第三話 情報共有
スズランと俺はお互いに情報を共有をすることになった。
俺はあの世界がゲームと言うプログラムで創られた世界であることや現実世界のことを話した後、スズランは何故ゲームの世界から俺の部屋にどうやって来たのか経緯を話してくれた。
ゲームの世界いや、これは一瞬の別の世界と考えるべきだと妥当だな。
スズランの視点から見れば、あの世界は普通に人々が生きているらしくこの世界と瓜二つだと。訳わからんぞ。
「……魔王城にいたら、いきなり魔法陣が現れて、気づいたら俺の部屋にいたと」
「そうじゃな」
「へぇ……転移系の魔法って発動するのに数秒掛かる設定があるから、スズランくらいの実力者だったら簡単に避けれるんじゃないのか?」
「避けようとしたのじゃが、魔法陣一瞬でポワワ〜って発動したのじゃ。あの転移魔法はただの魔法では無いじゃろう」
「……ポワワ?」
「ポワワ〜じゃ」
スズランの独特な擬音の表現は置いといて、少し脳を動かして考えてみる。
あのゲーム……転移系の魔法は多少のクールタイムが存在していた。
ある時、スズランに転移系の魔法陣を使いドッキリを仕掛けた時があったがあっさりと避けられてしまったことがある。
魔王スズランは魔族という魔法に詳しい種族のトップに君臨する存在。
魔法に関しては人1倍敏感で、魔法による攻撃は彼女には当たらないことを自分がよく知っている。
彼女に転移魔法を当てる程の技量にあの世界から現実世界にスズランを転移させる魔法を使える者……犯人はどっちにしても人間と言う生物の枠を外れた超次元的な力を持った存在なのは確かだ。
全く、何が起きてるんだマジで。
「……喋ったから喉が渇いたの」
少女の小さな声が静まりきっていた部屋に響く。
何か飲む物……致し方ない、俺の持っているアップルジュースを彼女に渡そう。
右手に握っていた飲み物をスズランに渡すと彼女は、見事にラッパ飲みを始める。
ラッパ飲み、それは言葉の通り、ラッパを吹くように飲み物を飲む行為のことをいう。
……うわ、クソ可愛い。
ぐびり、ぐびりとアップルジュースがスズランの喉に流れていく。
目が輝き、夕日に当たって光っていたアップルジュースがどんどんと減っていくのであった。
……とりあえずはスズランが来たのは修理したゲーム機を付けたから始まったから、この事を長嶋さんに相談してみよう。
スマートフォンをポケットから取り出して、長嶋さんの店に電話を掛ける。
『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』
数秒の沈黙が流れる。
あれれ、スマートフォンの電話帳に入れて、つい最近まで使えてたから間違いは無いはずなんだが……電話番号変えたのかな。
スマートフォンの検索エンジンを使って店の電話番号を検索する。
しかし、名前をいくら検索しても結果が表示されない。0件と表示される。電波が悪いのかな……そんな訳無いか。
…………ん? 何この急なホラー展開。
窓を開けてある方向を見る。
その方向は長嶋さんの店がある方向。
店は俺の自室からギリギリ見える位置に建っているから見えるはず何だが……アレ?
目を凝らして見てみれば、さっきまで行っていた中古ゲーム店は無く、『売地』と書かれた看板が置かれたまっさらな土地となっていた。何がどうなってるんだ。
頭を抱えて悩んでいるとスズランが肩を触り、椅子から軽い体を上げる。
「まぁそう一人で悩むでないぞ。わらわに任せるのじゃ」
指を鳴らし、ブツブツと聞き覚えの無い不思議な言語を言い始め、黒い魔法陣が地面に二つ展開され、魔法陣から二匹の黒い犬が天元された。
黒い犬と言っても、肌や毛が黒いのでは無く、存在自体が黒い霧で構成されている犬だ。
『アルカドスの猟犬』
この魔法……スズランだけが扱うことが可能な召喚魔法か。
建物の影に当たると消えてしまう、夜や夕方では誰にも見つからない最強の使い魔だ。
「……グルル、じゅるり」
え、お前も俺を喰おうとしないでくれ。
唾液ダラダラに俺を見つめる犬達だった。
スズランみたいに冗談だよな。美味しく無いぞ、俺は。
「偵察兵じゃ、軽く街の様子を見てこさせる」
「魔法って便利だなぁ」
「グルルル……」
「……俺ってそんなに美味そうに見えるのか?」
犬の姿を見て、スズランはため息を吐く。
「全く、《《これじゃからこの魔法は》》」
スズランは深く暗い顔をして、それ行け、と外へ指を指すと忌々しい犬は音速で消えて行った。
「さてと、わらわ達は少し休むとするかの?」
「そうだね、お茶を出すよ」
「アップルジュースが良いのじゃ」
「……相変わらず、遠慮のない性格だ」
その言葉に俺は同意する。
今の分からない事の連続、すっかり脳みそのCPCは爆発寸前だ、
スズランもいきなりこの世界に来て、精神的にも、身体的にも疲れている。
休むのが妥当だろう。
俺とスズランは自室へ向かい、心身を癒そうと動くのであった。
*
「しかし、これからどうしたものか」
「……そりゃあ、アレじゃろ。わらわが元の世界に帰るまで、この家に泊めてもらうしか、方法が無いじゃろ」
「いや……無理だ」
「──え、何でじゃ!?」
士道家は、俺以外に兄と姉そして妹が住んでいる。
普通に考えて……こんな馬鹿げた話を信じて貰える訳ない。
……だったら嘘の話でもするのか?
