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余命一年恋物語  作者: 榊 珠江
一のご縁 絵描き女子

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第三話 作戦会議

 無事、女の子との縁が結ばれ、最期の花見ドライブも終わり、帰宅する。帰宅までの間、助手席で幅を取っていた岩女こと縁結びの女神と今後の作戦会議を行っていたわけだが、双方の意見は慎重論と積極論とでせめぎ合い、決着することがなかった。


 予想外だったのは、女神が積極論を堅持していることだ。てっきり、女性の立場で物申すかと思いきや、私が縁を結んだのだから臆せず強力にアプローチせよ、さっさといてこませと、力説するのだった。女神としては、時間が限られていることを考慮し、少しでも早く男女としての関係を構築し、二人で過ごす時間を確保させたいという親心らしい。


 だが、俺としては、いくら残り時間が少ないにせよ、焦って関係を迫ることはしたくない。別に紳士ぶりたいわけではない。気取っているわけでもない。正直、戸惑いがある。


 まず、久しぶりに女性とまともな会話をできたことで今の俺は満たされているし、恋をするにしても時間をかけないと俺の心がついていけないのが一番の理由だ。何年も恋を休んでいた身には、短期間で女性と親密になろうとすることは、だいぶ堪える。


「まったく、あなたがそんなに乙女とは思わなかったわ」


「誰が乙女だ。俺には恋するリハビリ期間が必要なんだよ」


「では聞くが、リハビリに必要な期間は?具体的なリハビリ方法は?」


「・・・。時間が解決するだろ。本当に久々なんだよ、女性とデートしたりするのも。俺はもう、すっかり結婚も恋愛も諦めてた人間だからな」


「ほほぅ・・・」


 岩女はその厳ついゴツゴツとした顎を指で撫でながら何か考え込んでいる。


「ちょっと教えてもらってもいい?あなた、フリーになって何年?」


「ん〜、十年は軽く超えるな」


「長いわね。なんでそんなに彼女できなかったのよ。あっ、男だらけの環境で出会いがなかったとか?」


「いや、むしろ逆だな。仕事は営業関係だったが、単純に女性と出会う機会は人より多かったよ」


「わかった。周りは既婚者や彼氏持ちばかりだったんだ。すでに相手がいる人達ばかりだったんだ」


「いや、フリーが多かったし、大概彼氏募集してたな」


「あらまぁ。不思議ね、別にあんた顔悪くないのに。お金だって稼いでたし貯めてたんでしょ。なんで?」


「俺が聞きたいわ。実際、何人かデート誘ったりもしたが、いまいち要領を得ない感じで断られてたよ。普段接してる分には何事もないのに、デートとかになると途端によそよそしくされて、結構ショックだったなぁ・・・。何か憑かれてるかなと思って、お祓いも行ったっけ」


「ふ〜ん。お祓い行ってもダメだったわけ?」


「ダメだった。何人か霊能者みたいな人にも見てもらったことあるけど、取り憑かれてるわけではなさそうだってさ。ただ、生霊は飛ばされてるかも、なんて言われたこともあったけど、これだって本当のことか分からないしな。それに、オカルトにモテない原因を求めるよりかは、俺に何かしら原因があるんだろうと、そういくことにしておいた。その方が、モテる努力するしな」


「・・・殊勝なことね」


 自分で話していて、だんだん気分が落ちてきてしまった。さすがに岩女も同情したのか、俺の頭をポンポンとたたき、続きは酒を飲みながらにしようと提案され、俺もその案を採用することにした。こんな話は素面しらふでするもんじゃない。


「それにしても、ずいぶん変わった家よね。なんなのこれ?」


 岩女はしげしげと俺の家を眺める。俺の家は町外れの辺鄙な土地にあり、周囲は畑や田んぼばかりののどかな土地だ。そこにドンと一つトレーラーを置いてそこで生活をしている。一部マニアには垂涎のトレーラーハウス生活だ。


「いいだろ?夢だったんだ、こういう家に住むのが」


「今時はこんな家もあるのものなのね〜。でも土地に建物も含めたら、けっこうお金かかったんじゃない?」


「早くに死んだ両親の遺産と、退職金や今までの貯金を合わせれば、余裕だよ。他に親戚兄弟もいるわけでもないし、実家はとっくに処分してたから、最期の一年くらい好きに暮らしてみたくてね」


「そうか。まぁ、それくらいの贅沢したほうが、あなたの灰色の人生、バランスが取れるってもんじゃない?」


「灰色言うな」


 俺は女神と顔を見合わせ、久々に大笑いした気がした。元々友達も少ないし、会社でも公私混同は徹底して避けてきたから、俺は余命宣告後に誰かと会うなんて機会はなかった。だからだろうか、こんな会話でも楽しく感じる。


「まぁ、とりあえず一杯やりますか。神様にはお酒お供えしないとな」


「わかってるわね。ゆっくり飲みながら今後の作戦でも練りましょうか」


 古来より、日本の神様は日本酒を好むという。というわけで、奮発して大吟醸なる高級な酒を買い込み、女神に振る舞うことにした。もちろん、まずは神棚へこの上等な酒を感謝と共にお供えする。


「それにしてもあなた、わかってるじゃない。でも、いくら御神酒として供えるにしても、そんな高いものじゃなくてもいいのに」


 岩女は神棚へお参りする俺を感心しながら褒めている。当然だ。目の前に女神がいて、しかもその上にはより格の高い神様がいらっしゃるというのなら、無神論者の俺でもさすがに神の存在を認めざるを得ない。神棚を用意してお祀りぐらいはする。


 おまけに、今日は早速願い事が叶えられたことには違いない。しっかり御礼を伝えなければバチが当たるというものだ。


「俺は金の使い方がよく分からないんだ。特に趣味があったわけでもないし、かといって酒やタバコも嗜まないから、金は溜まる一方だったな。だから、逆に金の使い道ができると、なんだか嬉しい。ようやくお金が生きたかと思えてね」


「そりゃよかったけど、あんたストレス発散どうしてたのよ」


「ん〜・・・。どうしてたんだろう。もはや社畜として完成されてた気がするから、そういう感覚分からなくなってたかもしれない。毎日がなんとなく重苦しい気がするようなそうでもないようなって、そんな日々だったな。でも、忙しくさにかまけて、そんな感覚もすぐにどっかいっちゃったけどね」


 岩女はまるで生の喜びを知らない悲しきモンスターでも見ているような哀れみの目を向けてきている。お猪口を用意し、トクトクと酒を注ぎ、そっと俺に出してくれた。


「これはこれはどうも」


「いえいえいなんの」


 まずは酒を一口入れ、考える。どうやって黒島さんとの距離を縮めていくかだ。だが、経験値が浅い俺にとっては、真心込めてお付き合いする、という小学生が考えるようなスローガン程度の事しか思い浮かばない。というか、それ以外に何かあるのだろうか?人間関係向上のご利益を授ける新たな神でも探すか?


 一方、岩音は縁が結ばれたのだから強気でいけと、見た目よろしく脳筋的な方針を語るのみでおよそ作戦と呼べるものではない。縁結びの神とはいえ、恋のノウハウまでは持ち合わせていなかったようだ。


 結果、俺達は酒を交わしつつ侃侃諤諤と意見を戦わせた結果、黒島さんを口説き落とす方針として「丁寧に黒島さんに向き合う」というなんとも微笑ましいスローガンに落ち着いたのだ。これが俺達恋愛弱者の精一杯だ。

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