業火の魔女
ポイントBでドラゴン肉を回収した翌日。
深い森の上を飛んでいると、炎が目に入った。それもかなり広範囲が燃えている。どうやらここら一帯、火事が起きているようだ。
「森林火災か。まぁ今は乾燥する季節だしね」
まさに対岸の火事。地上の災害など俺たちには関係ない。などと思いつつ、俺が呑気に眺めていると、エレノアが血相を変えて叫んだ。
「ちょっと待って。火事のど真ん中に人がいる!」
この高さからよくそんなことが分かるな。さすがは元剣聖といったところか。
「本当だ。取り残されてるのかな? いずれにせよ、救助しようか」
俺は飛空艇のハッチを変形させ、煙突のようにして下へ長く伸ばした。
取り残された人の周りを囲んであるので、これ以上火は入ってくることができない。が、よく見ると、取り残された女の人から炎が生成されているようだった。炎魔法でも暴走させたのだろう。この人は魔女か。
「火元はこの人ってわけか。仕方がないね。
【蔵出し】――『非時回廊』」
俺は秘蔵の蔵を召喚した。非時回廊は普通の立方体に見える蔵だ。だが、ここに収納したものは、時間が停止した状態で格納され続ける。炎のような危険物を収納するにはもってこいだ。
俺が非時回廊を開放すると、魔女から生成される炎は残らず吸引され、ついでに体内の魔力まで吸い取られた。これで暴走は止められただろう。
「うげっ、」
救助した魔女の顔を覗き込むなり、エレノアはあからさまに距離を取った。
「どうしたの、エレノア? 知り合い?」
「コイツは【業火の魔女】フレア・ランメルモール。私を黒焦げにした張本人だ」
どおりで出会ったとき、エレノアには炎魔法を食らった形跡があったのか。ちょっと待て。じゃあこれ、戦う流れなのか?
「ハプル―ン派を奉じる皇国の剣聖、エレノア・アイレスフォード! 死んでいなかったとはな。ここでもう一度焼き殺してやる!」
フレアは全身から炎を噴出させ、エレノアに向かって突進した。まだこれほどの魔力を体内に蓄えていたのか。それに、魔力を炎へと変換する効率も凄まじく高い。相当な才に恵まれているのだろう。
だが。
「ここ、一応俺の飛空艇の中だから。狼藉は許さないよ?」
俺は片手でフレアの額を押え、突進を制した。さっき噴出した炎は残らず非時回廊に収納されていく。
「エレノアも。剣は抜かないように。その剣は黄金リンゴを薄くスライスするために使いなさい」
俺はエレノアの剣の柄も、もう片方の手で押さえ、抜剣できないようにする。エレノアは不服そうだが、関係ない。
「はいはい。過去の因縁とか、仲間の仇とか、国への忠義とか。そういうのここでは関係ないから。俺の飛空艇に乗るからには、一切の争いは許さない」
俺が多少の殺気を漏らしてビビらせると、二人はすぐに引き下がった。
「この蔵、フレアにやるよ」
俺は非時回廊をフレアに投げてよこした。
「これで情けをかけたつもりか! 貴様がどこの勢力かは知らんが……」
「俺はどこの勢力にも属していない」
「では、なぜ剣聖フレアや【巌の聖女】までもがここにいる?」
確かに。なんか流れで受け入れてたけど、地上の重要人物ばっか集まってるな。これでは何か企てていると勘ぐられても仕方がない。
俺は戦乱の世から逃れたいだけなのに。
「皆、戦乱の世に疲れて、癒しを求めてここに来ただけだよ。特に目的はない」
「怪しい……」
もっともな反応だ。だが、こちらはフレアの弱みを握っている。
「フレア。君は魔力を暴走させていたんだろう? コントロール不可能なほどの魔力を抱えているなら、その蔵は欠かせないアイテムとなる」
「恩を売るつもりか?」
「まぁそうだね。その蔵は、俺の異能で造られたもの。俺から離れれば消え去る。だからフレア。俺たちと一緒に来ないか?」
「一緒に……」
おそらくだが、フレアは戦場で使い潰された結果、魔力コントロールが利かなくなり、森にで大火事を起こしながら一人孤独に過ごしていたのだろう。俺たちと同じように、戦乱の世の被害者だ。だったら勧誘しない手はない。
「その分だと街にも入れなかったかんじでしょ? 俺たちと来なよ。世界中の美味も味わえる。それに俺たちには目的がない。だから好きなだけダラダラできるよ?」
「うぐっ、それは魅力的だな……ついて行っても、いいか?」
「いいよね、エレノア?」
俺は一応確認を取る。まぁ、駄々をこねても突っぱねるけど。
「クロードの決めたことなら仕方ない。過去のことは水に流すわー」
「じゃあ、ようこそ、飛空艇アイオロスへ。これから好きなだけ堕落していこう!」
こうして、三人目の同乗者が増えた。
「さて、非時回廊は、風呂釜代わりにでもするかな。飛空艇のエネルギー節約にもなるし」
「え、私の【業火】を、風呂を沸かすのに使うのか?」
「だってその方がいいでしょ? 非時回廊だって無限に炎を収納できるわけじゃない。有効利用すべきだ思うんだ」
「なんか、恥ずかしいな」
「すぐに慣れるさ」
これで、飛空艇に取り込む天脈の魔力も節約できる。僥倖だな。




