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番外編 五賢将のあんまり真面目じゃない会議


 「ですから、私は『変異種』と『特異個体』、そして『ユニークモンスター』の呼称を廃止してどれかに統一すべきだと思うんですよ」


 探索者協会準最高権力者、五賢将の後野マツリ。彼女が高級そうな机をバンと叩きながら言った。

 五賢将の紅一点にして最年少の後野が、厳めしい顔をした老人達に囲まれる姿は異様ともいえるものだったが、老人達の神妙な(うなず)きがその雰囲気を(やわ)らげていた。


 「私は賛成だ。変異種だの特異個体だのユニークだの、それらが複合したモンスターだの……書類で見ると面倒に過ぎる」

 「ウム……我々が老人だから、このような呼称の多さに混乱する……などと思っていたのだが。、後野防衛司令官もそう思っていたのだな」

 「ええ、ええ! どこの誰が呼称を分割したのかは知りませんが私も一々書類を分けるのを面倒に思っていますよ」


 マツリがグビグビとコーヒーを飲み干す。

 普段は少しずつ飲むのだが、一気飲みしているところに彼女のほのかな怒りが垣間見える。


 「で、どれに統一する?」

 「……変異種というのも妥当ではなく、ユニークモンスターは長い……ここは特異個体でどうでしょう?」

 「私は賛成だ」

 「フン、どれでもいいが……私も賛成だな」

 「私も」

 「ウム……私も賛成する」


 満場一致だった。

 そもそも、彼らにとっては呼称が減ればどれに決まっても良かった。

 マツリの適当な理由も、単なる建前でしかない。


 「すでに五闘将には話を通しています。後は許諾を得るだけですが……まず間違いなく得られるでしょうね」

 「相変わず即断即決か、後野防衛司令官」

 「五闘将からの反発は無かったのか?」

 「ええ、彼らも面倒に思っていたようです」


 マツリはそこで一呼吸置いた。


 「それとなく話してみましたが、『勇者』も、『弾幕女王』も、『聖女』も、『新人類』も『マッドワールド』でさえも同じような反応でした」

 「『新人類』もか? 意外だな……あれはこの手の話に興味がないと思っていたが」

 「五闘将になるなら嫌でも書類仕事はするハメになりますよ。いくら超能力者でも、できるだけ書類は減らしたいらしいですね」


 マツリは若い。だからこそ、ほぼ若者で構成された五闘将とも話は合う。

 この五賢将と五闘将はいがみ合っているわけではないが、五闘将の面々は老人である五賢将にどうしても遠慮してしまうことがあった。

 五賢将は、仕事時以外は孫に対する感じで接しているつもりなのだが……いかんせん顔が(いか)つく、スプリガンに至っては偏屈ジジイだ。


 「では……私が話をつけてきます。皆さんは公表の準備を」

 「ああ……頼んだ」


 革靴を鳴らして部屋から去って行くマツリを見つめる老人達には、どことなく安心感が漂っていた。




 ◇




 「以上が、『空爪竜ジオラダムス』の討伐報告となります」


 パチパチと乾いた拍手が鳴る。

 モンスターの呼称の件から数日、彼らは幾度となく行ってきた会議をしていた。

 しかし、その内容は数度あったか無かったか……『ドラゴン』の討伐報告だった。


 「発見して早々に討伐できたのは幸いだった」

 「討伐者はドクター・ニュークリウス、ネロンガ、デバスターに『弾幕女王』と『新人類』か……デバスターは死亡、他は重症だと……」


 彼らは沈痛な面持ちだった。

 たった今報告に上がった名前は、いずれも名だたるS級探索者達。世界に十数名しかいない正真正銘の英雄達だ。

 中でも『破壊王』デバスターと言えば破壊力に特化した強力な探索者。スキルのデメリットから言葉は通じないが話は通じる者だった。

 攻撃に使うはずの【破壊】というスキルを防御にも応用することができ、攻防一体の力を持っていた。


 「ロドリゲルに続いてデバスターまでもが逝ったか……」

 「ジオラダムス、空間を引き裂く爪の竜か……相当な強敵のようだったな」


 ジオラダムスと呼ばれたドラゴンは、空間を引き裂く爪を持っていた。

 不可視の斬撃が隙間なく飛来し、全てをバラバラに解体する。デバスターは仲間を庇い、無数の肉片へと姿を変えたのだった。


 「どうにかS級探索者を増やすことはできんものか……」

 「兵士は畑からとれるわけではないんですよ。ないものねだりです」

 「分かっている……はぁ、ままならんな」


 ドラゴンは強すぎるがゆえに、ドラゴン同士の戦いでもなければ基本的に死ぬことは無い。

 しかし、人間の探索者は老いて死ぬ。今は積極的に人類社会を滅ぼすようなドラゴンは()()()()()()が、はっきり言って状況はジリ貧だった。


 「後野防衛司令官、いざとなればだ。いざとなればお前の――」

 「ええ、()()()()()()です。それまでは、彼を使うことはありませんよ」

 「……ならいいが」


 一瞬だけマツリの目に不穏な光が宿ったものの、すぐに元に戻る。

 それを確認したアルガーは、話題を代えようとした。


 「そういえばこんな話を聞いてな」

 「露骨に話題を代えましたね。で、どのような話ですか?」

 「曰く、『()()より弱いのだからさっさと討伐してしまえばいい』と」

 「……ハァ? 誰が話してたんですか、それ。まさかWDA職員じゃないでしょう?」

 「そのまさかだ」

 「……」


 マツリのみならず、他の五賢将たちも眉間を揉んで呆れていた。


 「どういう理屈ですかそれ」

 「字面で判断していたようだ」

 「……その職員の再教育は」

 「すでに始まっている」

 「なら良いのですが」


 マツリはコーヒーの水面を見つめている。

 ここではないどこかを見ているのだろう。そして、しばらくして口を開いた。


 「なぜか日本人がたまに勘違いしているのですが、龍と竜の表記で違いはありません。どっちもドラゴンです。どっちが強いとかもありません。せいぜい、西洋流と東洋龍の違いです」

 「そうだな」

 「もしかして、ワイバーンをドラゴンの下位種族とでも思っているのではないですか? 残念ながらそんなことはないです。ドラゴンとは、そういうものじゃないんです」


 彼女には見えている。


 「ドラゴンというのは、名前や見た目で強さが決まるような存在ではないんですよ……WDAも、質が落ちましたね」


 マツリがコーヒーを通して見ているもの。

 そこは、全域が半ダンジョン化し大迷宮都市『大阪』の一画。

 

 水面に映し出されていたのは、大阪城を破壊する三日月状の角を持つ怪物。

 それが、まるで凍ったように停止した光景だった。




 五賢将の口調


 マツリ   :敬語

 アルガー  :穏健派

 スプリガン :過激派

 キュクロプス:中立

 ラック   :中立


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