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第十一話

油断した?油断したよねえ??今日も更新したるわ!!

週1更新にしようと思ってましたが、できる限り更新していこうと思います。

週1更新は絶対するのでこれからも応援お願いします。

「……拳聖?」




姉さんが、ぽかんとした顔で呟いた。




「えっと……ごめんなさい。何それ?」




その一言で、ギルドの空気がぴたりと止まる。




「……は?」


「知らねぇのか?」


「どこの田舎モンだよ……」




そんな声が、あちこちから漏れた。




僕も思わず姉さんを見る。




正直、僕も初めて聞いた。




「七聖英雄って……そんなに有名なんですか?」




そう聞き返した瞬間、今度はギルド中の視線がまとめてこっちを向いた。




「マジかよ」


「二人とも知らねぇのか……」


「辺境育ちにも程があるだろ……」




口々に言われて、さすがに少しだけ居心地が悪い。




その空気の中で、リィナさんだけがなぜか目を丸くしていた。




「ええっ!? 知られてないんスか、自分!?」




そして次の瞬間には、がっくりと肩を落とす。




「うわぁ……まだまだッスね、自分……」




「そこ落ち込むところなのか?」




呆れたように言ったのは、"流浪人"と呼ばれていた男だった。




リィナさんは真顔で頷く。




「だって七聖英雄ッスよ!? しかも拳聖ッスよ!? もうちょい『あっ、あの!?』ってなると思ってたッス!」




「十分なってたろ。そこの新人を除けばな」




「うー……」




リィナさんがしゅんと耳を伏せる。




その様子に、姉さんが少し申し訳なさそうに手を挙げた。




「えっと……知らなかったのは本当だけど、すごく強い人なんだろうなっていうのは分かるわよ?」




「ほんとッスか!?」




「うん。だって可愛いし」




「そこなんスね!?」




ぱあっと顔を明るくしたかと思えば、すぐにつっこむ。


たしかに可愛い。




その横で、キースさんが深々とため息をついた。




「お前ら、話が散らかりすぎだ」




低い声が落ちると、少しだけ場が静まる。




「七聖英雄ってのはな」




そう言って、キースさんは腕を組んだ。




「"剣聖"、"弓聖"、"楽聖"、"大聖女"、"拳聖"、"聖霊王"、それと"勇者の末裔"からなる、この世に七人しかいねぇ、規格外の連中の総称だ」




「規格外……」




僕が小さく繰り返すと、キースさんは頷いた。




「ただ強ぇってだけじゃねぇ。そこらの魔物が何千体束になっても敵わねぇような、まさに一騎当千の人外じみた化け物どもだ」




「ひどい言い方ッスね!?」




「事実だろ」




即答だった。




リィナさんは不服そうに頬を膨らませたけど、否定はしなかった。




「すごい強い冒険者、ってレベルじゃない。あいつらはもう、そういう枠の外にいる」




キースさんの言葉はぶっきらぼうだけど、それだけに変な誇張がなくて重かった。




「そんなにすごい人たちなんだ……」




姉さんがぽつりと呟く。




「ちなみにッス!」




そこで、またリィナさんが元気よく手を挙げた。




「自分はその七聖英雄の中でも可愛さ担当ッス!」




「初めて聞いたぞ、そんな担当」




「今決めたッス!」




姉さんが真剣な顔でこくこく頷いていた。




「それは納得」




「姉さん……」




僕が小さくつぶやくと、キースさんがまた頭を押さえる。




「だからお前らは話を逸らすな」




「では、私から補足しますね」




そう言って前に出たのは、ようやく落ち着きを取り戻したメレナさんだった。




「冒険者には、基本的にランク制度があります」




指を折って、順番に示していく。




「下からF、E、D、C、B、A、そしてS。通常は登録時にFランクから始まり、依頼達成数や実績、実力に応じて上がっていく仕組みです」




「へえ……」




姉さんが素直に感心した声を出す。




「じゃあ、その七聖英雄っていう人たちは、みんなSランクなの?」




「形式上は、そうですね」




メレナさんは頷いた。




