表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
合わせ鏡の刻印  作者: 黒糖ナイン
4/8

3 巫女の資格

「うへぁぁぁ……」


アーノルドの案内で辿り着いたのは、シンプルではあるが質の良さそうな品をあつらえた寝室だった。


部屋の中央には天蓋付きのベッドが鎮座しており、その中央に恵がうつ伏せになって寝転がる。


「お疲れなのは解るけど、制服しわくちゃになるよ?恵。」


「んむ……良いよぉ、アイロンかけるもん。今は寝たい……」


「この世界にアイロンあるのかなぁ……こら、せめて靴は脱いで…あ、いや脱がなくて良いのかな?……フットスロー付いてないからやっぱダメ。」


膝を曲げて足裏を天井に向けた恵に苦笑して、踵の磨り減ったローファーを引っこ抜く。


「せめてスカートとブレザーは脱ぎなよ、もう。」


「やだぁ、棗ちゃんのえっちー……ぐぅ。」


「はいはい、えっちえっち。」


棗は手馴れた様子で恵を仰向けに転がし、脇腹辺りを探る。


じ、と音を立ててジッパーを下ろすと、恵が腰を上げるので、するりとスカートを抜き取った。


「きゃーん恥ずかしー!」


「学校指定の短パンが恥ずかしいなら、体育の度に恥ずかしい思いするってことだよねぇ。」


何度か巻き上げてある紺色のジャージの裾をクルクルと下ろすのも忘れない。


ブレザーは自分で脱いだようで、ブラウスとジャージというアンバランスな格好の恵が出来上がる。


「棗は脱がないの?」


「アンタの制服片付けたらね。」


部屋の隅に、コート掛けを見つける。


ブレザーはそこに掛ければ良いとして、スカートは同じく部屋の隅に置かれた籠へと畳んで放り込む。


「……それにしても、どうしたもんかなぁ。」


「何が?」


「何がって、現状のことに決まってるでしょうが。」


げんじょう、とオウム返しの恵に呆れ顔を贈り、棗はベッド脇のソファに腰掛けた。


「まず、帰れないんだから元の世界の事を考えるのはやめにする。」


「あう……パパママとか、学校とか、心配してるかなぁ…」


「無事を伝える手段が無いか聞いてみるのもアリだとは思うけど、望みは薄そうだよねぇ。」


暗い声で呟きながら、棗は頬杖を付く。


ベッドの上で起き上がった恵と顔を合わせて、同時に溜息を吐いた。


「……でも、良いや。」


「何が?」


「棗、居るし。異世界とか、花嫁とかよく解んないけど、棗が居るから、良いや。何とかなるよね!」


「……アンタねぇ…」


締りの無い笑顔を向けてくる恵に、思わず苦笑が漏れる。


「言っておくけど、私が居たところで現状打破なんて出来ないからね?このままじゃ恵はあのいけ好かない金髪のお嫁さん、私は……異物だって言ってたし、悪くて殺される、良くて追放か監禁じゃないかなぁ。」


「それなんだけどさ!」


はい、と元気良く恵が手を上げる。


「何?」


「棗が異物って言うのが良く解んないんだよね。」


「いや、だから要するに、黒髪黒目の【鏡の巫女】を召喚したのに、黒髪じゃない私が召喚されたから異物なんでしょ?」


いやいやいや、と恵が納得行かない様子で首を横に振る。


「何言ってんのさ、棗だって【元は黒髪】でしょ!」


二人で過ごすには少々広すぎる部屋に、沈黙が走る。


「……いや、そりゃそうなんだけど。」


「高校入る直前に「今しかないよね」とか訳わかんないこと言って髪の毛染めたじゃん?その前は完全真っ黒の髪だったくせに!」


「あーうん、若気の至りって言うか、入学時に「地毛です」って言っちゃったから今更戻せないって言うか……」


勢いを付けて恵が立ち上がり、棗の前に立つ。


「だから、棗も資格はあると思うんだよね!」


「いや、無いと……」


恵の両手が、棗の顔を挟む。


背まで伸ばした薄茶の髪をやや乱暴な手付きで纏め上げ、首筋を露にした。


「……ほら、やっぱり。棗、こんな所に痣なんて無かったよね!」


「……う、っそ…」


やだぁ、と顔を顰める棗とは対照的に、恵は満面の笑みで「一蓮托生」とばかりに親指を立てて見せた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