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封印された魔の種

 レイモンドが去り、物悲しさを覚えながらもマナは家に入った。


 「……掃除でもしようかな」


 森の探索、魔法の練習、どれも今は気が向かない。やる気がおきない。今日は軽く部屋を片付けようと決めた。


 「そうだ。レイさんの部屋を先にしよう」


 道具を持って二階に上がった。騎士団に戻った彼はいつここに戻ってくるかはわからない。もしくはもう戻らないかもしれない。

 敢えて本人に尋ねることはしなかった。レイモンドは仕事でここに来ていたのだから。


 リネン類も交換しようとレイモンドの部屋の扉に手をかけた。


 ーーが、開かなかった。


 (ん?)


 取手をいくら押しても、固まってびくともしない。壊れたのかと再び押したあたりで、フェルが現れた。


 「気をつけてください。強力な魔術防壁が張られています」

 「なんで?」

 「さあ」


 レイモンドは騎士で魔法も使える。どの程度までかは聞いていない。ここを出る時、荷物は全部持っていったはずだから、部屋を見られないようにするのは変だ。

 

 (どうして魔術防壁なんか)


 「できるかわからないけど、ちょっと解除してみる」


 少し難しいがマナは魔術防壁を解き、扉を開けた。室内をぐるりと見渡す。寝台、机、棚は綺麗に片付き整頓されていた。大体の荷物は持っていったようだ。


 さらに確認していくと腰の高さの棚上に小瓶が置いてあった。中には一粒小さな種のような物が入っている。


 「なんだろう、これ」

 「魔力の気配がします。魔術防壁を施した理由はこれかもしれません」


 他に置いていった物は見当たらなかった。


 「レイさんは魔法をかけなきゃいけないくらい、この種が大事だったの?」


 小瓶は懐のポケットに容易に入る大きさだ。敢えて持ち帰らなかったのはなぜか。不可解なレイモンドの行動にマナは首をひねった。


 「もし彼にとって価値のある物なら、そのうち回収しにくるはずです。それまでこのままにしておきましょう」

 「うん。……あっ」


 フェルに返事をし、そのままリネン類を交換しようと体の向きを変えたら、左手が小瓶に触れてしまった。コトンと倒れ、中で種が転がった。


 いけないと小瓶を元に戻す。すると種がわずかに光ったのがみえた。じっと見つめるマナにフェルが尋ねる。


 「どうしましたか?」

 「ううん。今、なにか動いた、ような?」


 勘違い、気のせいかと思ったところで種がゆらりとーー揺れた。

 それにさっきより大きくなったような。


 すると急に部屋の空気が冷たくなった。氷魔法がフェルの手から放たれる。


 「マナも手伝って。氷魔法で凍らせてください、早く!」

 「え、うん。わかった!」


 緊張を帯びた顔つきになったフェルが声をあげた。マナも言われた通り、魔法をかけようとするが、氷魔法を破った種がどんどん大きくなり小瓶がパンと割れた。

 種は物凄い勢いで根をはやし、幾つもの蔦が伸びていく。それらがマナの体に絡み付いた。


 「ひっ、」

 「マナ!」


 助けようと手を翳したフェルも瞬く間に蔦にからめとられ、身動きできなくなった。巨大化した種は毒々しい深紅の花を咲かせ蜜を涎のように垂らした。


 (こ、こわい!)


 花弁がの中心がぱかりと開き、それが口に見えてきて、食べられてしまうかと錯覚する。

 あまりの気持ち悪さと恐怖に全身が震え、接近してくる花にマナが固く身構えた時、突然出現した氷の竜が花を凍らせ一瞬で霧散させた。


 その衝撃でマナは床に落ちた。


 (……今の、危うく食べられる所だった)


 「なんという愚鈍な娘。忌まわしい魔女の呪いを容易く解いた、あの夜のお前はなんだったのか疑いたくなるな」


 いまだおさまらぬ恐怖に身を震わせていたら、頭上に影が現れ、呆れた声が降ってきた。


 「魔王!」

 「エルドリードだ。我が名はエルドリード・レイ・グランディアス」


 名を呼ぶことを許すと上から目線で言われ、腕をひいて起こされた。魔王に助けられたのだ。


 「この間の件で来た。まだ決まってないのか」


 魔物の王は想像以上にしつこかった。


 「だから、それについては特に必要ないって言ったじゃないですか」


 正直、今はそれどころではない。ぞんざいに返すと、魔法で空間から手におさまる大きさの水晶玉を取り出した。


 「それはなんだ?」

 「ちょっと気になることがあって、確認したい人がいるの。その為の魔道具です」

 「ほぉ、」


 この水晶玉は特定対象を追跡監視できる魔道具だ。先日、レイモンドが話した位置を特定できる魔道具で思いついた。

 手を翳し魔力を送れば、そこに魔の森ではない、塀に囲まれた建築物のある場所がみえてくる。


 魔王エルドリードもそばに寄り、水晶玉に映る光景を興味津々になって見ていた。少し寄りすぎじゃないかとぎょっとしたが、面倒なので何も言わず水晶玉を見続ける。


 そこには騎士レイモンドの姿が映っていた。

 

 


 


 

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