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塔の地下牢

 「レイさん、レイ……あ、良かった。目、開いたぁ」


 ふっとレイモンドが目を開ける。

 処置により魔力が半分程度回復した。

 エリザに魔力を喰われたところまでの記憶を思いだしたレイモンドは、あるはずのない声が聞こえた途端、上体を起こした。


 「……ここは?」

 「塔の地下牢よ。レイさん、魔力を抜かれてここに閉じ込められてたの。でも少し魔力が回復したみたい。良かった、とりあえず大丈夫そうね」


 床に転がった小瓶がレイモンドの視界に入った。今の状況を理解する。


 「どうしてここに来た?」

 「ごめんなさい。心配で来ちゃったの」


 「知らなかった。君にあとをつけられていたんだな。……これは追跡機能があったのか」


 マナから貰ったブローチに触れ、レイモンドは眉をさげた。


 「ごめんなさい」

 「いや、助けてくれてありがとう。だがこの村は危険だ。君は早く逃げてくれ」


 「うん、それじゃ、レイさんも行こう」

 「いや、俺はここに残る」


 何を言っているのかと驚き、マナは首を横に振った。


 「突然どうしたの、置いていけるわけない。さっきまでの状態、レイさんは魔力がなくて危うく死んでしまうところだったのよ!?」

 「わかってるさ。だがあの魔女をこのままにしておけない。あいつはこの村を支配し拠点にして、ゆくゆくはヘイデン王国を乗っ取り崩壊させようとしているんだ」


 レイモンドの眼差しは強かった。なにかを決意したのか、たった一人、ナトリ村に残って魔女エリザを倒すつもりなのだ。


 どう説得しようかと逡巡していると、レイモンドが首にかけたネックレスを取り出した。それには指輪が二つ通してあった。そのうちの一つを外しマナの手に握らせる。


 「君に頼みたいことがある。この指輪は王国騎士の証で、これをヘイデン王国の騎士団長に渡してほしい。そして事情を話し、ナトリ村へ騎士団を派遣してほしいと伝えてくれ」


 騎士団は複数隊あり、要請があればそのうちの一隊を出してくれる。勿論誰にでもというわけにはいかない。ある程度の地位ある領主などがほとんどだが、今回は内容が内容なだけに騎士団の力が必要だった。


 「そんなの無理。これはレイさん本人が行った方が早いよ」

 「そうだけど、それは出来ないんだ……ほら、これを見て」

 「?」


 レイモンドは目を伏せ、上着をめくり、腰にある痣を見せた。


 「これは本当は痣じゃない。この印はあの魔女が施した隷属の刻印なんだ。これがある以上、俺は魔女の支配下にあり、死ぬまで村から出る事はできない」

 「ーーれいぞくのこくいん」


 はじめて聞いた名称に戸惑っていると、耳元でフェルが囁いた。


 「解除するには術者本人が行うか、それか……マナ次第ですね」

 「私?」


 突然自分の名が出され、首をかしげる。

 ナトリ村の住人は魔術刻印を聖魔術師から授けられる。当然レイモンドも出生直後に肌に刻まれたのだが、当時はそれが何とは教えられていなかった。

 

 レイモンドが知ったのは最近で、刻印がある者はエリザの下僕となり命令通り動かねばならない。


 「騎士団にいた頃は魔女に支配されていなかったが、刻印を通じ常に監視はされていた。村に帰ってから今まで魔女に逆らえなくて本当に辛かった。でも今は……なんだろう。さっきより魔女の力を感じない。きっと俺が死同然の状態だと思っているから、興味をなくしたんじゃないかと思う」


 それでも村を出ればさすがにエリザは気づくだろう。


 「レイさんが村を出れば、魔女がなにをするかわからない」

 「ああ、」 


 それはまずい。マナは唸った。


 あの魔女は危険だ。この村の荒廃ぶりをみる限り、一刻も早く騎士団に助けを求めた方がいい。


 「俺のことはいい。どうせあいつは俺の事なんて、死んだと思って忘れてる。だから君は早く逃げるんだ」

 「レイさん、私が騎士団の人達を連れてくるまで、ここにいてくれる?」


 「ああ勿論、死んだふりでもしてるさ」

 「……約束ね。わかった。すぐ呼んでくるから待っててね」


 「すまない、ありがとう」


 指輪を握ってマナが頷くと、レイモンドはほっとしたのか微笑んだ。そしてもう片方のマナの手をとり、優しく甲に口づけた。


 「レ、レイさん!」


 いきなりの行為に赤くなったマナは慌てて、その手を引っ込めた。マナの慌てように、くくっとレイモンドが肩を揺らして笑った。


 こんな時に茶化すなんてひどい人だ。


 「さぁ、早く行って」


 レイモンドに急かされマナは村を出た。



 ヘイデン王国は辺境の地にあるナトリ村から、ずっと遠くにある。陽はすでに暮れ始めている。魔法を使い、空を移動する事も可能だが、ここは魔の森ではない。

 人が多く住む街を通過するかも知れないため、空路は控えることにした。


 けれどこのまま徒歩でというわけにはいかない。途中で馬か馬車を調達しなければと、そう考えを巡らせていると、フェルが何かもの言いたげにこちらを見た。


 「どうしたの?」

 「…いえ、少しまだるっこしいなと思ったんです。それよりもっと良い、簡単な方法がありますよ?」


 そうフェルはにやりとし、話し始めた。

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