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第七話 温かな食卓

現在、夕飯の食事中に呑姉さんが買い物から帰宅して、一緒に食べているところであった。


 温かい食事が並ぶ机の椅子に座る四人。

 いつも通りであれば、今日の学校や仕事で起きた楽しいことを共有するこの空間だったが、今は魔王と勇者の喧嘩会場となってしまった。


 笑顔一杯に見守る呑姉さん。

 無言でテレビのニュースを見ながらご飯を食べる海兄さん。

 そしてお上品にフォークとナイフで食物を口に運ぶスズランであった。


 洗練されたその動きは、どんな洋画でも見たことがない美しい動きだった。

 ……さすが、魔族のトップに君臨する王族。ちゃんと英才教育されているのか。 


 ──いや待て、1500年生きててこの生意気な性格ってなんだよ。

 ゲーム作者の性癖か? 性癖だろ!!!!!!


「おい、勇者の姉よ」

「スズラン、俺達のことを名前で呼んでくれないか? その呼び方をすると失礼だろ?」


 スズランはめんどくさそうな表情を浮かべながら、海兄さんに声を掛ける。


「海月よ、この肉に白い衣が付いた食べ物は何じゃ?」

「それは、鶏肉を油揚げ上げた食べ物、唐揚げと言う物ですよ」

「ほぉ、いただくとしよう」


 今日の夕飯は、メインは唐揚げにワカメと玉ねぎの味噌汁、ポテトサラダ、大根のべっこう煮。

 我が志道家、海兄さんの特製唐揚げに目を付けるとはさすが魔王だ。


 スズランはテーブルの中心に置いてある唐揚げに力いっぱいフォークを伸ばす。

 だが、腕の長さと身長が低いせいで苦戦しているようだ。


 ブンブンと腕を上下に振る魔王──子供だなぁ。

 

「はい、スズラン」


 ──仕方ない、俺が動くとしよう。

 腕を伸ばして箸を使い、唐揚げを持ち上げる。

 スズランに唐揚げを置く皿が無いか聞こうとした時。


 パク。

 スズランは俺の箸で取った唐揚げを食べる。

 すると、プルブルと体を震わせ、大きく天井へ右手を伸ばすとゆっくりと下ろし、唐揚げを指指した。


「これ!! めっちゃ美味いのぉ!!」


 この世界にあるどんな宝石でも表すことの出来ない程の綺麗な目。

 ……凄い反応だ。確かに海兄さんの料理は美味いが、こんなに大きなリアクションをしてくれるとは。

  

 ていうか……待て。こ、これって間接キスか?

 いや、待て餅つけ俺──違う、落ち着け!!


 ただの間接キスだ。

 幼稚園、小学校とかで誰もが経験したことがあるだろう?


 そんな言葉を自分に言い聞かせるが心臓の鼓動は激しく鳴る。

 ……無理だ。思春期の男には刺激が強すぎる。

 

 この魔王には思春期の男子高校生を思う心は無いのか。

 無いわ、昔からそうだったな。


 ……このままこの箸を使ってしまえば、俺と魔王が再び間接……間接キスをすることになるでは無いか?


 どうする…………思い切って箸を洗いに行く?

 そうすれば、間接キスなんてなくなるよな。

 

「どうしたの友継? そんなにコロッケを見つめて」


 姉さんの声にギクリと体が跳ねる。

 箸を見つめて考え事をしていたのを勘違いされてしまったようだ。


「いや、何でもないよ」

「ほい友継、口を開くんじゃ」


 気を使ったのかスズランはコロッケを刺したフォークをこちらへ向ける。

 何も考えていない純粋な眼差し。

 

 関節キス……それだけは回避したい。

 心臓が持たないからね。


 戸惑っているとコロッケの形が段々と崩れていく。

 ……食べるしかない。


 口を開くとスズランはコロッケを口の中に入れる。

 サクサクとした触感でとても美味しいがいつも以上にコロッケがおいしい気がする。


「二人とも仲が良いね」


 呑姉さんがブフと笑い、その声にスズランと俺が反応する。


『そうかの?』『そうか?』


 騒がしい食事も悪くは無いな。

 スズランも心なしか嬉しそうに料理を食べているし、良かったよ。


「……そういえば、海兄さん。令咲はまだ帰ってきてないよね?」

「あぁ、そうだな。メールで確か『塾が閉まるまで勉強する』って言ってたね」


 志道令咲、俺の大切な妹だ。

 今年で中学三年生になり、毎日勉強に勤しんでいる生徒会長だ。


 彼女を一言で言えば完璧少女という言葉が思いつく。

 元々、妹のいる中学校は不良だらけのヤバい中学校だったんだが、そんな環境を変えようと桔梗は現在、生徒会長として校風や校則を変える大役をしている。


 最近は彼女の頑張りによって、中学校の悪いイメージがなくなってきており、前に金髪リーゼントの不良達を引き連れて、街中のゴミを集める慈善活動をするほどに変化した。


 そのお陰で、「氷河の番長」と言う異名が広がりつつあるのが当の本人は気に入っていないらしい。

 異名を呼んでいる暇があったら単語でも覚えてほしいと愚痴をこぼしていたのを記憶している。

 

 桔梗は自分に足りないスキルがあるなら限界まで鍛える真面目な心があり、前から「もう少し頑張りを緩めてた方が良い」、と言ったが、聞き耳を持たず困っていた。

 ……大丈夫だろうか。


 考え事をしながら温かな食事を口の中に入れ続ける中、海兄さんの口が開く。


「ところで友継、スズランについてだが、これからどうするんだ?」

「しばらくはスズランと解決方法を探してみるよ。明日の朝一番に街を歩いて、何か影響が無いか探してみるよ」

「いや、お主は学校生活とやらを満喫する事を優先した方が良い」 

「どうしてだ? 元はと言えば、俺がゲーム機を起動したら始まったんだろ?」

「……お主は騙されてただけじゃ。責任を勝手に持つのをやめるのじゃ。……タイミング良くゲーム機を起動したら、わらわがこの世界に来た……この裏には何かしらの思惑が隠されているのは明確じゃろう。そして、何よりも、わらわのいる世界とお主のいる世界を移動出来るやつじゃ。ただの高校生である、友継が探すよりも少しでも対抗出来るわらわの方が良いじゃろう」

「……ごめん、スズラン」

「いや、大丈夫じゃ。それに友継、今一番大事な時期じゃろう? 青春と言うんじゃっけか、人間の命は短いのじゃからここはわらわに任せるんじゃ」


 スズランが優しい笑顔を向ける。

 その言葉の裏には数々の思いやりがある気がした。

 

 昔ながらの友人に重要な事を任せておいて、俺は別の事をする? この心がモヤモヤする感覚……駄目だ。それは絶対に駄目な気がする。

 でも……今の俺は何も出来ない。


 俺が勇者ライトみたいに強いキャラクターだったら、何か役に立てる行動が出来たかも知れないな。

 そんな事を思っていたら、スズランが俺にちょっかいを出し始め、そんな考え方も霧のように薄くなっていった。


 …だが、それで本当に良いのだろうか。

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