Part 2:暗黒騎士
結局ウェズンの服選びが終わる頃には、空が暗くなり始めていた。
「ごめんごめん、こんなにたくさん服があると選びきれなくて...」
「それ、さっきの家具屋でも言ってました...」ウェズンから託された衣服を入れたカバンが、僕の背筋をいじめる。今にも悲鳴を上げてはち切れそうだった。
「でもさ、」ウェズンが放った少し寂しげな声に、急に意識が向いた。
「私、地元では『扱いづらい人』だったから、友達もいなくてさ。だから当然、誰かとどこか遊びに行くことができなくて。」
「だから、ありがとう。」
前世でお礼を言われることはなかった。だから、いざ言われると少しむずがゆい。
部屋に戻ると、すでに家具が置かれていた。転移魔法によって運ばれていたのだ。早速本棚を設置し、魔法書を全て収納した。我ながら大量に持ってきてしまったな…
今日も昨日と同じように食堂に行った。しかし、昨日よりなにやら賑やかだ。何故こんなにも…?と、思ったところで昨日の入学式後、教頭から言われたことを思い出した。
(明日からの1週間、様々な活動団体の仮体験会があります。興味がある方は是非行ってみてください。)
…思い出した。どうやら皆、今日の活動を通して親睦を深めていたらしい。完全に一歩、出遅れた…そうやって孤独感を改めて感じていると、
「な、なぁ、君さあ、リギルだろ?」
急に目の前にいた男子学生が話しかけてきた。
誰だ?と言う目で見ていると、向こうから自己紹介をしてきた。
「俺、カイって言うんだが、実は今日一日中寝てしまってな…みんな仮体験会で仲良くなってるみたいでな。話しかけるタイミングを失ってたんだが…」
「あ、そうなんだ...実は僕も今日行けなくて...」
「おぉ!まじかよ!じゃあぼっち同士、よろしくな!リギル!」
「ああ、よろしく...ところで、どうして僕の名前を?」
「ん?あぁ、だって入学式の時、隣だったから。」
「あ、そうだったんだ」気付かなかった。あの時は死ぬほど眠かったから何一つ覚えていない。
「以後お見知りおきを」冗談交じりに彼は言い、「なぁ、明日の仮体験会こそちゃんといかねえか?」と誘ってきた。
「もちろん、行こう!」二つ返事で答えた。本音はウェズンと街を散策したかったが、親交を深めることも大事だ。実際、カイがいなければ3年間ぼっちが確定してしまっていたかもしれない。
「よろしくな」と改めて挨拶をした後、少しだけ雑談した。
「リギルは魔術科と剣術科どっちに行くんだ?」
「父さんが魔術師だから、僕も魔術師になろうと思ってね。」
「おっ、それじゃあ魔術科か!俺は剣術科志望だから2年からは離れちまうな…ま、とりあえず同じホームルームになれたらいいな!」
「そうだね。実際、剣術科にも興味あったけど、体力が持たなくて…」
「いやいや、魔術師の方が絶対すげーって!俺も体力全然無いけど魔術がからっきしだめだから仕方なくって感じだし!」
「えーじゃあ一緒に魔術やろうよ」
「やりてぇけどな。まぁ今年終わってからじっくり考えるとするわ」
「あれ、選択するのって今年の冬じゃなかったっけ」
「まじかよ、思ったよりもすぐなんだな」
お互いの進路の話で盛り上がった。
「それじゃ明日」
「あぁ」
軽く別れの挨拶を交わした後、自室に戻った。
今日も中々忙しい日だった。ウェズンの買い物に付き合うのもいいが、やはり同級生の友達を作るのが最優先だ。明日こそはしっかりと仮体験会に行って友達を作ろう。
目覚まし時計がなった。昨日の夜からしていた頭痛が、より強さを増していた。窓の外では雨が降っている。この世界でも偏頭痛に悩まされているのである。
朝食の席でカイと合流し、早速学園の方まで向かった。まだまだ8時台だったが、早くも上級生が自分たちの活動団体へと新入生を招いていた。
2人で話した結果、午前はカイの、午後は僕の行きたい団体を見に行くことになった。
「ようこそ!プルトラン闘剣会へ!」
と超大柄の男性数名に招かれた先には、多くの剣が置かれている恐ろしい雰囲気の暗い部屋があった。
「えっと…カイ?ここであってるの?」
「ん?うん」と言いながら既に鎧に着替えている。準備がよろしいようで…
「そっちの君は!どの剣選ぶ?」
「えっ」僕もやるんすか。殺す気ですか。
「あぁーこっちは付き添いできたやつなんで。見学だと思います。」こっちの表情を見て、カイが代わりに答えてくれた。ナイス
「おーそうか!じゃあ君は素振りだな!」
ん?
