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祖母の家

オレの名前は「曰野 三和(ひらびの みさわ)」。26歳で予備校の講師をやっている。現在過去未来がともに穏やかであるように、という意味が込められている。


オレは、母さんの実家である祖母宅で一人暮らしをしている。一人暮らしをしている、というより、「一人暮らしになってしまった」という言い方のほうが合っている。


つまり、みんないなくなってしまったのだ。祖父はとうの昔に他界し、祖母は介護施設に入っていた。父と呼んでいた人は、母が入院した途端、ダブル不倫の上、蒸発した。彼の功績はただひとつ、病院嫌いの母さんを入院させたことだけ。母さんは既に手遅れ状態だったから、1年後には逝ってしまった。三つ下の弟は他県に進学していたが、実家に戻ることなくそのまま就職した。そして2年後、祖母も亡くなった。


祖母の家には小さな庭と小さな池があった。目の前には森があって、入り口に立っているノウゼンカズラのオレンジ色の花が大好きだった。だけど、そこには妖怪が住んでいると思っていた。昔話や童話が大好きで、夕方に再放送していた妖怪アニメも見ていた上に、無駄に想像力が働くほうだったから、口裂け女が住んでいると思い込み、勝手に怖がっていた。それでも、祖母とともに春には縁側で日向ぼっこをし、夏休みには線香花火をした。秋には焚火をしながら焼き芋を食べ、冬には霜柱を踏んで過ごした。水はけが悪い土地だったから、ちょっと大雨が降ると、庭は大きな池と化した。風が強く吹く日は、電線の唸る音が怖かった。そして、なんでもない夜の静けさが怖かった。

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