第十話 PT戦闘
現実世界時間20:00:12。
仮想世界時間14:54:32。
学園城下部、実技棟の真下に位置する地下へと続く通路。
学園地下迷宮へ行くのとはまた別の階段の手前、そこが水島たちとの待ち合わせの場所だった。
「…………」
準備を終えた俺は10分前くらいから壁に背を付け、白紙の魔導書で魔術構築画面やノートを眺めながら彼らが来るのを待っていた。自分の名前を表示する設定にしているので、頭上の体力魔力ゲージの上に【カラムス】と表示されている。水島たちには事前に俺のアバターネームは告げてあるので来ればすぐに分かるはずだ。
「――ん?」
現実世界の時間表示がゆっくりと40秒を示したその時、通路の向こうから数人の足音が聞こえてきた。
視線を向けるとそこには3人のプレイヤーの姿。そのうちのひとり、端正な顔つきの男性プレイヤーが俺を見てすぐに声を掛けてきた。
「えーと、ちょっといいか? 真鍋、でいいんだよな?」
「そういうそちらは、水島か……?」
「おう。っと、MLOじゃ【ウィント】で通ってんだ。よろしくな!」
そう言ってニカッと笑みを見せる水島――ウィント。現実ではどちらかというと童顔なのでアバターと顔の作りは似ていないが、その無邪気な笑顔は確かに水島を彷彿とさせていた。
「ではそれがしも。こちらでは【切満邪露】と名乗っているで御座る。長いのでテキトーに略して貰って構わんで御座るよ。以後、お見知りおきを」
ちょんまげ頭の武士然としたゴツイ男性が続く。
声は違うがこの話し方は、まさか太田か。学校では変な話し方だとは思ったが、このような見た目だとしっくり来るのが不思議だ。
「じゃー次はワ・タ・シ・ねっ♪ 名前は【フェリシアーナ】よ。フェルって呼んでね? きゃるーん☆ よろしくねー」
――――誰?
第二次性徴が始まったばかりの中学生くらいの女の子。ロロ美より若干年上な感じか。肩にかかるくらいのくるくるとパーマのかかった桃色のふわふわな髪、えくぼを見せるほどに笑みを浮かべる口元とは裏腹に、☆マークが入った大きな翡翠色の瞳は小悪魔的に薄い笑みを浮かべている。
外見は置いておいて、俺の知っている水島の仲間にこんな性格の女子なんて居たか? こんな、なんというか痛々しい性格の女子が……。
「…………」
「きゃるーんっ☆ どうしたのー?」
「お前だ、お前。お前が原因だっつーの」
「元カタギにお主のような変人を会わせるのは少しばかり早かったで御座るかなぁ」
「えー、ワタシのどこが変人なのー? ぷんぷんっ☆ おこだよ、激おこだよーっ」
「キモいわ!」
「キモいで御座る」
「ぶーぶー!」
「…………す、すまないが、その、彼女は水し――じゃなくて、ウィントの知り合いか……?」
唇を尖らせ、両拳を突き上げて抗議する桃髪少女フェリシアーナと、その彼女に率直な物言いをするウィントたち。この仲の良さそうな雰囲気はやはり、学校の水島たちの仲間の一人なのだろうか。
「やっぱ、分っかんねーよなぁ」
「普通は気付かないで御座るなぁ」
「きゃるるーん☆」
「……?」
神妙にうんうん頷く男2人とよく分からない効果音を言っている少女。
そして頭に疑問符を浮かべ首を傾げる俺。
――だから、誰なんだ一体。
「正也だよ、飯倉正也。あのボサボサ頭の」
「……え」
飯倉、正也。
確かそれは今日の昼に紹介して貰ったクラスメイトの名前ではなかったか?
