状を選ぶことも出来る。他にも、選択肢の幅が大きいので画面上に無いものでも選べる検索欄すら存在した。

 俺は検索欄に【人型】と入力して検索。いくつかの単純構造(シンプル)な人型サンプルが表示された。その中から、間接部分の構造がしっかりとしてそうな物を選び、決定する。

 次は部位の素材設定だ。

 選択した形状の立体映像とそれの部位名が表示される。部位名を選択するか、もしくは立体映像の部位に触れることで、その部位に使う素材を設定できるようだ。

 最初に決めた通り、胸の中心に位置する部分に先ほどの【スピリット(土)】を、あとの部分は全て土に設定した。量は……土嚢袋4つ分くらいにしておくか。ちなみにユミル鉱脈洞で確保してきた量は全部で20袋だ。重量に変換すると400キロ以上もある。鞄に入れた時はつくづく此処がゲームの中なんだなと思った。


「カラムス」

「ん、なんだ?」

「少し【水】も混ぜておいた方が良いんじゃないか? 一応粘土質な土だが、『繋ぎ』が無いと脆くなりすぎるかもしれない」

「なるほど」


 ガルガロの注釈に俺は頷く。

 確かに土だけではボロボロとし過ぎてしまうかもしれない。水を混ぜれば少しは結合性が良くなるかもしれない。


 ――まあ実験だしな。


 成功はしてほしいが、失敗も当然覚悟している。

 俺は、ゴーレムの身体の素材を土と水とを3:1の割合で設定した。


「じゃあ……ごくり。造るぞ?」


 意味不明に緊張して喉を鳴らし、後ろを振り向き2人に確認する。


「ああ」

「頑張って下さい、ご主人様」


 声援に頷き、俺は神妙な気持ちで生成陣に両手を置いた。

【喚起の書】の魔法陣と同じく、始動キーの発声をトリガーにして、生成陣に置いた両手から魔力を流し込むらしい。


「……【我、魔の法を紡ぐ】」


 始動キーを言った直後、赤い光が徐々に生成陣を浸食していく。

 そして、全てが赤く染まった次の瞬間。


 ボフン!


「ゲホッゲホッ……な、なんだ!?」


 突如、白煙が勢いよく広がった。

 視界が殺され、何も見えなくなる。


「もしかして……何か失敗したのか?」

「いや――――違う」


 茫然とする俺の横でガルガロが鋭い視線を作業台の方へと向けた。

 窓も開けていないのに次第に煙が晴れていく。

 そしてようやく回復した視界で作業台の方を見ると――――


「なっ」

「む?」

「まあ」


 そこには。


「…………うー?」


 作業台の上に胡坐を掻いて座り、あどけない幼さを内包する大きな瞳で不思議そうに此方を見てくる、全身が土色の――――『裸の』美少女が居た。

無骨な土人形なんていったい誰が喜ぶっていうんだ!?

やっぱりゴーレム造るんだったら『ゴーレム娘』だろオイぃぃぃ!!


…………失礼、興奮しました。

これに懲りず、今後もどんどん女の子成分を増やしていこうと思います。


次回『第五話 ゴーレム娘育成記』 お楽しみに。

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