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Parallel School  作者: Lyra
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Part 1:あたらしい世界

生前の自分は、何もない人間だった。

成績は平均的。運動はもちろんできない。顔も大した見た目でなく、友達はいなかった。

クラスの上位にいるグループは、俺を玩具のように扱った。

文房具を投げ、特定の部位に当たれば勝ち。金を持ってたら盗まれる。持ってなかったら殴られる。服を脱がされては、バカにされる。思い出したくもない罵倒の数々。家では金を盗んだ自分に対して、家族は犯罪者を扱うように自分を見てきた。

担任は少しでも自分を守るために、保健室登校を勧めたり、授業中は休ませ、放課後に個別で教えてくれたりしていた。でも、楽しく遊べた玩具を簡単に手放す輩じゃない。登下校中を狙われた。何度も辱めを受けた。

もう耐えられなくなった自分は、自決を選んだ。

死んだあと、真っ白な空間に俺は立っていた。目の前には、スーツを着た男が。彼は何も話すことはなく、ゆっくりと、俺を隣の部屋に案内した。そこで短い映像を見た。

「高校生男子、自殺。」という新聞の記事。俺のことだ。俺が死んだそのあとの様子が、ダイジェスト映像のように見せられた。

壮絶ないじめを行なった集団は、すぐに全国民のバッシングに晒された。どこから漏れたかは知らないが、彼ら全員の実名と写真はSNS上ですぐに拡散された。学校には多くの批判が寄せられた。俺を気遣ってくれた担任は、管理責任を問われ、仕事を辞めざるを得なかった。彼を切り捨てた上層部は何食わぬ顔で今日も生徒と接している。俺の自殺からたった数日の出来事だ。

ある日、俺をいじめていた集団の...もっとも立場の弱そうだった、ずっとパシりにされていた女子が自殺した。理由は批判に耐えられなかったということだった。

かくして、俺の自殺は、俺含めた数人の人生を滅茶苦茶にし、そして数週間もしたら過去の話として、誰も話題に挙げなくなった。テレビは昨日起こった交通事故について報道し、あんなに散々騒いでいたネット上の住人も、ユーモアあふれる投稿を続けている。

ふと、目が覚めた。スーツ姿の男が初めて話した。「自殺をされた方には、本来生きるはずだった寿命分、別世界でのやり直しが可能となります。もしくは、このまま完全な死を望む場合は、世界中の人々に、貴方の残り寿命を分けることができます。」

やり直しがきくと聞いて、少しうれしく思うも、恐怖の方が勝った。もしまた来世で同じようないじめに遭ったら?また自殺するのか?嫌だ。自分で自分を殺すだなんて、絶対に嫌だ。

俺の表情を見て、スーツ姿の男は追加で話した。「もしも来世でのやり直しを望まれる場合、貴方はこのような身分の人物になります」と、脇に抱えていたバインダーを開いた。

名前や家族構成、身長や体重など、多くの細かい情報がそこには書かれていた。そこに一つ、興味深い項目が。

「あの、この『魔力量』ってのは?」

「あぁ、そちらはですね、来世には魔法という概念が存在してまして。魔力量によって、使える魔法の数や種類が大幅に変わってくるというわけです。」

魔法...中学生から読み漁り続けたラノベにもあった、俺がずっとあこがれ続けた概念。それがあるだけでも、生き返る価値はある。瞬時にそう判断した。

「あのっ!」そう言って、俺は第二の人生の幕を開いた。


中学校卒業も近くなってきた。この世界でも、教育のシステムは似たようなものだった。9年間、義務教育期間があり、その後の進路は自分自身の実力に見合った高等学校に行き、最終的に騎士になるか、魔術師になるかを決めるのだ。

幼い頃から、というか前世からあこがれ続けていた魔術師になるために、俺は魔術高校に進学を決めた。前世と違って、勉学の才にも恵まれた俺は、遠方の一流の魔術学校に来月から通うことになった。しばらくの間は、ここに戻ってくることもない。

そう物思いにふけって、窓から外を眺めていた時、後ろから背中をたたかれた

「おっす!どうしたんだよ、もうすぐホームルームはじまるぞ!」

そう言った三年間ずっと一緒にいた友人に連れられ、教室へと入った。前世の中学校も、友達がいて、嫌いな奴がいて、好きな人がいて、なんやかんや楽しい三年間だった。

思い返せば、ここまでの人生は順風満帆だった。何事も怖気付く事はなく、馬鹿にされながらも、自分の趣味に誇りを持てていた。

そう思い返すと少し胸の奥がキュッとしたが、あまりネガティブに考えすぎるのも良くないので、とりあえず目の前のことに集中しよう。

今日は卒業式前日。多くの友達は地元に残るが、成績優秀者だった僕は、学校推薦により首都の高等学校へ進学を決めた。おそらく、数年間はこの地を踏むこともないだろう。

「…というわけで、明日の卒業式までは本校の生徒として謹んだ態度で臨んでくれ!お前らはこの学校を代表する存在になるんだからな!」

色々考えているうちに、気付いたらホームルームも終わっていた。形式的に学校に集まっているが、もうほとんど春休みみたいなものだ。ホームルームが終わったら即下校だった。

