晴れ、トキドキ魔法少女
すみません。こんな話ですみません。
出来心ですw
「ふはは! このスーパーの食材を全てダメにしてやるわ!」
「イーッ!」
黒いマントに覆面レスラーのような黒いマスク。
額には「悪」一文字。
黒のマントの背にも大きく「悪」と一文字染め抜かれている。
そんなどう見ても怪しいコスチュームに身を包んだ男(多分)が、手下を引き連れてとある街のスーパーを襲撃していた。
手下達は、真っ黒の全身タイツ。
目と鼻と口だけが露出していて、やはり額には「悪」の一文字。
掛け声と相まって、「どこぞの下っ端戦闘員かよ!!」とたまたまスーパーに居合わせた客から激しい突っ込みを入れられていた。
「だまれだまれ名も無き市民め!」
「イーッ!」
全身タイツの手下達は、スーパーの食材コーナーに置かれている生鮮食品に対して、何だかよく分からない黒い液体をぶっかけている。
これでは食材達は全て破棄されてしまうだろう。
「な、なんてショボい悪事を!!」
「だまれだまれ名も無き市民め! ショボくないぞ。これで近隣住民の今晩の食卓のオカズは全て冷凍食品かレトルトになってしまうのだ!」
何と表現したらいいのだろうか、このショボさ。
いや、スーパーの経営者にしてみればたまったもんじゃないのだろうが、偶然居合わせた名も無き市民達は皆こう思っていた。
「どう考えてもショボくね!?」
最近このとある街に出没する自らを「悪の組織」となのる悪の組織。
やることと言えば、今回のようなスーパーの襲撃。
公共施設の非常ベルを無闇矢鱈に鳴らしまくる。
住宅街に発煙筒を放置し、火事騒ぎや異臭騒ぎを起こす。
エトセトラエトセトラ。
明らかにショボい。
いや、される方にしてみたら全くもってたまったもんじゃないのだが。
悪質ではある。
そして、行動範囲が非常に限定されている。
このとある街のとある地区にしか現れないのだ。
いや、テレビでおなじみの悪の組織もそういう部分はなきにしもあらずだが。
その不自然さはさておこう。
「ふはは、これで今晩の食卓は安全だ!!」
マントの男(多分)が高笑いする。
「っていうか、安全ってどういうことなの!?」
偶然その場に居合わせた客達は、心の中でそうツッコんだ。
まず「悪の組織」なんてものが存在することについてツッコんでいただきたいものであるが、この地区の皆さんは、悪い意味で慣れっこになってしまっていたのだ。
こういった事件に。
客の誰もが「そろそろ来るかな~」と思っていた。
果たしてその誰かは現れた。
「天知る地知る私が知る!」
無駄に可憐な声がスーパーの業務用スピーカーを通じて響き渡った。
「ここに悪がいることを!」
聞く者を「どきどき」もしくは「萌え萌え」させる可愛らしい声。
台詞の後ろに必ず「キラッ☆ミ」と追加ボイスが入りそうな程である。
「こ、この声は・・・!!」
「イーッ!」
マントの男(多分)が狼狽えたように辺りをきょろきょろと見回す。
釣られたように手下達も額に手を横に当てきょろきょろしている。
「愛と正義の魔法少女! 本気狩るミーシャ、ただいま参上!!」
放送ではこの字面は伝わらないはずなのだが、何故か客達にはそう聞こえた。
「現れたな、魔法少女ミーシャめ!!」
「イーッ!!」
「悪の組織め! 街の今晩の食卓を壊滅させようとするその所業! この私が決して許さない!」
我が家の今晩予定していたメニューを壊滅させようなんて許さない。
具体的には、そう魔法少女は考えていた。
「野菜もお魚もお肉もダメになったら、我が家の今日の晩ご飯が冷食になっちゃう!」
魔法少女ミーシャこと丸鹿美紗(26歳、新婚)は本気で怒っていた。
愛すべき旦那様に冷食やレトルトなんて。
「手抜きかよ、とか思われたら美紗困っちゃう!!」
その前に、『26歳新婚、でも魔法少女ってどうなの!?』と美紗は自分でも思っていたが、事実だから仕方が無い・・・。
そう、アレは二ヶ月程前のことだった。
愛すべき旦那様(29歳、新婚)を仕事へと送り出してから家事をこなしていた美紗は、急に頭部に加えられた打撃により意識を失った。
本人の与り知らぬことではあるが。
美紗の前には一匹の白い猫。背中に翼が生えていたりしたが。
その猫は、美紗を見て、開口一番こう言った。
「ボクと契約して魔法しょうjy(以下自主規制)」
自主規制により台詞は最後まで聞こえなかったが、その白い猫は意に介した様子もなく話を続けた。素晴らしいスルー力である。
「要するに、この街に悪の組織が現れて悪事を働くので、魔法少女になってそいつらを撃退しろと?」
「その通りだよ!」
「それはいいんですけど、私、26歳ですよ?」
当然の疑問である。
○○女子なんて言葉が流行っているが、さすがに26歳を少女とは。
いや、いえないとまではいわないが疑問がギモンギモンするのである。
「ふふふ。そこは契約さえしてくれれば! ボクの本気狩るパゥワーでどうとでも!」
「具体的にお願いします」
「つまりですねぇ・・・」
まるで凄腕セールスマンのようなトークであった。
「要するに、変身した姿は『魔法少女』だってことですね?」
「そういうことだよ!!」
世の少女達の夢「魔法少女」
そのイメージにまさしくピッタリという姿に変身できるらしいのだ!
