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第79話 フェニックスのお土産

 「いやぁ、サラマンダーは強敵でしたね」


 さも恐ろしい強敵との激戦だった、というような雰囲気のセリフを吐くのはブロワーマンだ。

 実際強敵ではあったのだが……戦闘中はこちらが押していたように感じる。


 「でもウチらが押してたやん?」

 「まあアレは不意打ちとスキルの相性とバカみたいな攻撃力の賜物(たまもの)だな。初手で重症を負わせることができたのは幸運だった」

 「なるほどなぁ」

 「ボヤボヤしてるとオレらも相性負けしちまうかもな……小火(ボヤ)だけに」


 火山すら凍てつかせる激寒ギャグを放ったブロワーマンが指した方向には、小火というには激しく燃える炎をまとった騎士の姿が。


 「何が小火や、業火やんけ」

 「死にかけでもこの炎……流石は大阪のフェニックスだ」


 騎士……大阪のフェニックスが人の形を取った彼は、ウチらを助けてくれた。しかし、その代償は不死鳥にはあり得ないはずの死だった。


 「ありがとう、勇気ある探索者達。おかげでこの『大阪地下火山』に平和が戻ってきた」

 「いや、気にせんでええよ。どうせサラマンダーとは戦うハメになってたやろうし」

 「それでもだ。怪物退治は栄光と財宝によって払われるべきなのだから……さて、もうじき私は死ぬだろう」


 大阪のフェニックスが言った。

 正直なところ、ダサいと言わざるを得ない名前からは想像もできないほど厳かな立ち振る舞い。

 ウチは思わず背筋を正した。


 「だが、アンタは不死鳥だろ? また復活するんじゃねぇの?」

 「風よ、お前ほどの存在なら分かるはずだ……あのサラマンダーは『不死殺しの剣』を飲み込み、あまつさえそのアーティファクトと一体化していたのだ。私はその状態で致命傷を負った故、もう転生することも叶わない」

 「あんだって? じゃあソラは……」

 「彼女は不死身の再生力を持っていても不死ではない。だからこそ、『不死殺しの剣』の影響下においても私の炎で再生することができたのだ」

 「何言ってるんや」

 「要約すると、諸星さんは厳密には不死じゃないから死ななかったってことだと思う」


 虎の穴が要約してくれた。

 確かにウチは【超再生】でほぼ不死身だが、不死ではない。試したことなんて無いから分からないが、多分心臓と脳を損傷したら死ぬだろう。

 

 「そこでだ。私は死ぬ前に、ささやかながらお礼を送りたい……しかし、私に残された力はもう残っていない。本当にささやかになってしまうことを許して欲しい」


 大阪のフェニックスは、騎士から鳥となって飛び立った。


 「最期に感謝を……勇気ある者達よ、ありがとう」

 「礼を言うのはこっちの方や! 助けてくれてありがとうな!」


 ウチらが手を振ると、フェニックスがニコッと笑った。

 これから死ぬことなど、全く恐れていないと。


 「ではさらばだ」


 空中で炎がより一層激しさを増し、やがて灰となり燃え尽きた。

 後に残ったのはいくつかの物品が残った。その中には、スキルジュエルも存在する。


 「逝ってもうたな……」

 「まあ、大阪のフェニックスも悔いはなさそうだったし大丈夫だろ。さあ、贈り物を見てみようぜ」


 ブロワーマンがちょっとしんみりした空気を切り裂き、地面に落ちている物を拾った。


 「まずは装備っぽいものだ。これは……マント、ジャケット、手袋、銃弾に、それから鳥のマスク?」

 「他はええとしてこの鳥のマスクなんやねん」


 マントは、煌びやか装飾のなされた、しかし質実剛健な雰囲気のするマントだった。

 ジャケットは、背中に不死鳥が描かれたカッコいいスカジャン。

 手袋は、落ち着いた色合いの綺麗な手袋。

 銃弾は、炎のように赤い。


 しかし、マスクに関しては、大阪のフェニックスの頭部を模したマスクとしか言いようがなかった。


 「何これ」

 「贈り物というより置き土産だな……」


 何に使うものか分からないが、とりあえず貰っていこう。


 「で、他は……羽と小瓶に入った液体、それから遺灰だな」

 「こんなん貰っても売るくらいしかないんとちゃう?」

 「いいや、フェニックスの羽や血と言えばなんかめちゃくちゃ貴重な回復アイテムと相場が決まってるんだ。とにかく持って帰るぞ」

 「じゃあ遺灰は?」

 「さあ……」


 遺灰だけは謎だった。

 何に使えばいいんだ……


 「じゃあ最後はこのスキルジュエルだな」


 ブロワーマンがジュエルを拾い、スキルを確認する。

 しかし、期待に満ちていたブロワーマンの顔はみるみると微妙になっていった。


 「なぁ、これ……」

 「どんなスキルです? ……いや、これは……僕と相性は悪くないけど流石に……」

 「私とは相性が悪いな。日本に来て学んだんだ、虫は炎に弱いと」

 「グム」

 「実はアタシらは機械に判定されるからスキルジュエルは使えないんだ」

 「ダンジョンの判定は厳しい」


 何だか、ここにいる全員スキルを取りたくないようだ。


 「ソラも見てみろ」

 「これは……?」


 ウチがスキルを見る。

 そこにあったのは……


 【火炎放射】

 ・体内に火炎袋を生成し、火炎を放射する。

 ただし、炎は全身の任意の穴から放出される。


 「尻からも出るんか!?」

 「そりゃあ、穴だからな。出るだろ」


 ま、また人外じみたスキルか……しかし穴、つまり口からも出るということはドンが使えば怪獣のできあがりということ。


 「どうや、ドン。火炎放射どうや?」

 「ジャア」


 だがドンは興味がないようだ。

 ドンにもこだわりがり、身一つで戦っていくということらしい。このクラン肉弾戦特化が多いな……


 「じゃあウチが使うか」

 「割り切りが良すぎんだろ! ま、待つんだソラ。使わずに捨てていくって手もある! だから早ま――」

 「えいっ」


 ウチはスキルジュエルを砕いた。

 光の粒子がウチに吸い込まれる。変化はすぐに起きた。


 「うんっ!? んん!! へっ!」


 ぼうっ、と炎が舞う。

 ウチの顔の横から。


 「ん?」

 「え、どっから出たん?」

 「そ、そこだ! 顔の横の髪の毛を見てみろ!」


 ウチはそう言われ、もみあげあたりの髪を触る。

 そこには、ウチの【触手】のようにぬらぬらとした質感……


 「漏斗(ろうと)だ、漏斗ができてる!」

 「漏斗!?」


 そこにあったのは、タコやイカにあるような漏斗。

 炎はそこから放出されたのだ。


 「また一歩、人外への道を進んだな」

 「もう言い逃れできないと思うんですけど」

 「グム……我々よりモンスター……」


 まるで呼吸するように収縮する漏斗をいじりながら、ウチは天を仰いだ。




 【石油マン】

 ・大阪のフェニックスが直々に推薦した『大阪地下火山』の新たなる主。

 巨大な人型の石油で、炎によって轟轟と燃え盛る。

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