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英雄たちとの鬼ごっこ

 フレアを迎えてから三週間が経った。


「はー、あったまるー」

「ですねー」

「わ、私の炎にこんな使い方が……」


 三人ともくつろいでいるようだ。フレアもすっかり馴染んだな。


 俺は飛空艇を変形させ、甲板上に露天風呂を作った。ポイントBで回収した雪を積んであったので、それをフレアの炎で溶かしてお湯にした。


 もちろん俺は男なので立ち入れないが、三人の気の抜けた声を聞いているだけで嬉しくなってきた。


 とはいうものの。


「あいつら、一日に三回風呂入ってるけど、大丈夫なのか?」


 俺は思わず呟いてしまう。


 風呂に入っていないときはコタツか布団かベッドにこもっているし、心なしか奴らも太ってきている気がする。いや、女子相手にそんな指摘は絶対にできないのだが。

 ここはなにか対策を考えた方がいいか。


 翌日。俺は飛空艇の甲板に皆を集めた。


「というわけで、だ。甲板で鬼ごっこでもしないか?」

「いいですね! やってみたいです!」


 意外にも乗り気なのはセレスティアだった。布団から出たくないと言い張りそうだったのだが。


「確かに運動不足だったしね」

「まさかクロード。私たちの体型を気にして?」


 フレアが地味に鋭いことを言ってきた。


「いや。単に運動不足は不健康だからな」


 俺は慌てて誤魔化す。


「ふぅん。ま、いやらしい目で見てないのならいいが」


 俺がそういう目で三人の身体を観察した結果、太っていることに気付いた……とでも言いたげだな。違うのだが。


「ま、最初は俺が鬼になるよ。魔法、武器を使うのは無しね。じゃあ、始め!」


 すると、眼前には既にエレノアの姿があった。こんなに俊敏なエレノアは初めて見たかもしれない。


「え、エレノア。ルール分かってる?」

「逃げるなんて私らしくない! 鬼が追ってくるなら、こちらから先制攻撃するまで!」


 どうやら闘争心に火をつけてしまったらしい。仮にもこいつ、元剣聖だしな。


 居合にも似た手刀が俺の首筋に迫る。速い。そして、当たったら気絶するな。

 だが。


「あぁ、そういうかんじね」


 俺はエレノアの手刀を避け、そのまま腕を掴んで投げ飛ばした。俺の背後を取っていたフレアにぶつかり、二人はもみくちゃになって転がっていった。


「アハハ、これは鬼ごっこですよ? 逃げ切れば勝ち。殴り合いだなんて、元剣聖様は血気盛んですわねぇ!!」


 セレスティアは得意げにエレノアを煽る。


 セレスティア、こんなキャラだったっけ? なんかエレノアは闘争心に火がついて攻撃してくるし、皆人格変わり過ぎじゃないか?


「言ったわね、セレスティア。今クロードに触られたから鬼は私になった! 覚悟しなさい!」


 エレノアは物凄い速度で間合いを詰める。だが、セレスティアには追い付けない。セレスティアはフェイントを混ぜてうまく躱している。エレノアの方はと言うと、なんとも直線的で単発のダッシュばかりだ。


 もしかして、剣閃を叩き込む動きに慣れ過ぎて、走り続けることができないのか? もしくは、エレノアはあれが最速の動きだと自負しているので、敢えてそれ以外の動きをしていないのか?


「どーうしましたぁ? 元剣聖さん? 皇国の最終兵器が、聞いて呆れますねぇ??」


 セレスティアは相変わらず、人が変わったかのように煽る。


「くそ、なんでそんなに速いの?」

「聖女の加護ってやつですかねぇ? この星にいる限り【巌の聖女】の加護は健在ですからねぇ。身体能力、幸運度含めたあらゆるステータスがアップしているのですよ!!」


 なにそれ初耳なんだけど。とはいえ、俺は魔法と武器禁止としか言っていないので、今さらチートだとは言えない。


「フレア、こうなったら挟み撃ちよ! 二人でセレスティアを捕まえよう!」

「もう……走れない……」

「え」


 まさかフレアの奴、いかつい見た目に反して体力ないのか? 筋肉質で高身長、それに【業火の魔女】などという二つ名まであっては、魔法無しでも強いのかと思っていたが。


「フレア……休憩していいよ」

「なっ、クロードさん! フレアさんには甘いのですね! いいでしょう! エレノアさん、二人でクロードさんを挟み撃ちに……」

「はい、タッチ」


 セレスティアはフレアに文句を言っている間に、エレノアに追いつかれて鬼になった。煽り人格に豹変したのが仇となったな。


「こうなったらぁぁぁ! クロードさんに追い付きます!」


 セレスティアの周囲を無数の光球が舞う。さらには、青空に浮かぶ月が突然発光し始め、光線がセレスティアを照らした。


「この星も、空に浮かぶ月も、岩の塊であることに変わりありません。デカい岩、つまり巌!! 【巌の聖女】たる私に力を貸す存在なのです!」


 そんなすごい加護があったのか。どおりでアデオダトスが殺しに来るわけだ。


 その力を民に向ければ、あんなに追い込まれることもなかっただろうに。それだけの力を持ちながら、平和を願い、自らの命を以て乱世を収めようとしていたのか。セレスティアは。


「実力を隠してたの、セレスティアだけじゃないんだよねー、【蔵潰し】――『六刻砲』」


 俺は大砲の形をした蔵を召喚する。そして、俺が指を振ると、大砲は光の粒となって消え去り、俺の身体に吸収された。


「まさか、外付けの魔力貯蔵庫?? ずるいです! 魔法は禁止ですよ!!」

「いいや、これは俺が日々プールしてきた生命力のストック。魔力じゃない。でも、力が漲るなぁ!」


 蔵に生命力をストックしておき、有事の際に還元させるのは天離家の常套手段。俺が戦場で【死刻の蔵人】と恐れられた所以の一つだ。


「はい、タッチ。じゃあ、セレスティアの負けってことで」

「いいいいやぁぁああああ!!」


 セレスティアは狂ったように大げさに悔しがって見せた。

                  ◇

「はー、あったまるー」


 俺はエレノア、フレアと共に艦上露天風呂に浸かっていた。セレスティアは負けたので夕飯当番にしてやった。煽り人格も元に戻ったようだし、まぁいいだろ。


「クロードも最初から一緒に入れば良かったのに」

「確かに。クロード、意識しすぎなんじゃ?」


 二人はそんなことを言ってくるが、正直目のやり場に困る。お互いタオルこそ纏っているが、なんだか気まずい。


「確かに、気を遣いすぎたかな」


 俺はそんな気のない返事をし、恥ずかしいのを誤魔化した。


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