どこかボーっとしていて間延びした口調の、ボサボサな髪以外、特にこれといった特徴のない男子生徒だった。
だったのだが……というか、それって……。
「…………え? その……おと、こ?」
「むー、ぷんぷん! リアルのことを持ち出すなんてマジKY!!」
「ははっ。まあぶっちゃけるとさ、こいつ『ネカマ』なんだよ」
「ねかま?」
「ネットDEオ・カ・マっ! つまり、現実では男なのにネトゲでは女アバターでプレイしている者のことで御座る。ちなみに逆パターン(現実:女、ネトゲ:男)は『ネナベ』というで御座るな」
な、なるほど……。奥が深いというか、深淵に続いているというか。
とりあえず深く突っ込むとお互いにただで済みそうにないので、追及するのはやめておこう。個々人の趣味に口出しするべきではない。うん。
「真鍋……じゃねえよ、えーとカラムスはネトゲ初心者だろ? だったら気を付けろよ?」
「と、いうと?」
「ネトゲで惚れた女がリアルではおっさんだった……というのは年若い初心者にはよくある話で御座る」
「ひどい話だよねー、きゃるるーん☆」
「お前みたいなのが多いせいだろが」
「…………そうか。なんというか、世知辛いんだな……」
――というか。
ちょっと待て。それを言うのだったら、もしかして緋奈やロロ美も男……しかもおっさんな可能性もあるってことか!?
「……(ずーん|||)」
やばい。想像しただけでテンションがだだ下がりになった。
これはあまり深く気にしない方がいいのかもしれない。
「まあ、これはこういう生き物だと思ってれば問題無いって」
「で、御座るな」
「ちょ、ワタシの扱いが酷過ぎる件についてー!」
「その案件は却下されました」
ま、まあ、とりあえず、これで今回のダンジョン探索のメンバーは揃った。早速目的のダンジョンに向かいたいのだけど……このフィリップたちに負けずとも劣らない個性的なメンバーを前に俺はしっかりとついていけるのだろうか?
賑やかな彼らの影で、俺は小さく溜息を吐いた。
◆○★△
「カラムスはこの場所は初めてか?」
「ああ。今までダンジョンといえば学園地下迷宮にしか行ったことはないな」
「ふむ。ならば此処は知っておいて損はないで御座るよ」
「というかー、ふつー知ってて当然だよねー☆」
「まあ攻略サイトに載っている程度の情報は知っているけど」
俺たち4人は階段を下り、西側の学園地下迷宮とは反対側の地下へと来ていた。
その場所は廃坑跡のように地中を掘削しただけの、ただ広い洞窟内といった様相だった。所々に設置されている松明と降りてきた階段以外に人工物は無い。此処がただの洞窟と違うのは、広く薄暗い空間の至る所に『渦を巻いた光陰』が存在しているという所か。
「【空間歪曲路】……通称【歪路】に到着だ!」
魔素によって歪められた空間と空間を繋ぐ入口が存在する場所。それが実技棟の地下にある歪路洞窟だ。洞窟内にちらばる渦を巻いた光陰というのが様々な場所へと繋がる扉のようになっているらしい。例えば、洞窟の入口に一番近い渦へ入ると今回の目的地であるルーン洞窟へと転移できるというわけだ。
ちなみに、洞窟内の各渦――歪路の場所は一週間毎に変化するので、どの歪路が何処のダンジョンへ繋がるのかは、出来れば攻略サイトの【今週の歪路情報】はしっかりと確認しておいたほうが良いだろう。
「んじゃま、行くとしますか! POTの準備はおk?」
「ぽっと?」
「あーすまん。ポーションな」
「ああ、それなら出来るだけ買ってきた」
「無くなってきたら此方の渡すで御座る。回復は頼むで御座るよ後衛殿」
「了解」
「攻撃はフェルちゃんたちにおまかせっ☆」
「いや、俺らは出来るだけ壁に専念してカラムスに倒させようぜ? 経験値の問題もあるし」
