第九話
第1話~第10話まで毎日更新します!
突然の乱入者多すぎるかな???
人垣の奥から、低く、だるそうな声が聞こえた。
「……やれやれ」
その一言だけで、
なぜか周囲の声が、少しだけ落ちた。
「新人相手に、随分と楽しそうだな」
人混みを押し分けるようにして、
一人の男が前に出てきた。
年の頃は三十前後だろうか。
無造作に伸びた髪に、少しくたびれた外套。
腰には一本の剣。
見た目だけなら、特別強そうには見えない。
その声に、周囲の冒険者たちも反応する。
「……おい」
「あいつ……」
「“流浪人”だ」
男のあだ名だろうか。ぽつりと漏れる。
男は面倒くさそうに頭を掻いた。
「結晶壊れただけで、ここまで騒げるのも才能だな」
軽く肩をすくめる。
「まあ、言いたいことは分かる」
そして、僕と姉さんをちらりと見た。
「新人が、いきなり測定不能だの全属性だの言われりゃな」
口の端を少しだけ上げる。
「疑いたくもなる」
さっきまで騒いでいた男たちが、頷く。
「だろ!?」
「俺たちだってよ――」
そこまで言ったところで、男が手をひらひら振った。
「落ち着けって」
ため息混じりに言う。
「そんなに気になるなら、簡単な話だろ」
そして、顎で僕たちを指した。
「――試せばいい」
一瞬、場が静まる。
「やるだろ?対人戦」
その言葉が落ちた瞬間、
ギルド内の空気が一気にざわめいた。
「お、いいじゃねぇか!」
「それなら分かりやすい!」
「やれよ新人!」
視線が、今度は期待混じりで集まる。
男は、ゆっくりと前に出た。
「新人相手に寄ってたかってじゃ格好つかねぇ」
腰の剣を軽く叩く。
「俺が相手してやるよ」
周囲がざわつく。
「おい、マジかよ」
「“流浪人”が?」
男は肩を回しながら、僕を見る。
「安心しろ」
にやりと笑う。
「ちゃんと手加減してやる」
(……え?)
突然すぎる流れに、
僕は思わず姉さんを見る。
姉さんは――
「面白そうじゃない!」
……目を輝かせていた。
(ああ、もう……)
僕が頭を抱えそうになった、その時。
――ドンッ!!
大きな音とともに、
ギルドの奥の扉が開いた。
「お前らァァァァ!!」
怒鳴り声が、ギルド中に響く。
一瞬で、場が静まり返った。
奥から現れたのは、背の高い男だった。
腕を組み、額に青筋を浮かべている。
武器らしい武器は持っていない。
けれど、そこに立っただけで場を制圧するような圧があった。
「接客中だって言ったよなァ?」
低く、しかしよく通る声。
「いつからここは闘技場になったんだ?」
誰も答えない。
男の視線が、ゆっくりとギルド内をなぞる。
そして――
“流浪人”の男のところで止まった。
「……またお前か」
男は肩をすくめる。
「よう、キース」
キースさんは、深くため息をついた。
「なんでお前はいつも騒ぎの中心にいるんだよ…」
それから、僕と姉さんを見る。
「……新人か」
その視線を受けた瞬間、
僕は小さく首を傾げた。
(……あれ?)
妙な違和感があった。
目の前にいるこのキースという人は、明らかに強い。
立ち方も、視線も、声の重さも、場数を踏んできた人のものだ。
なのに――
(マナの匂いが、しない)
王都に来てから見てきた冒険者は少なからず薄く抑えられたマナの匂いがした。もちろん戦う必要のない都民たちの中にはマナの匂いがしない人もいたが、
長らく闘ってきたであろう人からマナの匂いが“まったく感じない”のは初めてだった。
キースさんは、ちらりとメレナさんへ視線を向ける。
「どういう状況だ?」
メレナさんは、まだ少し動揺したまま頷いた。
「マナ測定結晶が……二度とも破損しまして……」
「ほう」
キースさんは、カウンターに散らばる破片を一瞥する。
「アトラさんが銀色に発光し、キャトラさんが金色に発光して……どちらも、結晶が耐えきれず……」
「……なるほど」
そう言ってから、キースさんは面倒くさそうに頭を掻いた。
「俺ァ魔法のことに関しては、よく分かんねぇからな」
その一言で、さっきの違和感が少しだけ形になった。
この人は、魔法が使えない。
だから、マナの匂いがしない。
けれど、それでも誰よりも強そうに見えるのが、余計に不思議だった。
キースさんは、僕たちをもう一度見た。
少しだけ、興味深そうに。
そして、再びため息をつく。
「……はぁ」
頭を軽く押さえる。
「騒ぎたい気持ちは分かるが」
キースさんは“流浪人”を睨んだ。
「新人相手に騒ぐな――」
「「師匠おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」
その瞬間。
キースさんが言い終わるより早く、
小さな影が一直線に飛び込んできた。




