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02 “ディサント“

グガァ゙ァ゙


「!」


 悪魔が羽を広げた瞬間、何本もの鋭い羽が勇翔の体に向かってとんできた。勇翔はそれを体勢を低くすることで避け、すぐにまた走り出した。今度は辺り全体に向けて先程とは比べものにならない数の羽をとばしてきた。それでも、勇翔はスピードを落とさずにうまい具合に避ける。


(なるほど…これがコイツの先天魔術か。殺傷力は高いけど、スピードはそこまでじゃないから避けるのは簡単。あたらなければいいだけ!)


「フンッ」


 とんでくる無数の羽を難なく避けながら近づくことに成功した勇翔は、悪魔を思い切り殴った。


ガァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!


 悪魔は勇翔のパンチが相当効いたのか、叫び声をあげながらよろめいていた。


〔おい、使え。お前にはそろそろあれの使い方を覚えてほしいんだ〕

「えぇ…もう、分かったよ!」


 勇翔は自分の右腕に左手の尖った爪を刺しこむと、躊躇なく引っ掻いた。傷口からは大量の血がふき出てくる。


「ッ〜!」


 当然痛い。だが、その痛みを我慢し、攻撃に移る。

 

 地面にできた血だまりにひらいた手を伸ばすと、血が浮き、鎌の形になって勇翔の手におさまった。


グガァ゙!!!!


 悪魔が勇翔に突進してくる。が、それよりも速く勇翔が悪魔に近づき、血鎌で悪魔の胴体を真っ二つにした。右腕の傷は、もう治っていた。



シュゥゥゥ




 悪魔が消滅した。とばされた羽も。


「ふぅ〜疲れたぁ」

〔はぁーまったく呆れる。もう少し丁寧に操作しろよ。最近使い始めたとはいえ────っ!〕

「?どうし───」






パチパチパチ




 どこからか、拍手の音が聞こえる。


 勇翔は、言動からファントの中でもシツは強い部類だったのだと悟っていた。そのシツが、今の今まで気がつかなかった。つまり、それほどの強者。




パチパチパチ




「───見事や」




 拍手しながら現れたのは、青紫の髪色をした若い男性。


「始めまして、甘井勇翔君。ボク回遠大獅いいます。先に言っとくねんけど、逃げても攻撃しても無駄やで。ボクと君じゃ実力がダンチやもん」


(回遠、か)


 ファント界隈──通称ファン界の中での最高権力兼最高戦力、四天王家。回遠家はその四天王家のうちの一家だ。そんな血筋の人が、なぜ。


 勇翔の額には、うっすら冷や汗が。だが、こんなときでも冷静に考えることが出来るのが勇翔の長所。


「あんた、なんで俺の名前知ってんですか」 

❲(いやそこかよ!!)❳


 シツは心のなかで盛大に突っ込んでいた。当たり前だ。他に質問はいくらでもあるだろうに。


「なんでって、調べたからに決まってるやん。───この辺の悪魔倒しまくってんの、君やろ」

「………そうですけど。何か」

「困んねんな〜そういうの。ディサントと間違えてしまうやんけ。ファントはなぁ、命がけで怪妖と戦ってるだけちゃうねんで。その後倒した怪妖が怪魔やったか怪人やったか、どんくらいのランクやったか、どこで戦ってどんだけ被害が出たか。そういう報告書を書かなあかんねん。一般人の被害とかを把握するって意味もあんねんけど、一番の理由はディサントの場所を把握するため。ファントは任務でしか怪妖倒したあかんようになってるからな。原因不明の怪妖消滅を確認したら、真っ先にディサントやって疑うわけや。やからこの件、ボクが担当になったのに蓋開けてみたらディサントどころが一般の中学生。びっくりしたわ。」 


(は、早口すぎる…)