「それもそうで御座るな」
「きゅるるーん☆ そういや、まだレベル4だったっけ?」
「さっきレベル5に上がったが……」
「とりま、今日の目標はカラムス10レベル以上、ルーン文字10個以上ゲットな!」
『おー!』
「よ、よろしく頼む」
そしてウィントを先頭に、俺たちは目的地であるルーン洞窟に続く歪路へと足を踏み入れた。
◆○★△
――歪路を抜けた先は、ルーン洞窟でした。
初めて通る歪路。光陰の渦に触れる際は少し身構えたのだが、想像とは裏腹に何の感触も違和感も無くするっと通り抜けた。まさに別々の場所にある空間が普通に通路で繋がっているかのような。違和感があったのは急激に景色の変わった視覚だけだった。
「……此処が『ルーン洞窟』か」
転移先は既に洞窟内で、少し開けた場所に一本の通路が奥へと伸びている。
ルーン文字各々が上下左右様々な場所で蛍光し、そしてしばらくして消えていく。一つ一つの光は弱いが、その繰り返しで洞窟内は比較的明るさを保っていた。
――不思議な雰囲気を持つ場所だな……。
自然と気が引き締まり、白紙の魔導書を持つ手に力が入る。中堅レベルのウィントたちが居るには居るが、このダンジョンの本来の適正レベルは10以上だという。適正の半分しかないレベルの俺は気を抜けば昨日の二の舞だ。
「先頭フェルで、次が俺。カラムスは三番目で、殿がジャロな」
「ふあ~い☆」
「わかった」
「委細承知の助」
ウィントの指示で隊列を組んで進む俺たち。明滅するルーン文字のお蔭で足元はよく見えるがそれでも洞窟、石ころが転がり足場は悪い。
「さてさて~それじゃあ……サーチ・アンド・デストローイ♪」
水色半袖半ズボンにベレー帽、胸元に髪と同色の桃色の大きなリボンを付けたガールスカウトといった服装の彼女は、パーティーでは文字通り斥候を担当する。進行方向の敵を発見して戦力を分析したり、張り巡らされた罠を看破して解除する等、ダンジョン探索での先鋒を務める大事な役だ。
なにやら物騒な事を言いつつ、先頭を往くフェリシアーナが横向きピースを目元に持ってくる。
「【プリティ・ソルティ・レモネード♪】【ルーン:車輪】! ……なんてゆーか勝手に雷蔵って脳内ルビ振っちゃうのはワタシだけ?」
詠唱と共に彼女の右眼の斜め下、泣きぼくろがある辺りに刻まれたルーン文字が輝く。
――ライゾー?
俺は事前にノートにメモっていたルーン文字の意味表を見た。
【ライゾー】は車輪や旅を意味するルーンだ。転じて移動先にある危険を暗示する、視野が広がる、不慮の事故を防ぐという意味がある。刻む場所を『目元』にすることで、一定の範囲の敵の方角と数をアイコン表示で教えてくれるらしい。
「きゃるーん☆ 前方T字路、右の通路から反応3、近付いて来るよー!」
「うおし、俺がまず行くわ。ジャロ、カラムスの護衛ヨロ! フェルはスイッチの準備!」
「御意に御座る」
「フェルちゃんにおまかせっ☆」
「タゲは引き付けるからカラムスはテキトーにぶっ放せ! ――あ、でもフレンドリィ・ファイアだけは勘弁な!」
「り、了解」
通路の向こうに敵を示すアイコンを確認した彼女(彼?)の報告から、ウィントは即座に各自に役割分担を指示した。
俺の役割は後衛職の本領、火力として、だ。一番ダメージを与えた者が多く経験値を取得するというシステムなので、ウィントたちが敵を抑えている間にレベルの低い俺がダメージを入れて倒すという作戦だ。
「――じゃ、行くぜぇぇぇ!! 【天知る地知る俺知らん】! 【ルーン:野牛・防御・氷】!!」
初期装備の制服のズボンと白Yシャツ、その上に胸鎧と肩当、籠手、脛当を纏い、片手剣とバックラーを持つウィントはガチガチの戦士タイプだ。
フェリシアーナの代わりに先頭に立ったウィントは気合を入れ、3つの効果持続系ルーン魔術を発動させる。
