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境界線という生き方

境界線と凶変

作者: 花咲雫
掲載日:2025/12/12

私は、優しい人間だと思われている。


それはたぶん、間違いではない。

私は人を否定しない。

好きなものを好きだと言う人を、笑わない。

弱さを見せる人から、目を逸らさない。

守ると決めた存在――動物や、子どもや、声を上げられないものたちを、裏切らない。


だから人は言う。

「優しいね」と。


けれど、その言葉の裏側で、

私はよく別の評価も受け取ってきた。


冷たい人。

距離がある人。

何を考えているかわからない人。

強すぎる人。

隙がない人。

恋愛に向いていなさそうな人。


そして最後に、決まってこう続く。

「近づくと、自分が試されそう」。


私は、試してなどいない。

ただ、自分の生きる境界線を、はっきり引いているだけだ。


その線は、親切で曖昧なものではない。

ここまでは許す。

ここから先は、許さない。


その境界を越えられたとき、

私の中で何かが静かに切り替わる。


怒りでも、憎しみでもない。

悲しみですらない。


ただ、迷いが消える。


私は、その瞬間を「凶変」と呼んでいる。


凶変した私は、優しくない。

情もかけない。

理解しようともしない。


けれどそれは、壊れた姿ではない。

私が私を守るために、ようやく本来の輪郭を取り戻した姿だ。


優しさは、無限ではない。

自由を侵害されてまで、誰かを抱きしめる義務はない。


私は、優しい人間だと思われている。

それは事実だ。


ただし――

境界線の内側にいる限り、という条件付きで。


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