「じゃあね、」

「うん、さよなら」みたいな挨拶を何度も繰り返したのち、帰路に着こうとした。

「おーい、リギル」担任に呼び止められた。

「お前、今日からだって?」

「はい。今日から3年間、王都で勉強してきます。」

「そうか。くれぐれも頑張ってくれよな。何せ初めてうちから王都行きが決まった人間なんだから」

「わかってますよ」と答えつつもやはり不安だった。仲間が1人もいない状況で高校に行くのはやはり、怖い。

「それで、僕を呼び止めた理由って」

「あぁ、渡しておくものを忘れててな」

「?入学書類も、餞別の荷物も受け取ったはずですけど」

「ああ、一つだけ忘れててな。」

そこで彼が出したのは沢山の紙と、一つの色紙を取り出した。そこにはクラスメイトたちからのメッセージが書かれていた。

「1人じゃ寂しいだろうが、お前なら頑張れる。応援してるって伝えたかったんだ」

ふと、目頭が熱くなった。

「ありがとう…ございます」

少し泣きそうになりながらも、必死に声を出した。


「それじゃあな。数年後にまた顔見せてくれや」

「ええ。行きますよ、もちろん」と返事をして帰路についた。


家では親戚総出でお別れ会が開かれた。普段ならこんなことは嫌気がさすが、こんな集まりも今後数年間はできないと思うと、素直に受け入れることができた。お別れ会は一晩中続く勢いだったが、僕が20時の電車に乗り込むと言うと、全員で見送ってくれた。

「頑張れ」

「応援してる」

「また会おう」

そんな挨拶を一通りした後、両親と最後の挨拶をして、電車に乗り込んだ。

別れは辛いが、人生で初めて見る王都だ。期待がどんどん膨らんでいく。

「さて、僕の席は…あった。」

見つけたは良いが、自分の席を誰かが占拠している。20代前半くらいの女性が席を二つ分使って眠っていた。

「あのー」

「んぁ?ああ、なんですか〜?」

「そこ、窓際僕の席なんですけど」

そこでハッとしたように急いで起き上がり、

「本当にごめんなさいっ!!」

と謝ってきた。

…なんだかこの先色々心配になってきた。

色々いざこざはあったが、とりあえず出発前に座ることができた。

「いや〜本当にごめんねぇ〜」隣の女性が馴れ馴れしく話しかけてくる。酒を飲んでいるのか、なんだか酒臭い。

「君若いのに旅かい!関心関心だ。」

「いや、旅じゃなくて学校に行くんです。」

「え〜?君も学校行くの?もしかして大学?」

「大学じゃなくて高校ですけど…って、君『も?』」

「あぁ、私ね、プルトラン大学行くの。」

「え、じゃあめっちゃ近いですね。僕プルトラン付属高校なんで。」

「うっわ〜運命!」

「まぁ、運命と言うかこの時期に王都行きの列車に乗ると結構いるんじゃないですか?」

「いや〜運命ってことにしとこうよ〜そっちの方が楽しいよ?」

やっぱ酔いが抜けてないのか、声が大きい。

「あの、他のお客さんもいるので声控えめに…」

「あーごめんねぇ、お酒が抜けないんだわガハハ」

この世界での成人は18。生前と同じだが、この世界ではどうやら飲酒も18かららしい。成人しても20までは飲酒ができない前世と比べると何かとわかりやすい。

「もしかして君も寮住み?」

「まぁ、下宿するには物価が高すぎて…」

「えーそうなんだ、じゃあ私と一緒だね!」

そういえば説明書類に大学と寮が共用って書いてたな。今後も顔を合わせる可能性を考えると、今のうちに仲良くなっていた方が良さそうだ。

「あ、じゃあ自己紹介しようよ!私ね、ウェズン!専攻は自然魔術で、18歳!よろしく!」

「僕はリギルです。まだ専攻は決めてないんですけど、魔術を高校では習うつもりです。」

「いやー若いねー初々しいねー」

こうやって話しているだけでも、すごく人懐っこい人だとわかった。1人では不安だったが、しばらくの間はウェズンを頼りに生きよう。

「ね、リギル君は王都初めて?」

「あ、はい。実家からかなり遠くて気軽に行けないので。」

「おー一緒だねっ!」そう言いながら彼女はカバンから付箋だらけの大きな本を取り出した。

「色々ね、調べてきたんだ!生活必需品とか、買わないとでしょ?」

すごくしっかりしていると思いきや、付箋のページはどれもスイーツや遊び場だった。

「入学から数日間は暇じゃん?1人で行くのもアレだし、一緒に来てくれない?」

「あ、まぁ別に良いですけど。」

「ありがとマジ感謝〜!!」

そんな入学後の話をしているうちに、時間は25時になっていた。流石に疲れたのか、ウェズンは眠りこけている。自分も眠いのは眠いが、自作のカフェイン剤を飲みながら別車両に移動した。