片手剣の刀身に刻まれた【野牛のルーン】の効果は物理攻撃力の上昇。
胸鎧の中心に刻まれた【防御のルーン】の効果は物理・魔術防御力の上昇。
喉元に刻まれた【氷のルーン】の効果は声を聞いた敵の意識を自分へと束縛する。
「来るよー!」
警告の一声の直後、前方の曲がり角から3体のモンスターが現れた。
腰布にドングリのように尖ったノルマンヘルムを被った骸骨が2体。そして鎖帷子を纏った骸骨が1体。全員が片手剣と円盾を装備している。ジャラジャラ、ガシャガシャと耳に触る音を立てながら、白骨の戦士たちは光無き双眸を此方へと向けた。
「【ヴァイキング・スケルトン】で御座る!」
「雑魚だ雑魚! オラ、お前らの相手は俺だっつの!!」
ウィントはバックラーを構えながら前進。声を上げてスケルトンたちの意識を自分へと向けさせた。
「カラムス殿!」
「ああ……!」
ウィントに攻撃を仕掛けるスケルトンたちを約10m後方から見据えつつ、俺は右手を前に掲げた。
――後衛に求められるのは使用魔術の正しい選定だ。
ウィントたちが言っていたように、攻撃魔術を味方に当ててしまうこともある。前衛と敵の位置関係と自分の攻撃魔術の軌道範囲を正確に把握し、味方に当てないような場所から放つ、もしくは呪文の【事象】要素を味方を躱して敵に当てるように変える必要がある。
現在の位置関係は、俺の左斜め前に切満邪露、彼から数m前方にフェリシアーナ、俺の正面10m前方にウィント、彼の周りにスケルトンが群がっている。
左側に味方2人、前方の味方1人を隔てて敵3体。最初に習った火の玉の呪文では、壁役のウィントに遮られて上手く敵に当たらないだろう。
――だがしかし、これらの状況も既に予習済みだ。
「【我、魔の法を紡ぐ】【掌前に生じし火の玉よ、風を含みて熱く燃え滾れ、艮に弓形の軌跡を描き、眼に映る敵へ、颯然と飛び出せ】!!」
正面を中央とした二十四方位にて右上を表す【艮】、放物線を描く【弓形の軌跡】を組み込んだことにより、放った火球は仲間の居る左側の反対である右側を孤を描いて風を切る。
ボォォオオオ――――ドガァァン!!
そしてウィントの右手から回り込むようにして彼が対峙していた1体に直撃。体力ゲージを4割ほど削るダメージを与えた。
「お前らの相手はこっちだ、こっち! ……ちっ、タゲそっち行ったぞ! ジャロ!」
攻撃魔術を食らったことにより腰布スケルトンの意識――敵愾心が俺へと向いた。与えたダメージ量に比例して増加するというその数値が、ウィントの魔術効果のある挑発を超えてしまったようだ。今後は威力強化には気を付けなければならないな。
「承知にィ……アッ、御座ぁ~るぅ~!」
着流しを纏う浪人といった風貌をする切満邪路は俺の前へと飛び出て腰の両手剣を抜いて正眼に構えた。彼も既に2種類のルーン魔術を発動している。
「ハアアアアアア!!! で御座るぅぅぅ!!」
裂帛の気合と共に切満邪路は迫り来る骸骨へと斬りかかった。思わず前進を止めて円盾で受け止めるスケルトン。斬り合いが始まった。
――これ以上、敵に接近を許すのは危ないか。
多少装備を整えたといっても俺にとっては敵は格上、まだまだ防御力は心許ない。次の攻撃を加える前に、まずは敵の力を削ぐ。
「――【我、魔の法を紡ぐ】【風よ渦巻け縄と成れ、眼に映る敵の四肢へと搦み、其の動きを束縛せよ】!!」
ダンジョンに限らず、全ての空間には属性が存在する。
火や水などの属性を持つ場所が限られているが、風属性は基本的に大気が在る場所には必ず存在する(強弱はあるが)。そして、魔術はその場所の属性を媒介にすることで効率を上げられるという特性を持つ。
――つまり、今回の場合で言うならば。
ゴオオオオ……!