「ですが、実際にはSランクの中でもさらに別格……制度の枠に収まりきらない存在として扱われています」




「つまり、Sランクよりさらに上みたいな感じッス!」




リィナさんがにぱっと笑う。




「雑に言えばそうだな」




キースさんが短く補足した。




「だからこそ、今ここにいる連中もざわついてる。七聖英雄なんて、普通はそう簡単に目の前に現れるもんじゃねぇからな」




その言葉で、周囲の視線の意味が少しだけ分かった気がした。




驚き。畏れ。好奇心。


さっきまで僕たちに向いていたそれとは、少し種類が違う。




「……なるほど」




僕がそう呟くと、姉さんが横でぽつりと言った。




「つまり、すごく可愛くて、すごく強い人ってことね」




「そこに落ち着くのかよ」




今度はキースさんだけじゃなく、流浪人の男まで呆れた声を出した。




ギルドのあちこちで、小さな笑いが漏れる。




けれど、そんな空気も長くは続かなかった。




リィナさんが、僕と姉さんを見比べながら首を傾げる。




「対人戦やるって話ッスよね?あたしが相手してもいいっスか?」




その一言で、場の空気が引き締まった。




「……は?」




最初に声を上げたのは、“流浪人”だった。




「ちょっと待てよ。先に相手してやるって言い出したのは俺だろ」




さっきまでの気怠げな雰囲気を少し崩して、眉をひそめる。




「横から出てきて、いいとこだけ持ってく気か?」




「いや、そういうつもりじゃないッスけど」




リィナさんは、悪びれた様子もなく首を傾げた。




「でも、申し訳ないッスけど……」




そこで、僕たちをちらりと見る。




「流浪人さんだと、相手が務まらないと思うッス」




ギルドのあちこちで、息を呑む気配がした。




「……あぁ?」




流浪人の目が細くなる。




けれど、リィナさんはまるで怯まない。




「だって、この二人――かなり強いッスよ?」




その言い方は軽いのに、妙に断定的だった。




「結晶壊したから、とかじゃないッス。見れば分かるッス」




「……見ただけで、か?」




今度はキースさんが口を開く。




「見ただけでッス」




にこっと笑って、リィナさんは言った。




「だから、並の相手じゃ危ないッスよ。新人さんたちが、じゃなくて――相手する側が」




ざわ、と周囲が揺れた。




流浪人は舌打ちして、肩を鳴らす。




「ずいぶんと言ってくれるじゃねぇか」




「事実ッスから」




「……お前なぁ」




険悪になりかけた空気を、深いため息が断ち切った。




「やるなら場所を変えろ」




キースさんだった。




「ここで暴れられても困る」




そう言って、親指で奥を示す。




「ギルドの地下に修練場がある。話の続きはそこでだ」







石造りの階段を降りた先には、広い空間が広がっていた。




高い天井。


踏みしめるたびに乾いた音を返す石床。


周囲には、訓練の見学にも使えるような段差まである。




「……広い」




思わずそう呟くと、隣で姉さんも目を丸くしていた。




「ギルドの中に、こんな場所があるのね……」




「修練場ですからね」




後ろからついてきたメレナさんが、まだ少し興奮の残る声で言う。




「模擬戦や訓練、それから冒険者同士の立ち合いにも使われます。修練のためのに作ったのですが、何かトラブルがあった冒険者同士が決闘を行うことに使われすぎて闘技場って呼ばれたりしてますが…」




その説明を聞いている間にも、後ろからついてきた冒険者たちが次々と段差に陣取っていく。




さっきまで受付前で騒いでいた人たちまでしっかり集まっていて、ちょっとした見世物みたいになっていた。




「うわ……めっちゃ集まってる」




姉さんが小声で呟く。




「帰ってくれないかな」




「無理そうね」




そんなやり取りをしていると、あちこちから好き勝手な声が飛んできた。




「本当にやるのかよ?」


「拳聖が相手とか、新人が可哀想だろ」


「いや逆だろ、拳聖の相手が務まるわけねぇって話だ」


「結晶壊しただけで調子に乗ってんじゃねぇぞ」




最後の声に、少しだけ眉が動いた。




(……調子に乗ってるつもりはないんだけどな)




