第一卯 春夢悪夢
卯月編(4月編)投稿を少し始めます。
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視界が霧に包まれている。
……上手く物事を考えることが出来ない。
この感覚は……夢か?
きっとそうに違いないだろう。
しかし、自分がこれが夢であると自覚する夢──いわゆる明晰夢を見るとは珍しいな。
手や足を何とか動かしてみると意外と現実のように動かせるようで良かった。
……ここはどこだ?
周りを見てみれば、静寂と暗闇が支配する螺旋状の階段だった。
時間帯は三時らへんだろうか、足元はギリギリ目を凝らせば見える。
コンクリートが剥がれた壁、階段の隅に溜まっている埃……この場所は見覚えがある気がした。
何だっけか……嗚呼、分からない……分からない。
「──っ!!??」
突然の事だった、体が言うことを聞かなくなった。
勝手に足を動かして階段を登っていく、それはまるでマリオネットのように。
段々と上に向かって登っていく内に新鮮な冷たい風が肌に伝わり、それと同時に茜色の光が神々しく見えてくる。
最後の一歩を踏み込み、全ての階段を登り終えると、先には茜色の光が溢れて光っている大きな鉄扉が待っていたようだ。
その鉄扉を見ると、プルプルと右手が震えながら勝手に扉に手を伸ばして開けて、外に出ることした。
屋上に出ると心地よい夕日の風が頬をなぞる。
周りを見てみれば、コンクリートの床に鉄の柵に囲まれている場所に俺は立っていた。
右を見てみれば、乱雑に置かれた植木鉢と植物の無残な死体が転がっている。
人間に見捨てられたのだろうか、使用期限が長く過ぎた植物栄養剤が大量に入れられた袋が捨てられていた。
「……来たか」
風の音だけが聞こえる屋上の空間に低い男の声が通る。
はっと妙な気配を感じ、声の方向へ振り返るとそこには既視感のある男が貯水タンクの上に座っていた。
夕日の光が綺麗に反射して太陽よりも輝いていると錯覚するほどサラサラとした金髪に海の深淵に連れて行かれそうなほど綺麗な目、森林よりも深い緑の制服着ている美少年。
日本人とは遠く離れた美形の顔。
街中の女性が彼を一目見れば、一瞬で虜にされてしまうと何故か確信してしまった。
不自然に彼は笑顔を見せながらも、座っている貯水タンクから飛び降り、俺の側に歩みを寄せる。
その瞬間バクバクと心臓の鐘音が鳴った。
生物的本能の活性化……俺の体がこう言っている気がする。
彼から離れろ、と。
足を一歩引く。
彼の不自然な顔を良く見れば、次第に裏の感情が透けて感じ取れる。
恨み、嫉妬、殺意、ドス黒い闇の感情が伝わってきた。
「……僕のこと分かるよね?」
「君は…………」
足を進めてくる彼、瞼を一瞬を閉じるとまるでワープをしたかのように不規則に距離を詰めて近づいてくる。
「自分の辛い過去を振り替えずに青春ごっこをするの…………もう辞めない?」
ビクリと体が跳ね上がる。
囁かれた声の方向──右を見てみれば、彼が立っていた。
あれさっきまで俺の前にいたのに…………どうして横に?
困惑の汗がダラダラと流れる中、彼はクックと笑い、ゆっくりと口を開く。
「…………アレ? 怖がってない? 何で? どうして? 何に? ねぇ? なぁ?」
体の震えが止まらない。
恐怖で体が動かない。
口も震えて上手く言葉が喋れない。
「うーん、まあ良いや」
すると彼は不可思議な言葉を詠唱し始めると黒い魔法陣が展開される。
待ってました、と言わんばかりに彼は手を魔法陣の中心に突っ込み、引っこ抜き、漆黒の剣を取り出す。
「……君に会えて良かったなぁ」
そう呟くと、剣を空に剣先を向ける。
そして……俺の頭に振りかざした。