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後編

「しかし……外は危険です。強い魔物もいます」

 大臣は困ったように言い、国王の様子を伺っている。

「そうか。だったら仕方がない」

「はい、そうですよ」

 安堵したかのように笑う大臣。

「レベル上げをしながら進もう」

 国王は再び部屋に戻ると、タンスの一番下の引き出しになる短剣ーー護身用として前国王から譲り受けたーーを取り出した。持ち手の真ん中辺りに青い宝石がはめ込まれているものの、剣としての切れ味は最高だと父が語っていたのを思い出す。

 国王は鞘に刃を収めたまま軽く素振りをしてみた。しかし短剣など使ったことがないため、自分の実力がどうなのかさえ分からない。分かるのは、数回素振りをしただけで疲労を感じるということくらいである。

 そして再び大臣の前に立つと、大臣は呆然としていた。

「今、なんとおっしゃいましたか……?」

「レベル上げをしながら進むと言った」

 国王は自らの短剣を大臣に見せつける。

 すると大臣は驚いたように叫び、ひっくり返った。

「どうした? 強い敵がいるなら強くなるしかないだろう? 大体勇者だって最初はレベル一から始めるものだと聞いたことがある」

「それは伝承の中の話です!」

 大臣は慌てふためき、ドアの前で両手足を広げた。そこからは絶対にダメです、という意思が感じられる。

「伝承とは昔にあった話だろう?」

「いえ、伝承というのは大抵脚色が含まれているものです。全部が全部事実というわけではないんですよ」

「事実かどうかはどうでもいい。魔王を倒すべき勇者が行方不明である以上、世界が支配されるのも時間の問題。早急に勇者を探しださなければ」

「国王様……」

 大臣の不安をよそに国王は身支度を整えた。自慢の剣を鞘におさめ、腰につける。

「どちらまで捜しにいくおつもりで?」

「もちろん、勇者がいる場所までだ」

 国王は大臣を振り向く。大臣は不安げに自らを見つめ、止めたそうにしている。

「お供はどうするおつもりですか?」

「そうだな……私が不在の間、国の警備が手薄になるのも心配だ。よって一人で行く」

「国王様、それは無茶にも程があります!」

「大勢で行ったところで目立つだろう。私はあくまで勇者を捜しにいくだけだ」

「どこまで、行くおつもりですか?」

「勇者がいるならば、天界でも魔界でも、海の底でも私は行くつもりだ」

 国王ははっきりと注げる。

「そんなところまでいけるはずありません!」

「最初に言っただろう? レベル上げをしながら進むと」

「ま、万が一勇者が魔王に囚われていたらどうするつもりで……?」

「もちろん勇者を助け出し、魔王を倒すようにたのみこむのみ」

「それではまるで国王様自身が勇者でございます」

「私はあくまで国王であり、勇者ではない。勇者は、勇者の子孫に任せるつもりだ」

「はあ……しかしあまりに早急でございます。もう少し様子見をしてはいかがです?」

 心配そうに自分を見つめる大臣に、国王はしばし思案した後、優しく微笑んだ。

「そうだな。少し焦りすぎたようだ。お茶でも飲んで落ち着こう。悪いがお茶の用意を頼む」

「はい、ただいま用意させます」

 大臣は安心したように、しかし早足で部屋を飛び出した。

 その後姿を見送り、国王は呟いた。

「さて、今のうちに城を出て勇者を捜しに行こう。こんな大切なこと、人任せにはできないし、急を要する。魔王を倒してでも勇者を見つけなければ……」

 国王は大臣が戻らない内に、こっそりと城を抜けだしたのだった。あとで城の中が大騒ぎになったが、それはまた別のお話……。



読んでいただきありがとうございました。

続編? そんなもの考えてません。

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