隣を見ると、姉さんもむっとした顔をしていた。




その時だった。




「あーもう、うるさいッスねー!」




場の中央で、リィナさんがぴょんと前に出た。




「さっきから好き勝手言いすぎッス!」




その明るい声に、ざわついていた修練場が少しだけ静かになる。




リィナさんは、くるりとこちらを振り返った。




「お二人とも――少しだけ、抑えてるマナを見せてやってくださいッス」




「……いいの?」




思わず聞き返すと、隣で姉さんも小さく首を傾げた。




「王都では抑えてないと、魔物と間違えられるって話だったわよ?」




「いいんスよ!」




リィナさんは、あっさり言い切った。




「これから戦うんスから。むしろ、ある程度見せてもらわないと周りも納得しないッス」




そう言って、段差の方を顎で示す。




たしかに、周囲の冒険者たちはまだ疑い半分、野次半分といった顔でこっちを見ていた。




「……分かった」




僕が頷くと、姉さんも肩をすくめた。




「じゃあ、ちょっとだけね」




「それで十分ッス!」




リィナさんがにっと笑う。




僕は静かに息を吐いて、体の内側へ意識を向けた。


王都に入ってから薄く抑えていた流れを、ほんの少しだけ緩める。




隣で姉さんも、同じように目を閉じた。




その瞬間。




修練場の空気が、変わった。




「――っ」




誰かが息を呑む。




ざわめきは、すぐには起きなかった。


起きる前に、まず空気そのものが張りつめた。




目には見えない圧が、じわりと周囲へ広がっていく。




「な……」


「お、おい……」




ようやく遅れて、声が上がる。




「マナ量が……」


「さっきまでと全然違うぞ……?」


「なんだこれ……本当に新人かよ……!」




段差にいた冒険者たちの顔が、みるみる変わっていく。




疑いの色が、戸惑いに。


戸惑いが、警戒に。




(……これでも、少しなんだけどな)




隣を見ると、姉さんも同じことを思ったのか、少しだけ困った顔をしていた。




「……アトラ」




「うん。たぶん、みんな引いてる」




「そうみたい」




そのやり取りの向こうで、流浪人の男が低く口笛を吹いた。




「へぇ……」




さっきまでの気怠げな空気が、少しだけ変わっている。




「これは確かに……並の相手じゃ無理だな」




キースさんも腕を組んだまま、僕たちを見ていた。




その目が、わずかに細くなる。




「……中々だ」




短く一言。




そして、リィナさんはというと――




「ほら見ろって話ッス!」




なぜか得意げだった。




「だから言ったじゃないッスか。並の相手じゃ務まらないって!」




胸を張るリィナさんを見て、周囲から反論は出なかった。


さっきまで好き勝手言っていた冒険者たちも、今は黙って僕たちを見ている。




ただ、その沈黙は長く続かなかった。




「……でも」




ぽつりと、誰かが呟いた。




「この闘技場の結界、持つか……?」




その言葉に、また別のざわめきが広がる。




「たしかに……」


「拳聖にあの二人だろ?」


「本気でやったら、ギルドごと吹き飛ばねぇか……?」




リィナさんが、ちらっと足元を見た。




「うーん。自分もちょっとそれは思ったッス」




「思ったんだ……」




僕が小さく呟くと、リィナさんはてへっと笑った。


全然ごまかせていない。




だったら――と、僕は一歩前に出る。




「結界をもう一枚張ります。」




「……もう一枚?」




メレナさんが目を見開いた。




僕は軽く頷いて、床に手をかざす。


足元から流したマナが石床の上を走り、淡い光の線となって広がっていく。




幾何学模様が修練場の中央を囲うように描かれ、


やがて半透明の膜が静かに立ち上がった。




「お、おい……」


「結界魔法……?」


「魔法師団が何人も集まってやるもんだぞ……!」




周囲のざわめきが、また大きくなる。




でも、その横で。




姉さんだけは驚きもせず、ふふんと胸を張っていた。




「当然よ、アトラだもの」




どこか誇らしげな顔で、腕まで組んでいる。





「姉さん……」




「何よ。ほんとのことでしょ?」




そう言って、完全にドヤ顔だった。




周りが驚いている中で一人だけそんな顔をしているものだから、


なんだかこっちまで少し気恥ずかしくなる。




リィナさんは結界の端をぺたぺた触りながら、目を輝かせていた。




「うわー、便利ッスねこれ!」




「おい、勝手に触るな」




「大丈夫ッスよ、壊してないッス!」




「壊す前提の会話するな」




キースさんがまた頭を押さえる。




そのやり取りの向こうで、“流浪人”は苦笑混じりに肩をすくめた。




「……なるほどな」




小さく呟く。




「そりゃ、俺じゃ役不足ってわけだ」




さっきまで好き勝手言っていた冒険者たちも、もう何も言わなかった。


僕たちを見る目は、さっきまでの不信感とはまるで違う。




疑うための視線じゃない。


これから始まる戦いが、どれほどのものになるのかを見極めようとする目だった。




そんな空気の中で、リィナさんだけが元気に笑った。




「じゃあ、準備万端ッスね!」




その声を聞きながら、僕は小さく息を吐く。




姉さんとの手合わせとは違う。


目の前にいるのは、この世に七人しかいない“七聖英雄”の一人だ。




なのに緊張より先に来たのは、ほんの少しの高揚だった。

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