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プロローグ

「ジューン帝国」

 世界の、北端に位置し、その歴史は約1500年続く、大国である。

 その帝国は、現在戦争状態にあった。相手は、東の大国「アムマル」。島国ながら、突出した軍事力を保有しており、近くの国々を合併し、今尚成長を続けている。

 帝国は、そんな「アムマル」に対抗する為、連合軍を、結成。連合軍と合併軍の戦いは、熾烈を極めていた。


―――


とある戦場。

「はぁ…はぁ……何なんだ、あ、あの化け物は」

「余計な考えは捨てろ!!そんなことより、今は生き残る事だけ考えろ!」

 爆音が、鳴り響き、土煙が舞っており、目を開けることすらできない状態。開けようとすれば、礫や何らかの破片が、風に紛れ、目を傷付けんとしている。

「おい、他の仲間に、……通信は」

他の仲間の、状況も確認しておきたい。

「そ、それが全く………。一応、ビーコンは、発信しておきました」

「…………そうか……」

全滅したとは、考えにくい、というよりあまり考えたくない。たった一人の軍人に、壊滅させられたなど。

「ど、どうします、隊長」

「とりあえず、ここで、他の仲間を待とう。そして、本国に、帰還する。今のうちに、できるだけ態勢を整えておけ。ここも、おそらくすぐに、見つかる」

「了解です」

 途中、仲間たちの亡骸から拾った鞄を開く。そこには、医療品や予備弾薬、少量の食料品が、入っていた。手で、十字を切る。銃の、弾倉を変え、足の傷に包帯を巻く。

「隊長、そっちの方に、アルカノはありますか?」

「あぁ、そうだったな。ほら、吸っておけ」

「ありがとうございます」

 アルカノを、口に運び、供給を開始し始める。

 供給は、数秒で終わり容器を、無造作に捨てる。

「あまり、音を立てるな!」

部下の、頭を軽く小突く。

「す…すいません」

「で……使えるのか?アトラスは?」

「えぇ…全開に……って訳ではありませんが、目眩まし程度には、なると思います」

「そうか、十分だ」

 アトラスが、使える。これだけで、生存確率は、多少上がるだろう。

 後は、ビーコンを頼りに生き残った仲間が来るのを待つだけだ。

外の戦闘音が、より激しく轟音を響かせている。

戦闘機械ヴァルキューレ達が、やってくれるのが、一番いいんですが」

「…………そうだな……」

しばらくした後、戦闘音が鳴り止んだ。

「…終わった?」

「まさか…な」

 背後に、人の気配を感じとる。すかさず、銃口を入口の方へ向け、声を放つ。

「……誰だ!!」

 息を、呑む。部下も、構えてはいるが、息は乱れ、手も微かに震えている。もし、仮に敵だった場合、命はない。

ヨロヨロ、と姿を現したそれは、仲間の姿、

「おい大丈夫か!!」

 後ろの、部下が飛び出して背中を追い越した。

緊張の糸を、解くべきではなかった。すぐさま、嫌な気配を感じ取る。

「おい!!!戻れ!!!」

声を荒げて制止させるも、遅かった。

部下が、抱き抱えたそれは、甘美な餌であった。

「え、あ……たい」

 上空から、降って来たものに、二人の人間が、ひしゃげ、臓物を血を、骨を撒き散らす。

降ってきたのは、女であった。その周りの、空間が、歪んでいるのが、分かる。

「く、くそ……!!」

 すかさず、発砲するも、弾は歪みに耐えきれず、潰れてしまう。女は、一歩ずつゆっくりとこちらに、近づいてくる。死神のように。「この、あく……」最後に、見えたのは、一瞬で飛び込んできた死神の顔だった。

 その顔は、苦悶の表情を浮かべていた。冥土の、笑い話が、出来た。

暗闇が、意識をのみ込んだ。


――――


「戦闘終了」

インカムに、指を当て報告する。

「了解しました。では、直ちに帰還を。……早く帰って来て下さいね。書類仕事が、大量に残っていますので」

「………今、戦闘、終わったばかりなんだが?」

インカムから、聞こえる無機質な声の、持ち主に反論する。幼馴染なんだから、もう少しぐらい気を、使ってくれてもいいはずだ。

「今まで、逃げてきた分の、ツケです。早く帰ってこないと、ご飯抜きですからね」プッ

「……切られた」

 これは、大分怒らせたのかもしれない。であるなら、早いとこ帰ってしまおう。

「っと、その前に」

 先程、自らが肉塊にしたものへと、近づく。彼らを、せめて眠らせてあげたい。土を掘り、肉塊をその中に、入れる。

(これが、エゴなのは、理解している。自分で、殺したクセに)

そう考えた時、口の中が、喉が、熱くなっていき、酸が上がってきたのが瞬時に分かった。

「ウェッ……ゲェ…ッホ…、ッホ」

 胃の中が、出尽くし、過呼吸になる。足が、震え、力が抜けてしまう。

(やっぱり、自分に、軍人は向いていない。……早く、帰ろう)

ふらふら、と何とか立ち上がり、戦場を、後にした。

 

――――


 帝都に、存在する高層マンションその5階に私は、住んでいる。アトラスを、使いベランダから入ろうとするも、鍵がかかっていた。因みに、家の鍵は、どっかに落とした。

「…………。一体、何をしているのでしょうか。全く…」

窓の外から、そんな言葉が聞こえてきた。あれから、全力で、帰ってきたんだけど……。

(とりあえず、中に入れてもらおう)