「ほら!初心者でも持ちやすい軽めの剣だ!」
ん?って重!?10kgはあるぞ?軽めな剣でこの重さとか、ガチな人の剣ってどんだけ…
と思っていると、剣を渡してきた先輩が自分の剣を装備したようだ。
いやいやいやいや!?ゲームでしか見たことないタイプの超巨大な大剣を普通に持っている。何この世界。おかしい。
「よし!それじゃあまずは軽めに200回振ってみよう!」
「いやいや、俺は見学のつもりなんですけど…」
「すまない!見学者なんて想定してなかった!」
絵に描いたような脳筋…そんな彼に呆気に取られていると隣からガキン、と金属がぶつかり合う音がした。
「うおっ!?」カイと手合わせをしていた男が尻餅をついた。
「っし、順調!」
カイが得意気に立っていた。途端、部屋中がざわめく。
「あいつ何者だよ…」
「トラスさんが一撃で…」
「こりゃまた大物が入ってきたな…」
どうやら部屋の中で1番強い人を倒したらしい。あまりにも呆気ない決着だったからこそ、誰も理解が追いついていないようだった。
「何?この騒ぎは。」
「!部長!トラスが新入生に敗北したんですよ!」
と、俺にひたすら剣を振らせていた男が持ち場から離れて伝えに行った。部長と呼ばれたのは、銀色の長い髪をした身長は140程度の小柄な女子だった。
「へぇ。その子強いんだ。」
かなり余裕そうな口調で話している。正直、あの体格で筋肉もほとんどついていないような人が部長だとは信じられなかった。
「君、名前は?」
「カイって言います」
「そう。カイ、僕と手合わせしてみない?」
「部長…良いんですか?」
「うん。そんなに将来有望なら、この子に部長の座譲ろうと思って。面倒だしね。」
「部長、ですか?」
「うん。僕を倒せたら闘剣会の全ての権力を君にあげるよ。」と言って彼女が用意したのは木刀だった。
「真剣に対して、木刀…」思わず言葉が漏れてしまった。
「何?君も一緒にやる?」冷たい視線で見てきた。
「いえ、遠慮します」その鋭い目は、威圧を放っている。なんとなく、彼女が部長である理由がわかった気がする。
それぞれ立ち位置についた。部長と呼ばれた人は、小柄ながらかなりの威圧感を放っていた。対するカイは、先程の自信ありげな態度とは打って変わり、緊張しているようだ。
「それでは…勝負、開始!」数秒の静寂ののちに、先ほどカイにやられた…トラスだったか。が、審判を務め、一対一の手合わせが始まった。
数分間の戦い。その時間の中で、一瞬たりともカイが攻撃を放つことはなかった。
数分間、カイはずっと防戦一方だった。むしろ、部長がカイをあえて倒さないように手加減しているようにも見えた。あれほど激しい攻撃を仕掛けていたのに、まったく疲れている様子がない。対してカイは、息切れしながら横たわっている。力量差は一目瞭然だった。
「勝負ありかな。それじゃあ僕は王宮で稽古があるから。」
と言って、カイに向き直った
「カイ、僕の名前はスピカ。またいつでも闘剣会に来なよ。暇だったら稽古つけてあげる。」
そう言って、去って行ってしまった。
回復したカイを学校の外の丘まで連れて行った。ついでに水も飲ませてやった。
「あ〜生き返るわ〜…」気の抜けた声でカイが呟いた。恐らく、あれ程までの大敗を喫したことはないのだろう。相当落ち込んでいるようだった。
「悔しいけど、やっぱまだ天狗にならずに頑張れってことなんだろうな。」あんな負け方をしても、カイは前向きだった。
「それにしても、スピカさん強かったね」
