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第二話 ゲームの魔王が現実世界にいる件について

「ただいま〜って言っても、今は誰もいないよな」


 砂や泥が付着した白いスニーカーを靴箱に入れて、スリッパを履いて自宅の中を歩いていく。


 自宅はトントンと床を歩く音だけしか聞こえなく、誰もがいないことがわかる。

 中は暗く夕陽の光を頼りにして移動をしていくことにした。

 

 自室に入り、鞄を雑に投げ捨てる。

 鞄はベッドの下に転がり落ち、後で取るのが面倒くさくなるだろうが今はどうでも良いか。


 勉強机の椅子を持ち上げ、部屋にある小さな台の前まで持って行く。


 小さな台の上には埃被ったテレビとボロボロなコントローラーが一台置かれており、一目でどれほど長い年月を過ごしていたのかよく分かる。


 いやぁ、もう買って五年以上は経ってるもんなぁ。

 よくここまで使ってきたな俺と褒めたいところだ。

 

 そんなことを考えながらも、紙袋から修理し終わったゲーム機を取り出して、コンセントを入れてテレビと接続をする。


 ゲーム機の電源のボタンに手を伸ばして押す。

 ウィーンとゲーム機のファンが回る音を確認してその場を離れる。

 さてと、ゲーム機が我が家に戻って来たことだし、いつも通りゲームをしようかな。


 俺の名前は志道友継。

 今年で高校二年生のゲーム好きな男だ。


 高校生になって一番嬉しいと思った事は、友達が何人か出来た事だ。

 中学時代の友人は片手で数える程度しか、居なかった俺だがが高校生になり、部活のおかげで無事友達が出来て、実に嬉しいものだ。


 そんなほのぼのと高校生活をしている俺何だが、昔からハマっているゲームがあった。

 それは、「どうしてもこの魔王が倒せないのだ!」、と言うゲーム。


 このゲームを一言で言えば、魔王スズランを倒すシンプルなRPGゲームである。


 プレイヤーである勇者は五つある街を自由に回りながら、アイテムを育てたり、はたまたモンスターを狩ってレベルを上げたりして、ある一定の時間が経つと街に攻めてくる魔王を倒す。倒しては、魔王が逃げる。それを繰り返すゲームだ。 


 しかしまぁ、このゲームには大きな欠点がある。 

 それは、「魔王が可愛いすぎる」、と言う事だ。


 本来魔王と呼ばれる者は人間とは相反する恐ろしい容姿をしているイメージがあるだろう。

 スライムのようにドロドロな見た目や竜のような見た目だったりと、化け物の姿で人間に危害を加える存在だと創造出来るのだが、魔王スズランは違う。


 魔王スズランは雪のように白い肌を持った小さな体に白色の綺麗な二本の角が生えている美少女だった。

 胸の断崖絶壁に細長い尻尾で、これを最初に見た俺はスズランの可愛いキャラクターデザインに魅了されてしまい、彼女へ剣を向ける事が出来なくなってしまったのである。


 ……一言言っておこう、俺はスズランが好きだ。

 それは推しとしてでは無い、勿論最初に出会った時は、推しとしての好きだったけど、今は違う。

 人として好きだ。


 ……馬鹿らしいだろうか。

 魔王スズランはゲームというプログラムの存在。

 人として好きだなんて、二次元と三次元の区別がついていないおかしな人だと思うだろうが、俺は好きになってしまったのだ。


 このゲームはNPC達と自由に会話を可能とするシステムが存在する。

 最新鋭の技術なのか、ゲームのボイスチャット機能を使ってゲーム内のキャラクターと現実と同じで会話が出来る。


 魔王スズランと初めて会ったあの日、彼女にいざ話しかけてみると話が弾み、それから毎日会っては話してと繰り返していく内に……好きになった。


 ……中学生の頃は毎日話していたけど、高校生になってから、部活だったり、課題だったりと色々と忙しかったから、会話をする頻度が少なくなっていったのが難点ではあるが、とりあえずは、俺とスズランの関係って結構深いんだ。 

  

 自室を出て、他愛もない家の廊下を歩き、ある場所に着く。

 見慣れた数本の包丁に2台の冷蔵庫……キッチンだ。

 銀色の大きな冷蔵庫の前に立ち、中からアップルジュースを手に持つ。

 ペットボトルを触ると冷たさが手に伝わる。


 最高だぜ、キンキンに冷えたアップルジュースを一気に飲むのが美味いんだ。

 アップルジュースを持ち、ルンルンと足を自室へ運ぶ。


 自室の前、黒い木製の扉がそびえ立っていた。

 ところどころ小さい頃に貼ったシールが貼ってあって時代を感じ取れる。


 ドアノブを握り、いざマイルームへ。

 ………………ん?


