第十話 ボンファイアリット 語り合い編
焚き火に薪を焚べながら、酒を飲み、他愛のない話で盛り上がる。俺もルイも随分と酒がまわったようだ。かろうじて呂律は保たれているが、思考力、判断力等、頭の働きが鈍くなってきていた。
「いや〜、楽しいねルイ。こんなに飲んだのは久々だ」
「僕もですよ。こんなに楽しいのは久しぶりです」
「そうなのかい?君ほどイケメンで性格も良ければ友達も多そうなもんだけど。それに、素敵な彼女も三人くらいいそうだ」
「いやだな〜そんな三人も彼女いませんよ。僕、今フリーですって。それに友達だっていやしません。だから、今日は本当に久々に友達と飲んだって感じです」
「またまたご冗談を〜」
「冗談だったら〜よかったんですけどね」
おや?この空気、この流れ。場の雰囲気が一変してしまった。しまった、久々に酔って配慮にかけた言動をしてしまったか。
「あっ、ごめんなさい。急に真面目なトーンで話しちゃって。ちょっとトラブルがあって、人間関係が結構切れちゃってりしてたものですから。だから、こうやってお兄さんと飲めるのが・・・本当に楽しくて・・・」
ルイくんはわっと声をあげて泣き始めてしまった。これはいかん。まさか、ルイくんが泣き上戸だったとは。それにしても、意外だ。泣き上戸もそうだが、彼女がいない?友達すらいない?このルイ君が?そんな不思議な話があるものだろうか。
「すいません、僕は酒を飲むといつもこうなんです」
「大丈夫だよ。少し飲みすぎたのかもね。水を持ってくるよ」
俺は家から水をコップに注いできて、ルイに手渡した。咽び泣くルイは礼を述べつつ水をゆっくりと飲んでいった。
「は〜・・・。すいません、せっかくの楽しい雰囲気をぶち壊しちゃって」
「いいんだよ。俺の方こそ、気遣いにかけていたよ。酒の勢いで変なこと言ってしまったようだ。ごめん」
「そんな、お兄さんは何も悪くありません。本当に、ただ悲しくなっちゃっただけです。今、僕はひとりぼっちなので・・・」
涙を溜めた綺麗な瞳が上目遣いでこちらの顔を覗いている。ルイはただでさえ中性的な顔立ちだが、酒に酔っているせいかもはや女性の顔にしか見えない。まさか、男の顔を見てかわいいと思ってしまう日が来るとは。ちくしょうめ。
「なにか、事情がありそうだね。せっかくだ。酒のせいにして、吐き出してしまえばいい。話を聞くよ」
「本当にお兄さんは優しい人だ。そんな優しくされると、僕は・・・また・・・」
今度はさめざめと泣き始めてしまった。俺はルイの背中をさすりながら泣き止むのを待ち、ぽつりぽつりと話始めた。
「以前には、僕にも友達がいました。男の友達も、女の友達も。最初は普通に友達として付き合えるんですが、次第に友達の目つきや接し方が変わってきてしまうんです」
「それは、つまりどういうこと?」
「恋愛の対象として見られてしまうんです。女性はもちろんのこと、同性の男性からも」
同性からも?頭にハテナマークが浮かび上がる。だが、すぐにピンときた。これは先ほど俺がルイに感じた感情が理由だろう。おそらく、おそらくなのだが、ルイは人を魅了する才能がある。それは性別を超えて見るものを虜にしてしまう魔性とも呼べる美貌ゆえだろう。
俺は異性愛者ゆえ、同性に恋心を抱くことはないが、先ほどは危うく魅入られそうになってしまったくらいだ。性別を超え、それでもなお男心をくすぐる得も知れない魅力を醸し出してるのが、このルイという青年だ。まして、女性がルイ君を一目見たならば目をハートに変え我を失っても不思議ではない。
「女性からモテるのはわかるけど、男性からモテるというのもなかなか複雑な心境だろうね」
「えぇ、複雑です。僕は男で、恋愛対象も女性で女性経験も、まぁそこそこありますが、実は昔、男性相手にも恋できることに気づいてしまったんです」