「噂には聞いてたけど、こんなに圧倒的とは思わなかったな。全然勝てる気もしない勝負なんて今までになかったのに。」
「やっぱり、有名な人なんだ」
「なんと言っても、史上初めて、学生と騎士を兼任してる人だからな」
だから王宮での稽古があったのか。
「そういえば聞いたことある気がする」
「流石に学生という立場で禁軍入りはまずいから入れてないだけで、実力的には4等級くらいあると言われてる」
「4等級…」
父の二つも上だ。あんなに博識で神童と呼ばれた父ですら6等級な中で、まだ学生なのに4等級ほどの評価を受けているスピカは、雲の上以上の存在だった。
「まだまだ大学1年目なのに、闘剣会で部長をやり続けてるだけある。ただ、いつかは超えてみせるさ。俺だって強いから。」
「だって、序列の高そうな先輩を一撃で倒してたもんね」
「あぁ、ただあれは手加減するつもりで来てたと思う。次からは向こうだって全力で来るだろうし、今日ほど楽には倒せないと思う」
「そっか。でも、カイなら1番になれるよ。だって今の時点であんなに強いんだもん」
「そう言ってもらえると安心する」
ありがとな、と言うとカイは立ち上がった。
「さて、街中で昼飯でも食って午後からお前の行きたい場所まで行こうぜ!」
気付けば時計の針は1:00を指していた。
「やっぱ街って広いね。」
「俺も来たばっかの頃は面食らった。とは言っても、まだ3日前の話なんだけどな。」
昨日ずっと買い物をしていたから少しだけ慣れた気がした。それにしても馬鹿でかい街だ。王都と言われるだけある。
学校まで戻り、今度は魔術研究会の方へ足を運んだ。
「あ!リギル君!」と聞き馴染みのある声が部屋から飛んできた。
「ウェズン?やっぱりここに入ったんですね。」
「もちろん!いや〜昨日はごめんね、私も完全に体験会のこと忘れててさ」
「いえ、それに、ウェズンも今日が初めてですよね?」
「そうだよ〜」初日にして床の上で寝転ぶだなんて、馴染むのが早い気がするが…
「そっちは?友達?」
「はい。カイって言います」
「ほ〜かっこいい名前だね。カイ君も入るの?」
「僕は闘剣会に入る予定です。リギルに午前中付き合ってもらったんで、付き添いみたいな感じです」
「ほ〜闘剣会!じゃあもうスピカちゃんとは会ったのかな?」
「え、知り合いなんですか?」
「そうなんだよ〜リギル君にもまだ伝えてなかったっけ。部屋が一緒なのよね〜私たち。」
驚いた。ウェズンとスピカに意外な共通点があったもんだ
「それよりさっ!見ていくんでしょ?魔術研究会!」
ウェズンに手を引かれ、部屋の奥へと入っていった。
「いらっしゃい!ウェズンの友達?」
180センチは超えている長身の女性が話しかけてきた。彼女こそ、学園内魔術師最優秀者、ポリマだった。
「はい。高等部1年のリギルです。」
「そっか!よろしくね。私はポリマ。魔術研究会の部長!」
よろしくお願いします、と会釈したのち、研究会の様子を見学した。
家の父さんの研究設備も優れていたが、王都の大学の研究室はそれ以上に優れていた。魔導書も自分の熟読したものから知らないものまでありとあらゆる魔術に対応した魔導書が並べられていた。今研究会自体の活動は、魔術瓶の生成だった。魔術を瓶に閉じ込め、その瓶を破壊することで魔力の弱い人でも難解な魔術を一度だけ使えるという道具だ。ただし、魔術の威力が高ければ高いほど瓶ごと破壊してしまう可能性は高くなる。だからこそ、繊細で丁寧な操作が必要なのだ。
ドン、と大きな音が鳴ったと思うと、瓶の中に炎が閉じ込められていた。
