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飛空艇撃墜

 引っ越し準備も終わりかけたころ。


 性懲りもなく、またシドとかいう奴が飛んできた。


「最後通告だ。天離蔵人。飛空艇を明け渡せ。さもなくば撃ち落とす!」


「あー、うん。撃ち落とせば? できないと思うけど、不可能に挑戦してみるのもいいことだと思うんだ」


 俺は適当な返事をしておいた。


「残念だよ。これほどの技術の粋を破壊しなければならないとは」


「乗り込んで制圧するという選択肢はないの?」


 思えば、最初からそうしていれば良さそうなものだ。


「【死刻の蔵人】が相手では、制圧時に多くの死人が出る。との陛下の見立てだ」


「なるほど。俺はもう殺人はしないけど、確かに制圧は無理だろうね」


 エレノア一人倒すのにどれだけ人手がいるのか、って話だしな。


「ならば撃ち落とすまで。【スカイ・ピアッサー】起動!」


 号令と共に、魔法陣がいくつも展開された。これは、スカイ・ピアッサーの弾道を誘導するためのものか。地上から飛空艇まで、連なるように展開されている。


「もう逃げられないぞ」


「そうだね。じゃあ、抵抗させてもらうよ」


 俺は【蔵】の異能を解放する。


「【蔵出し】――『城塞』、『尖塔』、『縛鎖』」


 俺が三つの巨大な蔵を召喚すると、シドは少し驚いたようだった。


「無抵抗で受け入れるのかと思っていたが、随分と必死だな」


「そりゃあ、安住の地が脅かされたら誰だって必死になるでしょ。あ、避けていいの?」


 落下していく大質量の蔵を見つつ、俺は忠告してやる。


「皇国の首都が壊滅するよ?」


「くっ、極大魔法【セイクリッド・ノヴァ】」


 ド派手な閃光と共に白い光球が現れ、俺の蔵、『城塞』を消し飛ばした。さすがは宮廷魔術師。


「あれぇ? そっちのタワー、『尖塔』までは消せなかったね。あと、そっちの鎖、『縛鎖』も結構太いから、落ちたら首都壊滅だよ?」


「くっ、くそが!」


 シドは魔力の限り蔵の破壊を続けた。破片すら残らぬよう完璧に消し飛ばし、どうにか帝都を守ってみせた。


「ふっ、こんなものか。【死刻の蔵人】。聞いたほどではないな」


 明らかに疲弊しきっているが、シドは余裕を装っているようだ。


「うん、こんなもので済むわけないでしょ?」


「なっ」


「【蔵出し】――『仙山大社』」


 天を衝くほどの巨大な和風建築が顕現する。これは神社のお社型の【蔵】だ。俺の手持ちの蔵でも最大級。巨人でもお参りするのかというくらいの、規格外の大きさだ。


「くっ、【フレアバースト】、【ラムダボルト】、【テンペスト】!」


 炎、雷、風属性の極大魔法を連発するが、シドは仙山大社を削り切れない。せいぜい、神前の賽銭箱を揺らした程度だ。


「くそっ、これでは……」


 そんな一言を残し、シドは魔力切れとなって墜落していった。


「ふん、所詮こんなものね」


 俺は指をパチンと鳴らし、仙山大社を亜空間に収納した。もちろん最初から帝都を滅ぼすつもりはない。ただの脅しだ。


「さて、引っ越し準備は整ったかな?」


「クロード、随分と余裕な立ち回りだね」


 リュックを背負ったエレノアが指摘してくる。


「遊び相手にもならなかったよ。俺だって戦場にいた頃は、もっと本気出して戦ってたんだけどね」


「ホント底が知れないわね、クロード」


 皆も呆れているようだし、もう頃合いだろう。俺は船室の一角を指差した。


「この扉の向こうを別の【蔵】と繋げた。しばらくはそっちに退避だ」


 俺が引越しの号令をかけようとしたところ、地上から大音声が響いた。


「貴様は我が都を破壊せんとする略奪者だ! ここで撃ち落とす!」


 これは、拡声魔法で増幅された皇帝の声か。オレイン皇国皇帝エルデレイトとは、幼い頃戦ったこともある。随分と偉くなったものだな。


「やってみろって言ってるのに。さ、皆。先行ってて。俺は店じまいするから」


「う、うん」


「クロードさんだけ残って犠牲になるのは無しですよ!」


 セレスティアが要らぬ心配をしてくる。


「大丈夫。そんなことはしないよ。というか、俺がそんな殊勝なことをするタイプに見える?」


「見えますが……」


「ほう、それは嬉しいね。そして、セレスティアには人を見る目がないようだ」


 俺がそんな軽口を叩くと、セレスティアは頬を膨らませて扉を潜っていった。


 三人とも退避したところで、俺は飛空艇の高度を下げる。


「ほーら、狙いやすいでしょう? 撃ち落としてみなよ? スカイ・ピアッサ―(笑)とやらで」


 目印の魔法陣を次々と通り抜け、皇帝の居城を目がけて飛空艇を飛ばす。


「ではこれを食らえ! 【スカイ・ピアッサー】!」


 エルデレイトの大仰な掛け声で大魔法が発動し、光の矢が一筋、飛来する。意外にも地味な魔法なんだな。見た目にこだわっていない分、逆に強力そうだ。あの細い矢に、高濃度の魔力が圧縮されているのだろう。


 ならばそんなもの、食らう必要も、防ぐ必要もない。


「【蔵潰し】――『飛空艇アイオロス』」


 俺はそうとだけ唱え、扉を潜った。


 途端に飛空艇は光の粒となって消え、何もない空間をスカイ・ピアッサーが通り抜けた。これで、スカイ・ピアッサーが飛空艇を木っ端微塵に破壊し、貫通してそのまま空の彼方に消えたように見えるだろう。


 帝都は歓声に包まれているようだ。扉越しにも民衆の熱狂が伝わってくる。エルデレイトのが俺のことを、民衆にどう説明していたのか。それにもよるが、これで本格的に安穏生活が安定しそうだな。


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