おっと。話の流れが変わったぞ。
「当時付き合っていた彼氏は、僕を男として愛してくれました。僕も、彼のことを男として愛しました。初めのうちは」
「初めのうち?後から変わったの」
「彼に抱かれるうちに、あっ、彼氏がタチで僕がネコが多かったんですけどね」
「た、たち?猫?」
「彼氏に抱かれるたびに、なんだか違和感を感じてきたんです。果たして、僕は今、男として彼氏を愛しているのだろうか。それとも、僕は体は男だけど、心が実は女性で女として彼氏を愛しているのだろうかと」
話がさらに複雑になってきたぞ。知らない用語も飛び出してきたし、ついていけるのか、俺は。
「だから、彼氏に相談しました。どうしても、彼氏に抱かれている時には、自分は女性になってしまっていると。そしたら、彼氏からは俺は男しか抱けないと言われ、それっきり彼と会うことはなくなってしまいました」
「・・・そんなことが・・・あったんだね」
「突然、すいません、こんな話をして。でも、この話はいつかお兄さんにはしないといけないかなと思ってました」
「えっ?そうなの?」
「だってお兄さん、ノーマルでしょ?僕が男を好きになるって聞いて嫌いになりませんか?」
「えっ?別に」
「えっ?」
「ルイが男と恋しようとも、嫌いになんてならないよ。ルイのことだ。いい加減な気持ちで誰かと恋をするような人には見えない。たとえ相手が同性だったとしても、ルイなら真心から恋をしてたと思う。そんなルイくんの純粋な想いを嫌いだなんて、できないよ」
「お兄さん・・・。やっぱり心が広いですね」
「そうなのかな?でも、その話ぶりじゃ、随分と悩んだり苦しんだりしたんじゃない?自分が女性として男が好きかもしれないって。俺には想像もつかない苦悩だ」
「えぇ、随分思い悩んでます。でも、僕も最近自分の気持ちが少しわかってきたような気がするんです。お兄さんのおかげですよ」
「へっ?俺なんかしたっけ?」
「はは、ほんと鈍いですね。今度のキャンプ楽しみにしてますね。今日はいささか酒を飲みすぎました。代行を呼んで帰るとします」
「お?そうか、そうだな。深酒は体に良くない。そしたら、今日はお開きにするか」
何か大事なことを聞き逃したような気もするが、まぁいいとしよう。俺も酒のせいかうまく頭が回らない。
後片付けはこちらで引き受け、俺は代行に乗って帰るルイを見送り、まだ炎が残っている焚き火が消えるまでお茶を飲みつつ酔いを覚すことにした。
「そろそろ出てくるか?女神よ」
「当然!これだけうまそうな肉と酒が残っているじゃないの。残すなんてもったいないわ。残りは私がいただくとしましょう」
「欲張りだなぁ。でも、確かにだいぶ余ってるな」
「ほら、あんたも残飯処理手伝いなさいな」
「仕方ねぇ、やるか・・・」
気分的には片付けする気満々だったが、残りわずかとなった薪を全てくべ、鉄板に肉を並べ酒を注ぎ、岩女に渡した。
「あら、外で食べる肉って最高じゃない。これは酒が進むわね。それにしても、ようやくあのルイって子に神紋が浮き出た謎が解けたわ〜。世の中いろんな人がいるものね。いや、でも、そうなると、私はどうしてあの子と縁を結んでしまったのかしら・・・。薔薇の香りがそこはかとなく、なんて言ってる場合じゃない!」
岩女は酒を勢いよく煽りつつも愕然としている。ただでさえ暗い目元が暗黒に染まっていくようだ。
「えっ?どういうこと?」
「はっ?!あんたあんな分かりやすく答え教えてくれてたのに、まだ気づかないの?!いや、おそらく全ての答えは次のキャンプで分かるわ」
「教えてくれよ、はっきり言ってくれないとわからないって!」
しばし岩女と押し問答するも、結局何も教えてもらえないまま夜は更け、焚き火に照らされる中、肉と酒を胃に押し込んでいくのであった。