「ほら、完成した。」と、ポリマは誇らしげだ。
「ほー。これすごいね〜」とウェズンが興味津々に瓶を見つめている。
「あの、僕も見てもいいですか」と、ポリマに問いかけてみた。
「もちろん。自由に見ていいよ」と言われたので手に取ってみようと思ったが、落としたりしたら大惨事になりかねないのでやめておいた。
カイは魔術よりもウェズンの方に興味があるようだ。さっきからチラチラずっと見ている。
「ねぇ、リギル君ってさ、もしかしてだけど、リゲルさんの息子さん?」
不意にポリマが聞いてきた
「あ、そうですけど…どうして?」
父さんは確かに6等級ではあるけど、3000人いる6等級を全員覚えてる上に、その家族構成を覚えるなど到底無理であろう。
「やっぱりそうだ!実はリゲルさんって私の師匠なんだよね。本当に幼い頃だったけど。それで、師匠が手紙を送ってきたんだ。息子がこれから世話になるって。」
彼女は21で、僕は15。6歳差なので、僕の記憶に残らないほど幼い頃だったのだろう。
ポリマはかなり有名だったが、彼女の生い立ちまでもは知らなかった。まさか、自分の父親がこの人の師匠をするほどすごい人だとは思わなかった。
「初めて知りました。父がポリマさんの師匠だったなんて」
「あれ〜師匠にもたまに手紙出してるのに、私について何も教えてもらわなかったの?」
「みたいですね。何でかわかりませんけど。」
「変な人だよね。とにかく、入ってくれるんだよね?」
「はい。」
「やった!ありがとう!早速なんだけどさ、君の魔術の力、見てみたいんだよね。幼い頃から英才教育施されてたでしょ?」
といって強引に杖を手渡してきた。
少し戸惑いながらも、この時を待っていた、と言った感じだ。
この世界には魔力木が存在する。枝や幹の中に微細な魔力が込められている木だ。それを加工して魔術の杖を生成する。基本的に上級魔術を使うにはそれ相応の杖が必要なのだが、少年時代の自分には、そんな杖を買うお金などなかった。父さんの杖を使うのは流石に怒られるだろうし気が引けた。よって自分で魔術木の枝を探し、加工することなくそれをそのまま杖として使っていた。そんな自家製の杖で中学時代、学年トップだったのだ。本物の杖を持ったら、どれだけ強くなるか。
というわけでポリマと一緒に外に出た。カイはウェズンと一緒にいたそうだったので置いてきた。グラウンドには、魔術実験台用のダミーが置いてあった。すでに使い古されていたようだったが、ポリマが構わないで全力をぶつけていいと言ったので、精神統一を始めた。
(炎。それは温もり。光。万物を焼却する。傷を癒す。その気まぐれを纏え。赤に染めろ。青に染めろ。そして黒に染めろ。)心の中で詠唱を始めた。別に詠唱なんてする必要なんてないのだが、何となくムードを作るためだ。
「アレグロ・フレア!」
途端、ダミーが巨大な炎の渦に包まれた。炎の渦はダミーを抱え込んだまま、数十秒間、不気味なうねりを続けた。
渦が消えた頃には、ダミーは消し炭になっていた。
見物していたポリマは数秒間、凍ったように動かなくなっていた。自分も、想像以上の火力に、思考停止していた。
「君…」ポリマが呟いた。
「やばすぎでしょ!?あんな強さ、新入生で出せた子いなかったよ!」
興奮がおさまらない様子でどんどん近づいてくる。
「僕も、杖を使った魔術ってのは初めてだったので自分でも驚いてます…」
「え?杖使った事ないの?」
「はい。小さいうちは使わなくてもいいと父から言われてたので」
