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転校生は頼めばやらせてくれる

掲載日:2026/05/03

この町では、朝の見回りは日課だった。


通学路のあぜ道。

田んぼの縁に、小さな札がいくつも立っている。


――接触注意。


誰もが知っている。

見つけたら、迷わず処理する。


それが、この町の普通だ。



ユウは自転車を降りた。


水路の影、草の根元。

小さな緑色のものが、かすかに動いている。


指先ほどの大きさ。

まだ形の定まらない、不完全な存在。



(……ごめん)



木の棒を握り直した、そのとき。



「やめて」



声がした。


振り向く。


見たことのない少女が立っていた。


金色のツインテール。

白いブラウスに赤いリボン。


この町には似合わないくらい、整っている。



少女は、ユウではなく足元を見ていた。


ゆっくりとしゃがみ込む。



「かわいそう」



その言葉に、ユウは思わず声を上げる。



「触るなって。危ないんだよ」



少女は、少しだけユウを見る。



「……うん」



それだけ言って、また目を落とす。



ユウは一歩踏み出した。



「見たくないなら、目閉じてろ」



振り下ろす。


ぐしゃり、と小さな音がした。



風が、稲を揺らす。



「……終わった」



振り返る。


少女は、じっとこちらを見ていた。



「優しいんだね」



そう言って、少しだけ笑った。



「ちゃんと、守ろうとしてる」



ユウは言葉に詰まる。



少女は立ち上がる。



「私、今日からここに通うの」



「ミオ」



その名前が、やけに残る。



「一緒に行ってもいい?」



「……ああ」



二人で、あぜ道を歩き出す。









ミオは、すぐにクラスに馴染んだ。


話す相手は絶えない。

笑い声の中心にいる。



でも。



どこが、とは言えない。

ただ、少しだけ違和感が残る。



ある日、噂が流れた。



――あの子、頼めばやらせてくれるらしい。



ユウには、信じられなかった。





———





放課後。

人のいないあぜ道。



「……そのさ」



「変な噂、あるだろ」



「うん」



「ほんとなのか?」



ミオは、少しだけ考える。



「そんなことしないよ」



それだけだった。



少し間を置いて、



「でも」



「お願いされたら、困るよね」




風が止む。



ユウは立ち止まる。



ミオが振り返る。



何も言わない。



ただ、見ている。



少しだけ首を傾ける。



ユウの視線が落ちる。


唇。


それから、首元。



「……お願い」



声が出る。



「……キス、していい?」



「うん」



触れる。



柔らかい。



でも、それだけだった。



ユウは離れる。



「……もう一個、いい?」



ミオは一瞬だけユウを見る。



「うん」



「……噛んでいい?」



静かになる。



「いいよ」



「君の好きなところ、どこでも」



ユウの視線が落ちる。



そこが、正しい気がした。



歯が触れる。



その瞬間。



ミオの身体が、ほんのわずかに止まる。



でも、何も言わない。



ユウは、そのまま深く噛みついた。



血の味。



ミオの手が、そっとユウの肩に触れる。



「……うん」




帰り道。



ユウは、一人で歩いていた。



喉が、熱い。



音が、やけにはっきり聞こえる。



(……なんだよ、これ)









あぜ道の端で、


小さな緑色のものが、かすかに動いていた。



ミオは、しゃがみ込む。



「……かわいそう」



指先が、近づく。



そのとき。



「触るなって!」



声がした。



ミオは、振り向く。



少しだけ、目を細める。



風が、草を揺らす。



(終)

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