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第五卯 憂花の氷王

ゲーム部、それが俺と狼夏が所属している部活だ。 

 活動内容でやっている事と言えば、一つはゲームに関するブログ投稿。インターネットにある憂花高校ゲーム部のホームページが存在しており、そこでゲームについて紹介する文章を投稿している。

 

 二つ目はゲーム制作。名の通りゲームを制作して、インターネットに公開、または近くの孤児院や病院、小中学校に行き、子供たちにゲームの面白さを伝える活動をしている。

 

 三つ目、最後はゲーム大会に参加する事。

 ゲーム人口は少ないが、ロボットのキャラクターを操作して戦う対戦ゲームをメインでやっている。


「着いたぁ……相変わらず、遠いな」

「最上階の一番奥……もはや拷問だね」


 夕陽を背中に背負っている男女2人、俺と狼夏はゲーム部部室の前に立っていた。

 木製の古い引き戸が有り、横には可愛らしいキャラクターが描かれたポスターが貼っている。

 宣伝ポスターか、「部員募集中!!」と、太文字で書いていて、印象に残りやすい良い絵だ。


 そろそろ入ろうか。

 引き戸の錆びた引手に触った瞬間の事だった。


「っ冷た!? なんじゃこりゃ!!」

「友継、扉の下見て」

「む?」


 冷静に言葉を放つ狼夏の言葉に従って、目線を送ってみる。

 白色の霧──ヒンヤリとした冷気が隙間から出ているようだ。

 冷気がゆっくりと俺と狼夏の足を撫でる。


「──大丈夫か!?」 


 何があったのかと思い、強く扉を開ける。

 暗く冷気が漂っている部室、目の前に見えたのは漆黒の長机であった。

 

 一番奥の席に足を組んで座っている男性が一人。

 まるで氷が無限に広がる氷城の王子様のようで、勿忘草色の七三分けに刃物よりも鋭い目を持っている美男子。

 その姿を見たら、冷酷でクールなイメージを与えるのだが……右のレンズが割れた眼鏡がイケメンフェイスを台無しにしている。


「水雪……大丈夫か?」

「大丈夫そうに見えるか?」

「うーん……見えない」

「なら、そんな質問をするな」


 霞石水雪かすみいしみずゆき、俺と同い年の友人だ。

 憂花高等学校の生徒会長である。持ち前のカリスマ性と頭脳を使い、生徒達から絶大な支持を得ている凄い人物でもある。しかし、ウェイウェイな人達から考えると、水雪の政策は厳しすぎると不満の声があるとか無いとか。


「チッ、どうやら俺が部室で仮眠を取っている時にドライアイス入りのクーラーボックスを置いて行った馬鹿が居るらしいな」

 *絶対に危ないので真似しないでください

「──やってることエグすぎだろ、一体誰がこんなことを……?」

「そんなの一人しかいないだろう……天化ぁ!!」


 ため息をついたかと思えたが、椅子から立ち上がり、横に置いてあるロッカーを蹴り飛ばす。

 倒れたロッカーから、ころりと天化が飛び出た。


「バレたか……逃げろ!!」


 その場でクラウチングスタートの準備をする天化。

 何で直ぐに逃げないといけないのに、クラウチングスタートするんだよ。 

 全速力で地面を蹴り上げて、俺達の方へ向かおうとした瞬間の事。


「……止まれ」

「ハイ!!」

 

 流石にキレた水雪の圧力には、狂犬の天化は逆らえないようで時間が止まったように静止した。

 

「よーし、いい子だ。お仕置きの時間だ、あーんだ、今から口にドライアイスをぶち込んでやる」

  *本当に絶対に危ないので真似しないで下さい*

「や、やめろー!! 死にたくない!! 死にたく──フガフガ!!」


 般若の顔になった水雪はドライアイスを右手で掴み、左手で掴んでいる天化の口の中に無理やりねじ込め始める。

 ……まぁ、これぐらいキレて当然……かな?。


「友継、紅茶飲む?」


 おっと、この状況で冷静過ぎる。

 部室の電気を付けた狼夏が冷静な顔付きで部屋を歩き、鞄を椅子に置く。


「お願いするよ」

「……わかった」


 慣れた手つきでケトルに電源入れて、お湯を温める。

 お湯とティーバッグをカップの中へ注ぎ、あっという間に紅茶が完成した。


 狼夏からカップとコーヒーフレッシュを受け取ると、紅茶の華やかな匂いが鼻腔を擽る。

 擬人化した薔薇が自分の手を握りしめて、花園へ連れて行こうとするような儚く美しい匂い。


 宝石をすり潰して混ぜたかのように綺麗な赤茶色。

 赤茶色の花海に沈んでいってしまいそうだ。

  

「これ、何の紅茶だ?」

「フガフガ……ガガガ」

「ドアーズだよ」

「どうだ、ドライアイスは味は?」

「ドアーズ……インドの紅茶か、頂きます」


 ミルクを入れて、カップに渦を巻く。

 そして、口に付けて飲む。

 味は程ようコクがあり、柔らかい味わいで……はっきり言って最高だ。


「美味い……やっぱり狼夏の入れた紅茶だからか」

「…………そんな事は……ないと思うけど」 

「ぁぁぁぁぁ!!」

「──二人ともいい加減にして」


 カップを握りしめて容易く粉砕して憤怒の表情を浮かべる狼夏に二人はショボンと気落ちした表情になる。

 そこから狼夏の説教が始まる事となり、変人と氷王はその場で正座をさせられるのであった。


 その光景に昔の記憶がフラッシュバックする。

 雷鳴が轟いた影に包まれた教室にて、怒りの感情に満ちた表情をしている眼鏡青年と人間味を感じないが心の中で強い思いを背負った青年が殴り合っていた景色。


『……水雪、お前よくも……』

『……友継……俺はお前を許さない』


 ……俺と水雪である。

 これは二年前の中学生時代に起きた大きな争いの一部始終。

 

 あの頃は色々と二人で揉め合ってた。

 最初は些細な事で言い合いになっていたが、最終的には暴力沙汰を起こしてしまってお互いに限界まで身を削ったんだよな。

 

 ……アレはどちらも正しい考え方だった。

 言論では解決出来ないなら最後は武力行使、最終的に俺が殴り勝ち、俺も水雪もお互いに考えを認め合って親友となったんだよな。


 今思えば、今よりも冷酷王子だった水雪が今では、


「あのさ……うるさい」

『……はい、ごめんなさい』


 めっちゃ親犬に怒られてシュンとする子犬見たいになってやがる。

 顔を合わせてコソコソと会話を始める王子と変人であった。


「(お前のせいだぞ……天化、後で氷漬けにしてやるからなコラ)」

「(…………ていうか、水雪さんって狼夏さんに弱くないです? いつも見たいに冷酷に返さないんですか?)」

「(狼夏は…………過去に色々合ったからな)」


 地面に顔を向けて過去の感傷に浸る水雪。

 天化は察言観色をして、真面目な表情になるのであった。


「狼夏、怒るのはそれぐらいに……ね」

「友継が言うなら……わかった」


 二人の安堵の表情を横目に紅茶を一口飲み始めた。

 本当に昔と比べて温かくなったな水雪。

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