「そんな事ないのにな〜。でもまぁ、師匠ケチだったし」
彼女の言う通り、父さんはドが付くほどのケチだった。彼が悩むことなく金を払ったのは、僕の入学費くらいだった。
完全に燃え尽きたダミーを片付けて、ポリマと研究会へと戻った。戻った後、ポリマは地図を渡してきた。
「君絶対これから伸びるから、少し高くても杖買った方がいいよ」地図には、杖を専門とする老舗に印がつけられていた。彼女の言う通り、杖は子供の玩具にしてはかなり高くなるため、父さんも買うのを避けていたのだ。
午後4時を回り、そろそろ頃合いかと思ったので、入会手続きを済ませてカイを引きずって帰った。
「なぁ〜リギル〜」
カイがため息のように話す。
「ウェズンさん、めっちゃいい人だった。いい匂いもした」
一目惚れしてしまったようだ。ウェズンの性格上、カイもまた、ただの後輩としか見られていなさそうだが。
「それじゃ。」
「うん、またご飯の時。」
軽い挨拶を交わして、それぞれの部屋に戻った。
部屋に戻ると、時計の針は4時半を指していた。6時の食事の時までまだまだ時間がある。
…地図を見てみると、杖を売っている店まで、20分程度で着けそうだ。往復しても、まだ6時まで時間が余りそうだ。
次の日にしても良かったが、自分だけの杖を手に入れたいと言う感情が勝った。
勢いよく寮を飛び出し、店の方まで走った。家を出る時にもらったこの世界の通貨、10万アストをポケットに突っ込み、できるだけ高い杖を買いに行った。
勢いよく進み、大通りを過ぎ、小さな路地を駆け抜けて進み続けた。目指すは杖の店。
そのはずだったのだが...
「ここ...どこだろう」道に迷ってしまった。そういえば、王都に来て初めて一人で街に出た気がする。方向音痴な自分が、地図をうまく読み取れるわけもなく、そのまま変な場所まで迷い込んでしまった。
周囲を見渡すと、すごく寂れた様子の街並みが続いていた。建物の窓にヒビが入り、小動物が行列を作って道を進んでいた。とにかく薄暗くていかにも治安の悪そうな地域だった。
こんなところに大金を持ってうろついていたら誰に襲われるか分かったものではない。どうにかしてもと来た道を戻らねばならない。そう思いながら進んでいると、一つの違和感に気付いた。
人がいない。観光客を狙って盗みを働くスリも、ギャングもいない。周囲の建物にも明かりの気配はない。危険だから人がいないと言う話は聞いたことがあるのだが、元から人が一人もいないのだ。
そう思うと、急に恐ろしくなってきた。誰か人を探さなければならないと思うようになった。最後に人を見てから数十分は経っているだろう。その事実が余計に恐怖を増幅させた。
人が見つかる気配がしなかったので、魔法を使うことにした。伝達魔法。この世界には電話がない代わりに、伝達魔法で遠くの相手と会話する。とはいっても電話ほど便利なものではなく、距離が離れすぎていると伝わらない。ここがどこかはわからないが、ウェズンとポリマの二人に向けて、それぞれ道に迷った旨を伝えた。
「ステラ・トランス」
正直道を聞こうにも人がいないのでは、伝達魔法以外に助けを呼ぶ方法がない。とりあえず二人のうちどちらかから返事が来るまで待つのが賢明だろう。
3分ほど経ったとき、コツン、コツンと足音が聞こえてきた。
...誰だ?ウェズンやポリマなら、先に伝達魔法で返事が返ってきているはずだ。とするのなら、誰か通りかかった人とかだろう。でも安心した。この人に道を聞けば...
