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高原のエアロゴート

 翌日。


 まだポイントB到着にはまだ早いが、眼下の高原に、山羊の群れが見えた。


「なんだかフカフカしていて気持ちよさそうな羊毛ですね」


 セレスティアも隣に立って覗いている。


「そうだね。あれはエアロゴート。確かに寝具の材料として。あの羊毛は適しているだろうね」


「私は山羊のチーズでも食べたいと思っていたところだったんだけど」


 エレノアはそんなことを言ってくる。確かに、それも美味そうだ。


「予定外だけど、降りてみようか」


「でも、こんな大きな飛空艇が着陸したら、山羊さんたち逃げちゃいますよ?」


「そこは透明化させるから大丈夫。【蔵造り】――『夢幻窓』」


 俺は飛空艇の壁に手を触れ、新たな特殊効果を付与した。『夢幻窓』をかけた【蔵】は、外部の人間から認識できなくなる。これで山羊の群れにも近づけるはずだ。


「ほえー、本当に外から見えないのね。クロードの異能、何でもアリね」


「使い勝手よすぎません?」


 エレノアとセレスティアが羨んでくる。


「まあ便利ではあるね。それだけに、この能力を狙う輩も多くて苦労したけどね」


 そのせいで戦場にも駆り出されたし、一族の内紛に巻き込まれたし、凶事を引き寄せてばかりだった。


 だけど、こうしてのんびり羊毛採取に出かけられるのも、この異能のおかげ。一概には嫌いになれない能力だ。


「あれぇ? なんか山羊さんたち、逃げちゃいましたよ?」


「雰囲気で俺らの存在を感じ取ったのかな。やっぱり動物の勘は鋭いね」


 エアロゴートの大群は、蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。結局『夢幻窓』をかけた意味はなかったか。


「布団三人分くらいの羊毛は欲しいなぁ。エレノア、お願い」


「もう、人使いが荒いわね」


 エレノアは抜剣し、斬撃を飛ばす。


 すると、斬撃はエアロゴートの背中を掠め、キレイに羊毛だけを刈り取った。器用なものだな。


「結構積み重なったね。飛空艇のマニピュレーターに運ばせよう」


 飛空艇のアームが伸び、次々と羊毛を格納していく。これを洗濯して乾燥させ、布袋に詰めれば、即席の布団ができそうだ。


 一通りの作業が終わると、3人分の布団が完成した。


「こ、これは……」

「私をダメにする布団ですね……」


 エレノアとセレスティアは早速まどろみ始めている。


「それじゃあベッドとコタツはもう要らないかな?」


「いや、それは困る!」


 エレノアは凄まじい速さでコタツに潜り込んだ。やはりエレノアの定位置はコタツか。


「ここは私の陣地なんだから!」


 エレノアは謎の宣言をする。この飛空艇全体、俺の所有物なんだがな。


「私はコタツもベッドも要らないですー」


 セレスティアは布団を被り、意地でも動かないようだ。


 確かに、今回は俺としてもクオリティ高く布団を製作できた気がする。洗濯機と乾燥機に関しては、設計図を手に入れていたので、予め錬成することができていた。


 おかげで布団を即座に縫製できた。


 2人とも文明の利器で堕落してしまったようだが、まぁ今まで戦乱の世に揉まれてきたんだから、これくらい良いだろう。

                     ◇

 翌日、オレイン皇国の魔術師、シド・アウフタクトは、突如としてやせ細ったエアロゴートの大群が出現したという情報を得て、調査にやって来ていた。ここは皇国の領土内も辺境にあたる高山地帯。


 大陸を巻き込む大戦乱とは無縁の土地だ。なのに、王宮付き魔術師の自分が派遣されるとは、どういうことだろうか?


 だが、今回の派遣は皇帝陛下直々の依頼。


 陛下の慧眼は他国にも知れ渡るほどであり、その神算鬼謀は誰も予知できないと名高い。


「これは、やせ細ったというより、体毛を全て刈り取られているのか」


 遠巻きに確認したところ、噂の正体はそんなところのようだ。


 現地民は凶暴なエアロゴートの羊毛など、採取しようとは思いもしない。そんなことができる人間は限られている。


 シドは昏睡魔法を二十連発で放ち、一匹捕えて近くで観察した。


「この剃り跡……行方不明になっている剣聖エレノア・アイレスフォードのものか?」


 剣聖エレノアとは長く戦場を共にしてきた。なんとなくだが、アイツの斬撃の断面に似ている気がする。


「だが、【業火の魔女】フレア・ランメルモールの爆撃を受けて焼け死んだという報せもある。どういうことだ?」


 シドは、感覚を研ぎ澄ませ、周囲の魔力を探知する。どうやら、この上空を流れる天脈だけ、わずかに減衰しているようだった。


「なにか、天脈を使った大魔術でも発動されたのか?」


 魔力の痕跡を辿っていくと、巨大な構造物が飛んでいるのが感じ取れた。


「まさか、最近噂の飛空艇?」


 戦場で斃れた戦士たちが、謎の飛空艇に迎え入れられ、天国に運ばれる、などという噂が、まことしやかに囁かれている。


「そんんはずはないか」


 だが、あの構造物を追ってみる価値はある。そして、本当にそんな芸当が可能な技術が存在するのであれば、皇帝陛下に報告しなければならない。


 これは、オレイン皇国の国力と安全保障に係る問題なのだから。


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