この列車には、2階車両がある。そこには壁のない展望室があるので、今から見に行くのだ。切符を見せ、展望車両に乗り込んだ。ボーイにコーヒーを一杯頼み、物思いに耽っていた。丁度、列車が海沿いを走っている。水面に反射する月光は、海の色を含んで青白く見える。普段ならなんとも思うことはないが、深夜の少し暗い雰囲気が、自分をセンチメンタルにしていた。

「お〜い少年、どうしたんだい?」

突然背後からウェズンが出てきた。

「あれ、寝てたんじゃ…」

「いやぁ、寝てたんだけど君が立ち上がるので起きちゃってさ、いや〜展望車両に行くとは。君センスあるねえ」と言って、彼女はボーイにお酒を頼み、物の数秒で飲み干してしまった。ぐああと、品のない声を出した後、彼女はまた僕に向き直った。

「綺麗だね、海」

「まあ、これを楽しみに来てたんで、寝るわけには行きませんよ」

「あはは、すごい気合だね」

彼女がはにかんだ。真紅の髪が、青色に照らされていて美しく見えた。

その後も小一時間ほど海を見ていたが、段々と海から離れ始めたので席に戻り、到着まで眠った。


朝、列車の停車音で目を覚ました。隣の席のウェズンはもうすでに着替えを済ませ、降車準備をしていた。

「おはよう。」酔いが覚めているのか、つい数時間前と比べるとおとなしくなっていた。

「ご乗車ありがとうございました。」駅員に会釈し、改札口を通った瞬間、圧倒された。数十メートルはある巨大な建造物が林立していた。となりでウェズンも目を丸くして周囲を見渡している。数分ほど興奮が冷めないままキョロキョロと見渡していたが、近くにプルトラン大学附属と書かれた紙を掲げている大人が立っていた。

「それじゃあ一旦お別れだね。また明日、今日と同じ時間ここに集合しよ?」

「はい。これからもよろしくお願いします」

そうしてお互い、プルトラン大学と、附属高校の列に並んだ。


入学式は随分と早く終わった。寮の部屋に案内され、荷物を置いたらすぐに大講堂に移動し、簡単な挨拶が学長からされ、そしてまた寮に戻って来た。1週間後から、学校生活が始まる。部屋に戻った僕は、地元に向けて到着の手紙を書いた。今の所はマメに手紙を出すつもりではあるが、結局最後の方は出さなくなるのがオチだろう。そうならないように、習慣化することが大事だ。

手紙を書き終わり、荷物を広げる作業が終わるとちょうど夕食の時間だった。

食堂に生徒が集まり、食事をとる。皆初対面なだけあって、会話は少ない。食事が終わると、各々が席を立ち、風呂へと向かう。風呂から上がり、部屋に戻ってくると、どっと疲れが襲ってきた。やはり知り合いが1人もいない環境はかなり厳しい。最も、他の生徒も同じようなことを思っていたのだろうが。時間的にはまだ早いが、昨晩はほとんど寝てない上、列車内での睡眠だったので体力的に限界だった。明日もウェズンと待ち合わせているため、寝ることにした。この世界にはスマホもネットもない。夜になってやることが前世よりもかなり限られているのだ。明日活動するための英気を養うためにベッドに入った。


「おはよう少年!」

「リギルですよ、おはようございます、ウェズン。」

寮で朝食をとった後、ウェズンと駅で落ち合った。現在、部屋の中には最低限の荷物とベッドしかないので、衣服や家具を買いに行くのだ。

「どうだった?入学式。可愛い子いた?」

「入学式って言っても、実際にクラスがわかるのは来週なのでなんとも。」

「そっか〜こっちにはあんまいい男いなかったよ〜」

「まぁ知り合ううちにいい人と出会えるんじゃないですか?」

「そんなもんかな〜」

と言っている間に家具屋までやってきた。

「えっと〜私今日は机と椅子と衣装棚を買おうと思ってるんだけど」

「あ、僕も同じです。あと、本棚も欲しいです。」

「え?君読書するの?すごいね」

「読書と言うか、魔術書を実家から沢山持ってきたので。」

「魔術書がたくさんある家なんて、いいとこの坊ちゃんってこと?」

「まぁ、6等級ですけどね」

この世界の魔術師には階級で分けられる。僕達学生はデブリ級。大学卒業後に初級、中級、上級、超級に分けられる。それぞれに昇格試験があるのだが、超級には2年に一回、禁軍試験を受ける権利が与えられる。それに合格した超級は晴れて6等級へ昇格する。禁軍の中でも魔術師は6〜1等級に分けられ、国王直属の禁軍は0等級に区分されるのだ。