そして遠くから、その人物の姿が見えた。
(王都で悪さをしている超凶悪犯。政府が把握している情報によると、『紫がかった鎧に、漆黒のマント。手には黒い剣を携え、顔面はフードで隠されている』という情報ね。いい?リギル君。この特徴の人を見つけたら、すぐ逃げるのよ。絶対に抵抗しようとしないで。)
ウェズンの言っていたことが脳裏によぎる。
紫色の鎧に、黒色のマント。手に握られているのは、黒色に鈍く光る剣。頭にフードのようなものを被っているのだろうか。すべての特徴が一致していた。
間違いない。彼こそが「暗黒騎士」だ。
その事実に気付いた途端、汗が止まらなくなった。血の気が引くというのはこんな状態のことを言うのだろう。顔中が冷たくなり、膝に力が入らなくなった。腰はもう既に抜けている。
彼は僕に気付いているのだろうか。ゆっくり、ゆっくりと歩みを進めている。
どうにかして切り抜けなければならない。魔法を使うか?杖もない状況で切り抜けれるわけがない。
(リギル君。君が思ってるよりも暗黒騎士は強い。何度も騎士団の人間を消してきた存在よ。まだまだデブリ級のわたしたちがどうにかできる相手じゃないの。お願い。絶対に逃げるのよ。)
そうだ。勝てるわけがない。逃げなければ。そう思い立って身体を起こした。いや、起こそうとした。力が入らない。腕にすら入らなかった。体中すべての細胞が恐怖で固まっている。
やがて暗黒騎士は、僕の目の前で歩みを止めた。
「少年」
彼は不意に、語りかけてきた。
「貴様の目的は何だ」
急な問いかけに戸惑ったが、何も答えないと殺されると直感的に理解した。
「道に迷って…」喉が硬く閉まって掠れたような声しか出なかった。
「少年」何とか暗黒騎士には届いたようだ。
「この道を直進し続けろ。大通りへ続いている」
少し経ってから、ようやく彼が道を教えてくれたと気付いた。
「ありがとうございます」今度は少しだけ大きめの声を出せた。殺す気はないと理解し、少しだけ緊張が解けたのだろう。脚にも力が入るようになっていた。
こんな恐ろしい場所にはいてられない。とにかく一目散に駆け出した。
「少年」後ろから暗黒騎士の声が聞こえた
「我々はまた出会うだろう」
微かにだが、確かにそう聞こえた。その声は、やけに深く、内臓に響くような声だった。
走り続けていると、街灯の灯りが見えてきた。ようやく大通りに辿り着いたようだ。安心から、その場にへたり込んでしまった。
「リギル君!」遠くから、ウェズンとポリマとスピカが駆け寄ってきた。
「心配したよ!いくら伝達魔法を送っても、一向に返事が来ないんだもん!」
よくみると、ウェズンの目には涙が溜まっていた。
「君、今までどこにいたんだい?」スピカが問いかけてきた。心なしか、怒っているようだった。
「本当だよ!私の捜索魔法でも見つからなかったのに、どこにいたの?」今度はポリマが問いかけてきた。
「えっと、この後ろの路地に迷い込んでいて、人1人いない、不気味な場所でした…」
暗黒騎士のことは言わないようにした。何か下手なことを言って、殺されるなんてあり得るかもしれない。そんな死に方はごめんだ。
「路地?」スピカが言った。
「君は、どの路地のことを言ってるんだい?」
驚いた。自分が確かに通り抜けてきた路地は、ただの壁になっていた。
「ねぇ、リギル君。」ポリマの顔が青ざめている。
「今、人がいない場所、って言った?」
「?はい…」
「もしかして、すごく薄暗い場所だった?」
「はい…」
ポリマとスピカが目配せをしている。そして同時に向き直った
「なるほど。君がどこにいたかわかったよ。」スピカが口を開いた。
「君…よく生きて帰って来れたね…」ポリマも続けた。
次にスピカの口から聞こえた言葉に、ウェズンの顔の色が真っ白になった。