 窓を、軽くたたき、鍵を開けてもらおうとする。音に、気づいてくれた彼女が、近づいてくる。……なんだか、とてつもない怖い顔を、浮かべて。

「……た、ただいまー……?」

「ふふっ、………おかえりなさい。随分と、まぁ……遅いものですね……」

「いやー、ちょっと、速くは帰ってきたんだよ。それはもう、超特急で。ホントに、うん」

「いいから、兎に角入りなさい。言い訳は、中で、ね」

手を、引っ張られ室内へと、引き込まれた。


「さ、言葉は、整いましたか?」

「んー、身体は整ったよ!」

 あの後、「とりあえず、一旦湯船にでも浸かりなさい」と言われ、浸かっている最中にでも、言い訳を考えていたのだが、上がったときに、スッキリしたせいで全部吹き飛んでしまった。恐るべし、お風呂の魔力。

「ふぅ……頬、出しなさい」

 指を、ポキポキ鳴らしながら、ゆっくりと近づいてくる。とんでもない威圧感を、放っている。そのあまりの恐ろしさに、私が出来ることそれは――――

「帰るのが、1日も遅れてしまい、それを報告もせずにしたこと、たいっへん申し訳ございませんでしたーーー!!」

全力の、土下座であった。

「はぁ……これを、第三部隊の方々に観て、もらいたいものですね。あの、『血塗れの女王』が頭を地面につけ、謝罪をしているなんて。きっと、想像も出来ないでしょうね」

 頭を、上げ立ち上がり、椅子へと腰掛ける。どうやら許された?らしい。

「うぅ、その二つ名で呼ばないでよ~……私のキャラじゃないのに……」

正直、とても恥ずかしい。なんだ、『血塗れの女王』って誰が付けたんだ。絶対に、思春期の子がつけたに違いない。

「まぁ、貴方を、本当に知るものからすれば、そうでしょうが、他所から観れば割と、名の通りだと思いますが」

「………はぁ、気が重いよぉ~。リラ〜変わってよぉ。私やっぱり、軍人向いてないってー。前線行きたくなーい、雑務でもいいから、事務仕事が、いーい」

机に、だら~んと手を伸ばし、顔を埋める。

「わがままを、言いません。貴方の、その力は戦闘、戦場でこそ輝くもの、使わなければ、宝の持ち腐れです。第一、貴方はその力があるからこそ、今の地位を築けたのでは?」

「いいよぉ、私そんなの興味ないし。あっちが、勝手に話を進めて、軍人にしたんだし」

そう、私は自ら望んで、軍に入ったわけじゃない。ただ、《アトラス》が強力であった。それだけの、理由で私は、叶えたい未来を絶たれた。だけど、恨みはしていない。きちんと、お給金も、もらってるし。しかも、割とそれなりの額を。休みが、少ないのが不満ではあるが、まぁ戦時中だし仕方がないと、割り切ってはいるが。平和になると、休み多くなるかな。

「あたしと違い、貴方はそうでしたね」

「あれ?リラって、自分から軍に入ったんだっけ?」

「えぇ、学院を卒業してすぐに、まぁ、前線は向かず、すぐに、後方に回されましたが」

「……なんか、ごめんね」

なんだか、すごい罪悪感が、芽生えてくるのを感じる。

「別に、構いません。特に、気にしてはいないので。寧ろ、後方で良かったと思っています」

「そうなんだ」

「えぇ、本当に心の底から」

そう言いながらリラが、冷蔵庫で冷やしておいたコーヒーを、入れて持ってきてくれた。

「ありがとう」

「どういたしまして。……そろそろ、ご飯にでもしましょう」

「何を、作ってくれてたの?」

リラが冷蔵庫から、パックを取り出す。パックの中は、茶色が主で、所々赤や緑が、見られる。多分、カレーだろう。

「遅くなるのは、予想がついていましたので、ある程度日持ちするものを、作っておいたのです」

「そういえば、………もう怒ってない?」

おそるおそる、確認してみる。だって、正式に何か言われてはいないし。

「もう、怒ってませんよ。ただ、次からはキチンと報告するように」

「はーい」

「返事だけに、しないで下さいね」

そうしてご飯を、食べながら、また色々と話していたら、何故、ベランダから入ってきたのかと聞かれたので、鍵を無くしたと言ったら、ニコニコしながら、頬に拳が、飛んできて、私は勢いよく吹っ飛んだ。



「残りの分も、早めに食べて下さいね。悪くなってしまうので」

そう言い残して、リラは帰っていった。

「……申し訳、ないなぁ……」

こんな私の為に、ここまでしてくれて、本当に頭が上がらない。

「……バレてなかったよ、ね……うッ」

頭に、浮かんだ情景が、蘇りトイレへと駆け込む。

「ゔぇ……ゲボっ………ゲホッ……ウェッ」

先程、食べていたものが、全て出ていってしまう。

(ごめんね、ごめんね)

心の中で、懺悔しながら吐瀉物を流す。洗面所で、口を濯ぎ、鏡を見る。青白く、醜く酷い面をしていた。

「……早く、寝よう」

明日も、休みで、良かった。

フラフラと、歩きそのまま、ベッドへと、ダイブ。そのまま眠りへと、落ちていった。






窓から朝日が、差し込み目が、覚める。

手を、上げて身体を伸ばし意識も、覚めやらぬまま洗面所へと、向かう。

私は、覚悟を決めた。今、このままでは、確実に壊れてしまう。だから、私は――――――

「戦争を、終わらせて、かつての夢を未来を、叶える」

今の、彼女にはかつての脆弱性は、存在せず、意志を貫き通す光で、満ち溢れていた。








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