「え、じゃあ禁軍所属ってこと?」

「はい。とは言え、大した戦果を上げられずに半分左遷みたいなものですけど」

「いやいや、全然すごいよ。それで、リギル君は禁軍に入るの?」

「できれば入りたいですけどね。父でも万年6等級って言うのを見ると厳しそうで…」

「いやいや、高校生からそんな勉強熱心な人見たことないよ。きっとなれる。信じてるよ、リギル君」素直に人からこんなことを言われるのは久しぶりだったので、反応に困った。

「ありがとう、ございます」

そんな僕の顔を見たウェズンは満足そうな顔をして

「それじゃ早く行こ!今日は服も買いたいんだから!」と言って店に踏み込んで行った。


午前中全てを使ってやっと一通りの家具を買うことができた。

「初めて見たよ、転移魔法なんて!」

「確か1番不完全な魔法なんですよね」

「そうそう、魔力を含むものを転移させることは現状ではできないんだ。よく知ってるね」

「まぁ、父に教えてもらったので」

「へ〜お父さんやっぱすごいじゃん!」

そう言われて嬉しくなった。

「ねね、リギル君。お昼時だし、近くのカフェでお昼食べない?もちろん私奢るから!」

と言われたので、断る意味もないのでついて行った

「いや〜ごめんね~品選びだけで1時間近くかけちゃって。」

「いえ、あそこの品揃え、すごかったですもんね」

「そうなんだよ!だって、今まで小田舎の本当に小さい家具屋しか見てこなかったから、仰天しちゃった」

「僕もです。あんなに品揃え豊富な店、初めてでした。」

「こんなに王都って楽しいんだね!」といいながら、ウェズンはパンケーキを頬張る。その姿を見て、不覚にも可愛らしいものだと思ってしまった。


会計を済ませて店を出たとき、ちょうど騎士団が通るタイミングだった。小柄な老人と口論になっている。

「シルト博士。あなたを黒魔術施行容疑で逮捕します。」

「なんだ!お前ら!儂は何もやましいことはしとらん!」

「生命体復元の研究。悪魔召喚用の魔法陣生成。どちらも黒魔術施行対策法を完璧に犯す大罪です。これから尋問させていただきますので、ご同行を。」

「なっ!?お前ら離せ!儂は国のためになると思ってやっただけだ!尋問はやめてくれ!頼むから!」

シルトと呼ばれた男が騎士団によって連行されていった。

「あちゃ〜あれは禁忌を犯した人みたいだね。」

「禁忌って...」

「うん、黒魔術。すでに死んだ生命体を生き返らせること。『悪魔』を召喚すること。そして、人体実験の3つだね。これらを犯すと流刑になる大罪。絶対にやってはいけないんだ。」

「黒魔術を禁軍が行うと、暗黒の称号がつけられるんですよね」

「そう。暗黒の称号をつけられると、端的に言えばすべての権利が停止されてしまうわけね。もう二度と普通の人間としては生きていけない称号。そんな重い罪を犯す人なんて、今までに一人しかいないけれど。」

「『暗黒騎士』ですか。」

「その通り。王都で悪さをしている超凶悪犯。政府が把握している情報によると、『紫がかった鎧に、漆黒のマント。手には黒い剣を携え、顔面はフードで隠されている』という情報ね。いい?リギル君。この特徴の人を見つけたら、すぐ逃げるのよ。絶対に抵抗しようとしないで。」

「でも、騎士に対して魔術師は有利ってよく聞きますけど...」

「だめ。」言いかけたときに言葉を被せられた。

「リギル君。君が思ってるよりも暗黒騎士は強い。何度も騎士団の人間を消してきた存在よ。まだまだデブリ級のわたしたちがどうにかできる相手じゃないの。お願い。絶対に逃げるのよ。」

「わかり、ました。」

少し空気が重くなった後に、ウェズンが口を開いた。

「なんて!まぁ遭遇すること自体ほぼありえないしね!ごめんごめん!怖い話しちゃって。さ、服買いに行こう!」

前世ではこんな発言をフラグと称してあまり言ってはいけないことだが、まぁ回収しないように祈ろう。今はウェズンの買い物に付き合うときだ。

こうして、僕の王都での生活が始まった。

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