洞窟内の大気を媒介にした風属性魔術は、通常よりもその発現位置の範囲が広がる。切満邪路越しのスケルトンの周囲に直接、風の縄が生じて白骨の躰へと纏わりつき、その動作を緩慢にさせた。
「うおっほー! 絶好のカモで御座るぅぅぅ!!」
鈍い敵に調子付き、大剣で滅多打ちにする切満邪路。
俺は再び風属性を用い、切満邪路と対峙するスケルトンの背後から風の玉を打ち込んだ。
――よし、後一撃入れられれば……。
「……?」
次の詠唱を開始しようとした時、ふと視界端に映るPTメンバー一覧が目に入った。見ればウィントの体力ゲージが3分の1を切りそうだ。
「カラムス、回復ちゃんヨロ!」
「わかった!」
フェリシアーナに援護されつつも一人で必死に2体のスケルトンを引き付けているウィント。胆力が強いのか、それとも慣れなのか。リアルな動く骸骨標本を前にしても少しも怖気づいていない。
――前衛は前衛の仕事をしている。
ならば後衛である俺もまた、自分の役割をしっかりとこなさなくてはならない。
「【我、魔の法を紡ぐ】――――」
現在、MLOで確認されている回復魔法は2つ。ひとつは『契約魔術』、もうひとつは『ルーン魔術』。しかし、そのどちらともまだ一般的な手段ではない。扱えるプレイヤーが限られ過ぎているのだ。
だが、PT戦において前衛の回復は必須。前衛を複数人用意してローテーションで後退してポーションを飲んで回復、というやり方もあるらしいが、いつでもメンバーがちゃんと揃うわけでもなし、効率も悪い。
そこで編み出されたのが…………『ポーションを使った魔術』である。
俺は肩にかけたショルダーバッグから回復ポーションを取り出して小瓶の蓋を開けた。
「――――【掌中の薬液よ、眼に映る味方へ飛び、其の身に浸み込め】!!」
右手に持った小瓶の中から緑色の液体が飛び出し、前方のウィントをパシャァァンと覆い濡らした。一瞬びしょ濡れ状態になるが、次の瞬間には体に浸み込んで消えてしまう。ウィントの体力ゲージが8割まで回復した。
これは攻略サイトにも載っている現在初心者たちの間でもっとも使用頻度の高い回復用呪文だ。お金はかかるが、その代りポーションのランクを上げても呪文が変わらないため消費魔力も変わらない。普通に飲む場合はゆっくりと徐々に回復していくのに対して、呪文として魔力を籠めて【浸み込め】と事象操作要素を入れることにより即座の回復を可能としている。属性媒体も水属性を持つポーション自体を扱っているので、実際には【対象に向けて飛ばす】と【浸み込ませる】にしか魔力を使っていないため、消費魔力も【6】と実にお得なのであった。
「サンキュ! せやああ!!」
ウィントはヘイト上昇効果のある声を張り上げて剣を振り回す。
「きゃるるるる~ん☆」
フェリシアーナは双方のブーツに刻んだ【馬のルーン】を発動、移動速度を上昇させて戦場を駆け巡り、短剣でヒットアンドアウェイを繰り返す。
「御座る! 御座る! 御座る! お猿! 御座るぅぅぅ!」
切満邪路は腕と剣の両方に刻んだ【野牛のルーン】より増した攻撃力により相手にしていたスケルトンを瀕死の状態へと持っていく。
そして俺は――。
「――【我、魔の法を紡ぐ】……」
経験値ボーナスが追加される、LAのために詠唱に入った。
◆○★△
「よーし、この調子でどんどん行くぜ!」
「POT残りはどうで御座る?」
「えっと、あと27個……だな」
「ワタシたちもいっぱい持ってるし、よゆーよゆー♪ さぁ次いってみよ~!」
特に危なげなく戦闘を終了させた俺たち。止めの一撃は全て俺が貰ったため、ドロップアイテムもほとんど俺の持ち物になっている。分配は探索終了後にするらしいので今はこのままだ。
――上手く出来た……よな?
複数の魔術を用いてのPT戦闘は一応これが初めてとなる。事前に練習はしていたとはいえ本番ではどのような不測の事態が起こるか分からなかった。
起こりうる全ての事態の可能性とその対処を考え備える、を信条にしているが、逆に言えば、備えた中で対処しようという固定観念が生まれ、備えた中に無かった不測の事態への対処が遅れるという短所を持つ。
予測外の出来事への即興対処を鍛えること。それが今後の俺の重要の課題となりそうだ。
回復魔術は、時間経過でどんどん新しいものが開拓されていきます。現在は2つ+POT魔術のみ、ということです。