「あ、ファントってのは分かるよな。怪妖倒す人たち。ほんで怪妖ってのは、怪魔と怪人…まぁ、そこら辺はファン学で習うからいいや。そんで─」

「は、ちょ!ちょっと待ってください!」


 聞き逃せない言葉を聞いたので、大獅の話の途中だったが、勇翔は声をあげて遮った。


「ん?何?」

「ファン学で習うからって……」

「あぁ、そのこと?勇翔にはファン学に入学してもらう」

「はぁ!??」


 そんなことは勇翔は聞いてない。いくらなんでも身勝手すぎるだろう。だがファン界を、回遠大獅をなめてはいけない。


「当たり前やん。ファントってあんま人数おらんねん。そんな中、力持ってる君をほったらかすわけ無いやん〜勇翔にはファン学に入学して正規のファントになってもらうで。



───お願いやない。強制や」

「なっ!そんなの───」

「てことで、今度家行っていろいろ説明したるから。楽しみに待っときや」


 そう言って大獅は手をヒラヒラさせながらどこかに行った。勇翔が意見を言うことは許されなかった。そのことに不満を持った勇翔だったが、すぐにふっきれた。


「まぁ、いいか。高校決まってなかったし」

〔……〕

「シツ、どうした?さっきからずっと黙ってるけど…」


 シツはさっきからずっと、不安と不満を抱えたような顔で黙っていた。普段は結構おしゃべりなところがあるので、ずっと黙っているシツを勇翔は不思議に思っていた。


〔お前は、いいのか?〕

「ファン学に入学させられること?」

〔あぁ〕

「別にいいけど。普段やってるみたいに怪妖倒すだけだし」 

〔……それだけで済んだらいいけどな〕

「??」

〔まぁ、何かあれば助けてやる〕

「よく分かんねぇけど………その時はよろしくな」

〔フンッ〕


◇◇


 そして、2週間後。


「やぁやぁこんにちは、勇翔君」

「マジで来た…」


 回遠大獅が勇翔の家に来た。今日は日曜日だが、母親は女手一つで勇翔を育てているので仕事で忙しく、家にいない。


「いや、逆になんでけえへん思っててん」

「だって俺の家知らないって思ってたから… どうぞ」

「ありがとう ボクをなめたあかんで。USランクと回遠家の次期当主っていう2つの肩書きがあれば、ほとんどのことはなんとかなんねん」

「次期当主!?!?」

「フッフッフッ〜意外やろ?」

「すっごく意外です!」

「いやそんなはっきり言わんでええやん傷つくで」


 家に入れたこの男は、語尾とイントネーションだけのエセ関西弁にピアスをつけているチャラそうな見た目だ。どうみても回遠家の次期当主には見えない。その事実を聞いて、勇翔だけでなくシツも驚いた。ただ、理由は違う。


(〔コイツも宗家にしては回遠の血が薄いが……やはり回遠の奴らには何か裏があるな〕)



パンッ



「てことでや、ファン学について説明したるわ」


 シツが考え事をしていたら話が進んでいたようで、内容に区切りをつけるためか大獅が手を叩いた。


「まずは勇翔に確認や。お前、ファン界についてどこまで知ってる?」


(〔…なるほどな。この回遠の、意外としっかりしてるじゃないか〕)


 シツは、大獅がこの質問をした意図を汲み取っていた。

 

 ファン界のことはあまり一般人に公開されていない。そのため誤解されていることも多く、一般人が流したデマ情報や、ディサントがファン界崩壊を目的に流した結構ヤバ目な情報などが曖昧になって出回っていたりする。故に情報の()()()()()ファン界なのか分かるはずがない。一般人であれば。勇翔がどこまで知っていて、どこまで話すのか。大獅は嘘をつけないようにこっそり後天魔術13番を使ったので、答えを聞けば相手がファン界関係者なのか、何も知らずに育ってきた一般人なのか判断ができる。ファン界関係者であれば、ファン界への戸籍未申請や違法な怪妖退治をしているので確実にディサント。大獅は勇翔を信頼しきったわけではなかった。


「え、と、…魔界にいる怪妖を魔術を使って倒すのがファント。怪妖には怪魔と怪人の2種類がいて、それぞれ強さの基準になるランクがあってってくらい…あ、四天王家とかありますよね?あーファン学があるっていうのも含まれる…か?」

「ふ〜ん、








で?そんだけなん?」

「ッッ!え、はぃ…」


 勇翔はまたもや冷や汗をかいていた。大獅の圧が強すぎるのだ。これでもだいぶ抑えているのだろうな、ということは分かる。本気ならば勇翔は息もできなかっただろう。だが、殺気などではない。殺気ならばシツが反応するはずだ。


「……」


 大獅はずっと無言で勇翔を見ている。


「………」

















ガタッ!バンッ!!


「いやこえーよ!!!!」


 勇翔は思わず椅子から立ち上がり机に手を置き声に出してしまった。マジで怖い。ほんとに怖いのだ。


「ハハハハハッ!ごめんごめん、いや〜ツッコんでくれたの君が初めてや!嬉しーなぁ!いや〜ハハハハハッ」

「・・・」


 勇翔はあっけにとられた。もう、よく分からなくなっていた。


(〔まぁあれだけの圧をかけられて突っ込めるガキなんぞこいつしかいないだろ〕)


 勇翔本人は気づいていないが、なかなかに肝が据わっている少年だった。


「ハハッ、ごめんごめん、今度こそちゃんとやるわ。んじゃ、話戻ろか。ファン学の説明やな」

「ファント育成高等学校、通称ファン学はその名の通りファントを育てる高校や。名前でわからんこと言うたら全寮制っちゅうくらいかな〜」

「ふむふむ」

「三年組と二年組はそれぞれ6人ずつ、一年組は勇翔含めて今のところ3人。この学年だけちょっと少ないけどまぁ大丈夫やろ」

「は、はぁ…」

「んじゃ、入学式にまた会お。ほな」

「は、もう帰るの?っていない!?」


 勇翔が首を振って大獅を探しているのを見て、シツは微笑ましい気持ちになった。


❲何年経っても変わらんなぁ❳

「ねぇシツ〜あの人に逃げられたぁ…聞きたいこといっぱいあったのに…」

❲また会えるんだ。その時に一発殴ればいい❳

「ま、そりゃそうか!」


□□


回遠大獅(かいえんたいし)

USランクのファント。現在26歳。髪色が青ではなく青紫なのがポイント。標準語と関西弁どちらも同じくらい聞いて育った結果、混ざってちょっと変になったが本人は気にしていない。見た目も中身もチャラチャラだが、意外にも筋を通さない人が嫌い。

 


 



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