身長は縮むし、それなりにナイスバディな体もつるぺたになってしまう。
しかし、すべすべでつるつるなお肌になれる。
そして、美少女。
「わかりました。契約しましょう!」
「そう来なくっちゃ! 本気狩る本気狩る、魔法少女になぁ~れぇ~♪」
そうして、今に至るのだった。
現実には有り得ないようなピンク色のツインテール。
そのバランスどうなの・・・と言わんばかりに大きなおめめ。
ぷるんぷるんの唇にすべすべお肌。
フリフリの可愛らしい衣裳に身を包み、手にはハートのついた魔法のステッキ。
「というわけで、貴方達は私が本気狩る!」
ウィンク一つ。
美紗改めミーシャの周囲に星が散り、ハートマークが乱舞する。
「やれるものならやってみろ! いけ、戦闘員ども!!」
「イーーーーッ!」
ワラワラと戦闘員がミーシャに迫り来る。
「えいっ! 本気狩るビーム!」
「イーッ!!!」
魔法のステッキ一振りで戦闘員共をバッタバッタと薙ぎ倒す。
「ビームなのに薙ぎ倒すってどうなの?」
たまたま居合わせた名も無き市民達はツッコむのは心の中でだけだ。
なぜなら、とある街の魔法少女はみんなの人気者だから。
「く、くそっ! いつもいつも邪魔しおって!!」
「この街の、そしてみんなの食卓は、私が守る!!」
ビシッとキメポーズ。
「無駄に派手なエフェクト散らしおってえええええっ!!」
「これでお終いよっ! 本気狩るハートボンバー!!」
ステッキの先から巨大なハートマークがマントの男に向かって発射される。
避けようとするマント。
だが、当然ホーミング付き(無駄に高性能)のハートマークは決して敵を逃さない。
命中。
そしてピンク色の爆発。
「おぼえてろ~お!!!」
捨て台詞をエコー付きで残してマントの男はキラリとお空の星になった。
当然手下共はいつの間にか消えていた。
「本気狩る、完了っ♪ キラッ☆ミ」
キメポーズ。
ヒラリとフリル付きのミニスカートを翻して魔法少女は路地の向こうへ消えていった。
「ありがとう、魔法少女ミーシャ!!」
「でも、結局食材はダメになってしまったのよね・・・」
後には、がっくりとうなだれるスーパーの店長と客が残るのみだった。
「空しい勝利だったわね・・・」
「悪は討ち果たしたんだから結果オーライだよ!!」
何食わぬ顔で現れた美紗と白猫。
遠出するのもイヤだったので、レトルト食品と冷食を買って帰ったのだった。
その夜。
「ごめんね、あなた・・・。悪の組織のせいでレトルトと冷食ばっかりで・・・」
「いいんだよ、美紗。気にしないで。美紗の愛情でカバーできる範囲だよ!」
落ち込む美紗を旦那様の煌めく笑顔が慰める。
「ありがとう、あなた。ご飯のおかわり持ってきますね♪」
そういって美紗がキッチンに姿を消した後。
「ふう・・・。一週間に一度くらいは、美紗の危険な料理じゃないご飯が食べたいよね。これだけが美紗の欠点だよね・・・」
食卓に旦那のため息一つ。
「今回もどうにか上手くいったねぇ・・・」
旦那様はそう呟くのだった・・・。
頑張れ、本気狩る魔法少女ミーシャ!
料理の特訓が、勝利への近道だ!
本気狩る本気狩る言って見たかっただけなんですっ!
こんな作品をお読みいただきありがとうございます。
ドキドキならともかく、トキドキだったら魔法少女も困るかなw




