ドラゴンステーキ
「さて。もうすぐポイントB通過だ。皆、防寒具を着ておくように」
「ポイントB……次は何があるんです?」
「ま、言うなれば天然の冷蔵庫かな。クローゼットに上着や手袋があるから、取ってきな」
エレノアに先導され、セレスティアはクローゼットへと向かっていった。
「すごい……普通の防寒具より温かいです! まさかこれもクロードさんが作ったのですか?」
「いや、俺の能力は建造物専門だから。それは途中で手に入れた魔物の毛皮だよ」
「じゃあエレノアさんが?」
「そうー、私が作った!」
エレノアにも冒険者として稼いでいた時期があったらしい。その時は自前で防具を作っていたらしく、こんな縫製スキルも会得したようだ。ちなみにこの毛皮はホロウ・フォックスと呼ばれる白いキツネ型魔物のもので、それなりに稀少な素材だ。
「ふふ、これは私がクロードに勝っている数少ない特技だな」
いつも俺に負けているせいか、エレノアはここぞとばかりに得意げだ。
「まぁ実際助かっているよ。俺の異能じゃあカバーできない範囲だからね。さ、着いたよ」
ハッチを開け、階段を降りていくと、雪原が広がっていた。
「なるほど。この雪の中に野菜でも埋めているんですね!」
セレスティアは、したり顔で推理を披露する。まぁ、普通そう思うよな。
「残念、不正解。正解は、あれだね」
俺が向こうを指差すと、セレスティアは首を傾げた。
「岩山があるだけですが」
「あれは岩山じゃない。ロックドラゴンの死体だよ」
ロックドラゴンは鉱物を多く摂取するので、その鱗が岩山のように見えているだけだ。
「えっ、ドラゴンって……百年前に絶滅したんじゃ……」
セレスティアは驚きに目を見開いている。
「そうだな。だがここは霊峰アクロ山の山頂付近。気温が低いから、百年前のドラゴンの死体も冷凍保存されてるってわけ」
俺も飛空艇で色々探索するまでは知らなかったが、世にはこんな奇跡的な代物も存在するようだ。
「剣技【フレイムエッジ】」
エレノアは炎を纏った剣の連撃を繰り出し、ロックドラゴンの肉塊を溶断した。
ここ最近採取しているのだが、未だに八割ほど肉が残っている。内臓や血液は既に取り除いてあるが、それも一苦労だった。まさに規格外の巨躯というわけだ。
「ドラゴンのお肉……どんな味がするのか楽しみです!」
「お、いいね。三大愉悦の一つ、食事の愉しみに目ざとくなってきたじゃないか!」
セレスティアも年相応の言葉を言うようになってきたな。やはり、若いうちから聖女なんて偶像に縛られているのは良くないな。
「三大愉悦ってなによ?」
エレノアがキョトンとして訊いてくる。
「そりゃあ、食事と睡眠と、……アレだろ」
わざわざ言わせるな。
「アレって何ですか! 私に隠れて何を愉しむつもりですか?」
「セレスティア、人間の三大欲求を考えれば分かるだろう」
「それって、食欲と睡眠欲と……なっ、まさかお二人はそんな関係だったんですか?」
「「違うからな?」」
全く、清廉潔白な元聖女様に何を言わせようとしてるんだ、俺たち。
「この話は終わりな? さ、皆で肉塊を運ぶぞ」
俺は強引に話を打ち切り、肉塊を氷上で滑らせるようにして運んでいった。飛行艇アイオロスの近くまで運べば、あとはマニピュレータが船内に格納してくれる。
大部分は冷蔵室行きだが、残りはオーブンで調理するつもりだ。
ちなみに、こんな家具たちも【蔵】の異能で再現している。クラフトスキルと言えばそれまでだが、【蔵】の異能にはそれ以上のポテンシャルがある。
例えばこの飛空艇の動力だ。これは燃料無しで飛んでいる。空を流れる魔力の流れ、天脈から自動で魔力を吸い上げ、動力とするように設定してある。こんな特殊効果付与も、通常のクラフトスキルではできないことだろう。
「さて、ドラゴンステーキが焼き上がるまで、しばらく休憩だな。皆肉塊を運んで疲れたろう」
「そうだね」
「ですね、いやー、船内は温かいですー」
そうしてしばらくコタツでくつろいだ後、俺たちは台所へ向かった。
「ドラゴン肉はシンプルな味付けでも十分行ける。塩コショウしか入れないよ。あ、エレノア。一口サイズに刻んでよ」
「了解!」
エレノアは短剣を鞘から抜き放つ。
「いやいや、普通にこの包丁でやって」
「あ、ごめん。つい握り慣れてるから」
エレノア……もしかして一人暮らし時代は包丁握ったことなかったのか? いや、あるいは召使いが全部やってくれていた可能性もある。なんたって皇国の剣聖様だしな。
「はい、できた!」
「オーケー、じゃあパンと一緒に頂くか」
俺は倉庫からパンを取り出し、皿に盛り付ける。
「東方の方々はコメを主食とすると聞いたのですが」
セレスティアが真っ当な疑問を投げかてくる。
「それはまたポイントCで確保するから。後で存分に味わおう!」
「楽しみです!」
こうして、おれたちはドラゴンステーキにありついた。のだが。
「うぅ、柔らかくジューシーでおいしいけど、もうお腹いっぱい」
「一口でもう食べれなくなりましたね」
ドラゴン肉の高すぎる栄養価で、二人ともぐったりしてしまった。
三人所帯に増えても、あのロックドラゴンの巨体を平らげるにはまだかかりそうだ。