 無言で一回扉を閉める。

 ……夢か?

 一瞬、目がおかしくなったのかと思い、目を擦りながら深呼吸。


 ありのまま今の状況を説明しよう。

 い、いるんだが……俺の椅子に一人の少女が……。


 長い白色の髪の毛に綺麗なニ本の角……魔王スズランらしき者が椅子に座っていた。


 何かのドッキリか?

 どっかの名も知れないテレビ番組が有名なコスプレイヤーを呼んでドッキリを仕掛けている……?

 

 いやいや無い無い、そもそも別に俺有名人じゃないだろ。

 

 いや……認めるんだ俺。

 こちとら何年間スズランの顔を見てきたと思っているんだ。

 

 ……ここで、固まってたって仕方ない。

 扉を勢いよく開ける。


「──ッ!?」

 

 少女は俺に気づいたのかガタガタを体を震わせる。

 壊れかけのブリキのおもちゃのようだ。


「ふぇぇ!! なんじゃお前ぇ!!」 

「はぁぁぁぁ!!?? なんでゲームのキャラクターが現実世界にいるんだよ!?」 

「げーむ? 現実世界? お主は何を言ってるのじゃ!」


 うわ、絶対コイツ本物じゃねーか。

 やばい、俺の体が震えてきた。


 椅子から降りたスズランは俺に近づき、顔を見つめながら頭を傾げる。


「じゅるり」

「え? 急に食べようとしないで」

「……冗談じゃよ」

 

 藤色の長い髪が段々と白色に染まっていく。

 これは……スズランの身体的特徴の一つ、感情が明るくなると髪色が変化するやつだ。

 間違いない…………本物だ。


「むぅ……お主もしや、勇者ライトか?」


 勇者ライト、それは俺のゲームのプレイヤーネームだ。


「そうだけど……あれ、何でわかった? ゲームとは容姿が全く違うぞ」


 そう、俺が作成した勇者ライト。

 見た目は西洋人のような顔立ちの金髪のイケメンだ。

 勇者ライトと俺の顔は高級車のスポーツカーと三輪車くらい違う。


「……なんとなくじゃな、わらわの勘じゃ。お主を見たらあの勇者ライトの顔が浮かんできたのじゃ」

 

 脳が混乱してその場でたたずんでいると、スズランの顔色が変わっていく。

 何処か悲しくて、嬉しくてそんな表情を浮かべながらも、腕で目を拭う。

 ……泣いているのか?


「だ、大丈夫か?」


 アワアワと動き、ポケットからハンカチを取り出して彼女に差し出すと、スズランはにかむように笑う。


「そういうところ……やっぱり勇者ライトじゃな」

「……スズラン?」


 言葉を返した瞬間、スズランが俺へ向かって走り、両腕を広げて強く抱きしめた。

 胸に心温かな感触を覚える。


「久しぶりじゃな……ずっと会いたかったぞ」

 

 スズランは顔を制服にうずめながらも、言葉を発する。

 

「……ごめん、スズラン」


 あの世界でスズランと会ったのは、修理の時間も合わせて、一ヶ月くらい前だろう。

 長い期間会ってなかったが……めちゃくちゃ寂しかったのか?


 いや、それは今思う事ではない、今考える事はどうしてゲームのキャラクターが現実世界に来たんだ?

 そんなの神がかってる。


 スズランを抱きしめながらも、背筋が凍る感覚を覚える。

 違和感という、冷気が背中に段々と広がっていく。

 

 普通だったら泣いて喜びたい事だが…………何かおかしい。まるで何者かに敷かれたレールの上を走らされているような気がする。


「……すまんの、今は久しぶりの再会に感動している場合では無いのじゃったな」


 うずめていたスズランの顔が上がり、彼女は一歩足を引く。

 

「……スズラン、すまない。お前が何故ここに来たのか、話してくれないか?」

「わかったのじゃ。お主もわらわに説明せい。その容姿、そしてこの不気味な魔導具についてもな」

 

 涙を堪えて、冷静な表情になるスズラン。

 彼女の指の先には、さっきまで問題なく動いていたゲーム機があった。

 そんなゲーム機はプシューという壊れた音と共に煙を立てる。


 ゲームの世界のキャラクターがこの世界に現れる何て……一体何が起きているんだ。

 不安と違和感が重なり、冷や汗が頬を流れた。

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