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聖魔術師の村とレイモンドの居場所


 ーーその頃、マナ達は。


 「……あ、あぶ、危なかったぁ」

 「まったく本当ですよ。突然魔力を暴発させるなんて、あの魔女に気づかれたかとヒヤヒヤしました」


 「こ、ごめん。ちょっと驚いちゃって……」


 魔力をやり取りする方法が口移しとは。その行為は未だ異性と親密になった事のないマナにとって、非常に衝撃的なものだった。


 結んだ髪の隙間から出てきたフェルが失敗を窘める。その反対側からフェルと似た大きさの男の子が顔を出す。


 黒髪藍色の目の子。その正体は魔王エルドリード、魔術で体を小さくしてついてきたのだ。


 「そこの妖精の言う通りだ。はじめて会った時から思っていたが、お前は落ち着きがない。その上、粗野で大雑把で無作法だ。もう少し状況をーー」

 「あー、わかりました。……でも貴方は残ってくださいって言ったよね?」


 「ふん、別に本来の姿で来てもよかったが、今はあの魔女に私の存在を知られたくない。呪詛を再びかけられるやも知れぬからな」

 「あの人が呪詛をかけたの?」


 「あの時は油断して呪詛を受けてしまったが、次は違う。……ところでお前はさっきからどこへ行くつもりだ。あの男のいる地下牢は向こうだ。今の道は全然違う方向だ」

  

 塔の階段は螺旋状の作りで、一本道だ。だが何か魔術がかけられているのか、うまく思った方向に行くことができない。


 「ここは幻影術もかけられている。目で見たものに惑わされるな。魔力の流れが違う箇所がある、そこを辿って追いかけろ」

 「魔力の流れ? あ、うん、これかな」


 教えられた通り意識を集中させ、魔力を追う。ついた先は道がなく、なにもない石壁のみ。出入口の扉は見当たらない。あちこち触って調べると、壁の一つがへこみ扉のように開いた。その向こうは螺旋状の階段が続いている。


 階段の下からレイモンドに渡した追跡の魔道具の反応があった。


 「行ってみよう」


 階段をおりると暗く冷たい石畳が敷き詰められていた。地下のせいか、どこか薄気味悪く、独特の錆びついた臭いがした。


 親切にも魔王が魔術で光球をだし辺りを照らしてくれた。素直に礼をいうと魔王はぷいと横を向く。


 「ふん、夜目のきく私には必要ないが、こうすれば捜索も時間短縮できる。それよりお前、これからどうする気なんだ?」

 「とにかくまずはレイさんを探して助ける。あとの事はそれから考える」


 「……なんともお前は計画性がないというか。あの魔種はあの男が持ってきた物でお前を襲った。私が偶々助けなければお前は危うく死んでいた。元凶となった男を救うなどと、変わった娘だな」


 「私のすることが気に入らないなら、放っておいていいのに。そもそもあの種の封印を間違って解いてしまったのは私なの。レイさんのせいじゃない」


 そうなにも無理してついて来なくていい。頼んだわけではないのだ。そう毒づいてマナは自身の姿を確かめる。


 認識阻害の魔法をかけているため、当分の間、聖魔術師達に発見される事はなさそうだが、万が一もある、念のためマナは魔法を強化した。


 追跡魔法の反応から、突き当たりの部屋に立ち止まった。衛士や聖魔術師はいない。魔法で施錠を外し入ると、鉄格子の牢が幾つもあった。


 罪人を拘束する場所なのだろう。周囲を見ると部屋のすみに、魔力がない人達が重なるようにおかれていた。遠目でみて動きはない、つまり彼らは生き絶えているということだ。


 状況を理解し、マナの体は震えた。

 進んでいくと鉄格子の向こうにレイモンドが倒れているのが見えて、マナは急いで駆け寄った。

 

 「レイさん。待ってね、今出してあげるから」


 魔法で鉄格子の鍵を開け中に入ると、レイモンドの無事を確かめる。彼の目は閉じたまま、血の気を失った顔に触れると冷たさが伝わってきた。

 ぺちぺちとフェルがレイモンドの頬をはたく。


 「魔力が急激に欠乏するとこの世界の人間はこういう状態になります。欠乏量により命の危険が伴うので、すぐに魔力補充が必要です」

 「補充ね。ちょっと待って、これがあるの」


 肩にさげた鞄から小瓶を出した。魔力体力を少しだが回復させられる、マナが作った薬だ。


 「時間がなくて、前に作った物を持ってきたの。効果は弱いけど、これを飲めば少しはマシでしょう」


 レイモンドの上体を起こし、開けた小瓶を彼の口によせる。だが飲ませようとしたら、うまく飲めずにだらりと中身がこぼれてしまった。


 「お願いレイさん、少しでいいから起きて。これを少し口に入れてくれるだけでいいの」

 「……」


 何度呼びかけても返事はない。レイモンドの意識はなかった。


 「これはダメだな。それならお前も魔女のように魔力をうつせばいいだろう」

 「え?」


 首もとから顔を出した魔王の言葉にマナは目を開けた。


 「なに言って……そんなの、やった事ないしできないよ」

 「そうですね。魔力を吸収するのとは逆に、作用が反対になるよう魔術を使えばよさそうですね」


 「フェルまでそんな。無理よ」


 フェルも魔王の発想に同意しだし、うんうん頷いたが、即効マナは断った。魔法云々ではない。方法に問題があるのだ。


 (無理無理! あんなのできるわけない!)


 先程のエリザとレイモンドがした行為。あれを見ただけで、心が激しく動揺し魔力が暴走しそうになったのだ。実際に自分がやるなどーー


 「そんなのできません!口からなんて恥ずかしすぎる。ていうか最初に案を出したのは魔王なんだから、貴方がやればいいでしょ」


 「それは断る。なぜ私がこんな男、いや人間ごときを助けねばならんのだ。別にこんな奴、ここでのたれ死ねばいい」

 「僕も同感です」


 二人に涼しい顔であっさり即答され、マナは押し黙った。妙なところで似ている二人だ。


 はぁと息をはく。


 「…………わかった。あっち向いてて二人とも。私がやるから、このこと絶対レイさんには言わないでね」


 仕方がない、他に打つ手がないのだ。そう言い聞かせ、観念したマナはぐいっと小瓶の中身を口に含んだ。

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