例えば、友達で家族に問題があって家に帰れないとか。
いや、だとしたら相談所に相談した方が良いと正論をぶつけられて論破される未来が見えるな。
どうすれば良いんだ。
チクタクと動く時計の針が更に俺を焦らせる。
するとスズランの小さな口が開く。
「ま、悩むだけ無駄じゃ。お前さんに否定権は無いぞ」
「……住んでる家族になんて言ったら良いんだよ」
「それはお前さんが何とかするんじゃな」
おいコラ、魔王よ。
無理ゲー過ぎるぜこりゃ。
でも……俺のせいなんだよな。
……あーどうしたら。
頭を抱え必死に頭の回路を動かす俺。
……なんかよくわからんが、ゲーム機に頭突っ込んだら戻んないか?
それか机の引き出しに突っ込んだら、元の世界に帰らないか?
いや、それ某猫型ロボットか。
あれこれ考えている内にガチャガチャと言う音が玄関の方から聞こえてきた。
今の時間は午後5時30分……いつもこの時間に帰ってくるのは──姉さんか。
頬に流れる雫。
焦り、汗が流れる。
「たっだいまー!! 荷物運ぶの手伝って」
「わかった!!」
大きく聞こえる姉の声、とりあえずはこの話は一旦放置だ。
スズランに近づき、小声で話す。
「……スズラン、とりあえず今のことはまた後で話そう。いいか? 絶対にこの部屋から出るなよ?」
「うむ、わかったぞ」
スズランは俺の思いが伝わったのが、真剣な顔で頷く。
さすがスズランだ。
部屋の扉を開けて、玄関に向かって走っていく。
夕陽の光、穏やかな風が吹く玄関にて、大きなビニール袋を両手に抱える姉さんの姿が見えた。
肩まで伸びた美しく長い蜜柑色の髪。
吸い込まれそうな黄色の目を持っており、彼女を見た者で穏やかな気持ちになる人はいないだろう。
志道呑、その姿と声を見た者は自然と周りの人間が明るくなって行くであろう魔法のような魅力的を持った元気な性格の姉だ。
現在、喫茶店で働いてる店長だ。
花が大好きで良く昔、花冠を作って遊んでいた記憶がある。
「ぜぇ……はぁ……呑姉さんビニール袋預かるよ」
「あれ? すごい息が荒いけど大丈夫?」
「ちょっと部屋で運動してたから」
「運動……へぇ、高校生だからって上下運動はしすぎ──」
「──なんか勘違いしてない!? 筋トレだよ!! 筋トレ!!」
「あ、そうなの? まぁーそういうことにしといてあげるよ。はい、お願いね」
野菜が一杯入ったビニール袋を受け取り、キッチンに持っていく。
呑姉さんは俺を後ろから見守るように歩いて行くのであった。
昔からずっとこの光景は変わっていない、いつも通りの流れだ。
「「……」」
……そんなことを思っていた自分を殴ってやりたい。
首を傾げて呑姉さんは口を開く。
「ん、誰だ?」
「ふ~ん、貴様が友継の姉か」
目の前の光景、キッチンでスズランは仁王立ちで立っていた。
……コイツ!!!!
スズランはクスクスと笑いこちらを煽る。
ああ、そうだった。コイツ、俺を困らせるのが何よりも好きだったな!!
この魔王の企みは恐らくアレだ、姉の目の前に姿を現して、説明の困る絶体絶命の状況にして俺を困らせようとしているのだろう。
さっきまで真剣な顔してたけど、それはあくまで一時的なペルソナ。
その裏には生意気と他人を煽る仮面が隠れているのだった。
言い訳考えてねぇ。
……友人って言うか? 立派な角と尻尾が生えているけど。
「ふ~ん、そう言う運動だったのかな」
「違う!!」
ニヤリと笑う呑さんだった。
アワアワと焦っていたせいで余計に呑姉さんに勘違いを与えてしまったようだ。
……これで家から追い出させたら、スズラン。お前は施設に行くんだぞ?
魔王(笑)だぞ。
元々の性格はこんな感じで俺を困らせて煽る感じだったが、まさかこの状況で行動をして来るとは、思わなかった。
……後で一発やり返すか。
そう固く決心する俺であった。