第八話
第1話~第10話まで毎日更新中。
え?第10話まで書いたらどうするのかって?
毎週日曜に更新します。密度たっぷりでお届けするので期待しててください!
ざわめきが収まらない中、
メレナさんは一度、深く息を吸った。
……そして、ぎこちなく笑顔を作る。
「え、ええと……」
声が少し裏返っている。
「まず……キャトラさん、からですね」
姉さんは、まだ呆然としたままこちらを見ている。
自分が何をしたのか、いまいち分かっていない顔だ。
「キャ、キャトラさんは……」
言葉を詰まらせながら、メレナさんが言う。
「……全属性に、魔法適性があります」
周囲が、ぴたりと静かになる。
「さらに……神聖魔法にも、適性が確認されました」
そこまで言ってから、
メレナさんの唇が、わずかに震えた。
「こ、こんな方は……その……」
「……“聖女”様以来、です」
声が、完全に揺れる。
「し、信じられません……」
結晶から顔を上げたメレナさんは、
まっすぐ姉さんを見つめる。
「し、神聖魔法の適性については……ご自覚、ありましたでしょうか?」
姉さんは、きょとんとしたまま首を傾げた。
「え? うーん……」
少し考えてから、あっけらかんと言う。
「アトラの怪我は治したことはありますけど……?」
――その瞬間。
ギルド内のざわめきが、
さっきとは比べものにならない大きさで跳ね上がった。
「治したこと“ある”ってなんだよ……」
「普通、神聖魔法ってそんな感覚で使えねぇぞ……」
メレナさんは、もう隠しきれない様子で
小さく肩を震わせていた。
「……や、やはり……」
呟く声は、ほとんど独り言だった。
コホンと咳払いをしてこちらを向くと、メレナさんは、一度深呼吸をした。
「……お次に、アトラさんですね」
声は、少しだけ落ち着いている。
僕は軽く頷いて、前に出た。
「アトラさんも、キャトラさんと同様……」
「全属性に、魔法適性があります」
周囲から、小さなどよめきが起こる。
(……まあ、そこは驚かれるよね)
内心でそう思いながら、次の言葉を待つ。
そして――
メレナさんは、そこで口を閉じた。
一瞬。
その沈黙がやけに長く感じられた。
「……そして、アトラさんは……」
「――“古代魔法”に、適性があります」
その瞬間
さっきまでの騒がしさとは違う、
妙に居心地の悪い沈黙が、ギルド内に広がった。
ざわめきが、止まる。
(……あれ?)
僕は、内心で首を傾げる。
神聖魔法の時みたいな驚きでもない。
でも、明らかに――空気は変わった。
「……古代魔法?」
誰かが、小さく呟いた。
メレナさんは、その反応を見てから、補足するように続ける。
「“古代魔法”は……文献として残っているものが、非常に少なく……」
言葉を選びながら、慎重に。
「それに加えて……魔法の極地、と呼ばれている分野でもあります」
なるほど、と心の中で唸る。
「消費される魔力も大きく……“常識”では、人ひとりが扱えるものではないとされています」
――だから、か。
周囲の空気が微妙になった理由に、ようやく納得がいった。
(適性がある、って言われても……
“使えない前提”の魔法だから、ってことか)
そう考えていると。
メレナさんは、少し迷うように視線を落とし――
それから、思い切ったように顔を上げた。
「……ただ」
その一言で、再び注目が集まる。
「お二人とも、マナの量が……測定不能、でしたので」
少しだけ、声が小さくなる。
「もしかすると……アトラさんは」
そして、はっきりと。
「――古代魔法を、扱えるのかもしれませんね」
ざわり、と空気が動いた。
最初は、小さな声だった。
「……測定不能って、なんだよ」
「今日冒険者登録したやつが?……」
やがて、そのざわめきが連鎖する。
「結晶が二回も壊れたんだぞ?」
「そんなおとぎ話みたいな話、あるか?」
誰かの疑念が、誰かの苛立ちを刺激する。
「全属性だの、神聖魔法だの……」
「古代魔法まで適性あり、だぁ?」
吐き捨てるような声が、はっきりと聞こえた。
「……出来すぎだろ」
その一言で、空気が変わった。
「そうだよ」
「いくらなんでも盛りすぎだ」
「測定不能? 壊れただけじゃねぇのか?」
視線が、じわじわとこちらに集まってくる。
「結晶が壊れたくらいでよ……」
「魔法で壊したんじゃねぇの?」
「そもそもよ」
少し声の大きい男が、一歩前に出る。
「膨大なマナを無理に抑制してる感じもしねぇ」
「俺らと変わらねぇじゃねぇか」
それに、別の声が乗る。
「だよな」
「これで測定不能は、さすがにおかしい」
「――インチキだろ」
その言葉が、はっきりと響いた。
「結晶が壊れたのをいいことに、適当なこと言ってんじゃねぇのか?」
「新人登録だろ? 注目集めたいだけじゃねぇの?」
「おいおい、言い過ぎだろ」
と止める声もあったが、
「でもよ、納得できねぇのも事実だろ?」
疑念は、もう止まらない。
「だったらさ――」
誰かが、面白がるように言った。
「実力、見せてもらえばいいんじゃねぇの?」
「そうだ!」
「結晶より分かりやすい!」
「対人戦だよ、対人戦!」
一気に、熱が上がる。
「ギルドには訓練場あるだろ!?」
「やれよ! それで白黒つけろ!」
視線が、期待と疑いを孕んで突き刺さる。
(……なんでこうなるんだ)
内心でそう思った、その時。
人垣の奥から、低く、だるそうな声が聞こえた。
「……やれやれ」
「新人相手に、随分と楽しそうだな」
ゆっくりと、前に出てくる影があった。