「君がいた場所は、あの『暗黒騎士』の結界だ」
寮に戻った時、時間は9時を過ぎていた。
「入学して間もないのに、門限も守れないんですか、あなたは!」
寮長に死ぬほど説教された後、部屋に戻ると、ウェズンとスピカが部屋の前で待っていた。
「ポリマちゃんはもう寝ちゃったみたい」
「失礼するよ」
そう言って2人は部屋の中に入ってきた。
「どうしたんですか…?」恐る恐る尋ねると、スピカが話し始めた。
「君もウェズンも、ここにきて間もないから教えてあげないといけないね。」
そうして彼女は暗黒騎士について話し始めた。
「この街に巣食う悪党の暗黒騎士については聞いたことあると思う。彼の詳細について教えておくね。生存者の報告によると、暗黒騎士は黒魔術で結界を展開しているらしい。そこに迷い込んだ人々は数十人にのぼると言われているらしいけど、実際に生還したのは5人だけ。元々人々が急に失踪した時期があったんだ。で、暗黒騎士の結界からの生還者が結界について話していたことから、失踪者は結界内で殺されているって言う風に推理されてる。恐らくだけど、今日リギルが迷い込んだのも彼の結界と推測できるね。」
生還者がそこまで少ないとは。いや、むしろ5人も戻れていたのか。
「リギルに聞きたいんだけど、君はどうやって暗黒騎士から解放された?」
不意に、スピカから質問された。
「それは…」
(我々はまた出会うだろう。)
彼の発言がフラッシュバックした。何か下手なことを口走ってしまうと、彼が僕を殺しに来るかもしれない。
「…言えません。」
「リギル君…」心配そうにウェズンが見てくる。スピカはただ淡々と話を続けた。
「うん。結界内での話はしない方がいい。最初の生還者は、助かって、彼の体験談を話した後に、何者かによって斬殺されていた。他の4人もだ。全員、公の場で顔を堂々と出していたから、暗黒騎士に狙われたのかもね。僕たちが君にできることは、君が暗黒騎士と出会ったと言う事実を隠すこと。」
いや、それまでに体験談を話した人が死んでたなら僕にも言わせようとしてたのって…
「いい?ウェズン。彼の今日体験したことは一切口外禁止。」
「うん、わかった。」そう言ってウェズンは僕を抱きしめてきた。
「無事に帰って来れて良かったね…本当に。」少し声が震えていた。
「…ごめんなさい。心配かけてしまって。」
それからしばらく、スピカがウェズンを宥めるのを見ていた。
「それじゃあまたね、リギル。もう2度と結界の中に迷い込むんじゃないよ。」
眠ってしまったウェズンを背中におぶってスピカは部屋を去った。
もう夜中の1時になっていた。寝付けるかはわからないが、とりあえずベッドに入った。まだあの時の恐怖が抜けていない。寝ている間に、暗黒騎士がやってくるかもしれない。もしかしたら、目覚めた瞬間に結界の中にいるかもしれない。もしかしたら……
「…だからと言って女子寮に入ってくるなんてね…」1人だと全く寝付けなかったので、一晩だけスピカとウェズンの部屋に泊めてもらった。
書くことは特にないので、キャラ設定だけ書いておきます。
リギル 15歳
身長 171cm
体重 63kg
階級 デブリ級
得意科目 魔術
苦手科目 言語学
趣味 読書
ウェズン 18歳
身長 158cm
体重 49kg
階級 デブリ級
得意科目 歴史
苦手科目 数学
趣味 お酒
カイ 15歳
身長 178cm
体重 71kg
階級 デブリ級
得意科目 剣術
苦手科目 数学
趣味 トレーニング
スピカ 18歳
身長 142cm
体重 42kg
階級 超級(特例)
得意科目 剣術
苦手科目 政治学
趣味 舞踏
ポリマ 21歳
身長 181cm
体重 67kg
階級 デブリ級
得意科目 魔術
苦手科目 剣術
趣味 工芸




