第74話 賞金をもらおう
『危険な森』から帰還したウチらは、探索者協会に戻ってきた。
壊蔵の死体は、K2が持っていた納体袋に入れ、その他のモンスターや肉塊の怪物の死体は、ドンの中に入れている。
「これが賞金首だ。検分を要請する」
探索者協会の解体室と呼ばれる部屋でゴロッと無造作に出されたのは、壊蔵の死体だ。
首は切断され、血色は蒼白。恐怖と絶望に染まった表情で死んでいる。だが、こいつの犠牲者はもっと酷い扱いを受けている。
「うわ……酷い死に方っスね」
ゴム手袋をつけた受付嬢が、死体を検分する。
後から聞いた話なのだが、彼女はモンスターの解体や死体の検分のための資格を持っているらしい。
「直接の死因は頭部の切断……毒と感染症による患部の壊死、大量出血もあるっスね」
次に受付嬢は、虫眼鏡のようなものを取り出した。
普通の虫眼鏡と違うのは、レンズが透き通った青に染まっていることだろう。
「それは?」
「これは鑑定のマジックアイテムっスね。主に本物か分からない物体の真偽を確かめるのに使うっス。人間の死体はその最たる例っスね」
虫眼鏡を壊蔵の死体にかざすと、虫眼鏡が青く輝いた。
ちなみに、赤く光ったら嘘だということらしい。
「よし、本物っスね」
「なあ、死体の検分の必要はあったのか?」
「ほぼないです」
じゃあ何だったんだよ今の検分は。
「じゃあ報酬の受け渡しに入りますね」
死体をその場に放置したまま、ウチらは別室に連れていかれる。
雑すぎる死体の扱いだが、これで良いのだろうか。そんなウチの思考を読んだように、受付嬢が口を開いた。
「別に犯罪者に人権は無いなんてことは言いませんけどね、探索者が犯罪者になったらそれはもうモンスター扱いなんスよ。免許取る時に、誓約書あったっスよね? 探索者が犯罪をするってことは、人扱いされないってことっス」
「まあ確かにな。Eクラス、Dクラスならともかく、C級以上になると一般人に対抗はできねえ」
探索者は、はっきり言って化け物だ。
人の知能を持ったモンスターが街を練り歩いていると考えると、恐ろしいだろう。
ウチのように、分かりやすく探索者どころかモンスターっぽいと一目で分かるのは実際マシなのかもしれない。大体は、一般人と見分けがつかないのだから。
「大体の人は理性を持ってくれてるっスけど、中には凶行を働く輩も少なくなく……最近はそんな奴が増えて来てるっスね。と言っても、成りたてのE、Dっスけど」
「原因は?」
K2が端的に聞いた。
受付嬢は首を振りながら答えた。
「悪質なクラン、あるいはそのバックについた組織が怪しいスけど、確証はないっス」
「そのクラン及び組織の名称は?」
「クラン『サキュバス&ミスター・しばざくらゲヘナ』とそのスポンサー『マキシマ・コーポ―レーション』」
「なんやて?」
「『マキシマ・コーポレーション』っスよ、あの大企業の」
「その前や」
「『サキュバス&ミスター・しばざくらゲヘナ』っスか?」
何やその『サキュバス&ミスター・しばざくらゲヘナ』って。
「クラン名を変えるのって実はクソ程めんどくさい手続きがいるんスよね。だから彼らはこのイカれた名前を使い続けるしかないんスよ」
「そ、そうか」
「ま、その名の通りサキュバス氏としばざくらゲヘナって人がクランマスターしてたんスけど、今はメンバー総入れ替えで全員マキシマの手駒とか言われてるっスね。真偽は定かじゃないスけど……協会のめちゃくちゃお偉いさんの一人が皆殺しにしろとか息巻いてるっス」
えらい物騒な話だが、まあウチには関係ないだろう。
具体的に何してるか分からんけどそんな悪徳クランや大企業、お偉いさんと関わることなんてまずないし。
「さ、賞金の話に移りましょう。奴にかけられた賞金は一億円スね」
「い、一億!?」
「山分けしても一人三千万か」
いきなり相当な大金が入ってきた。
これ普通にモンスター狩るより実入りがいいんじゃないか?
いや、賞金首を探す効率を考えれば、普通にモンスター相手にしてた方がマシか。
「で、メガクローの変異種が三千万くらいスね」
「しゃあっ!」
「んで、大量のメガクローとかその他モンスター、壊蔵の被害者の遺体の運搬で……」
受付嬢がポチポチと計算機を操作する。
一体いくらになろうというのか。ウチは胸の高鳴りを隠せなかった。
「ほぉ、一人当たり一億……ちょいっスね」
「聞いたかK2!? これで弾薬も新しい武器も買えるぜ!」
「果たしてそう上手くいくかは疑問。武器は高額なため、報酬は弾薬とメンテナンス費用に消え去ると予想。残るのは多くて一千万円ほどだろう」
「そっかぁ……」
ラプターは残念な様子だ。
まあ、K2もラプターもアホほど金かかりそうだし、仕方ないのかもしれない。
「ソラはいいなぁ、テイマーとはいえソロなんだろ?」
「テイマー……? いや、ソロってワケとちゃうけど」
「そうなのか?」
「おう。ウチ、クラン作ろう思っててな」
「へぇ~」
ずいぶん気の抜けた返事だ。
するとラプターはK2と何やら相談し始めた。
「おいK2、アタシらもそろそろ身を固めた方がいいんじゃないか?」
「頃合いかもしれない」
二人はウチに向き直った。
「なあ、アタシらもソラのクランに入れてくれねぇか?」
「働きは保証する」
「ええ? マジで? いや願ってもないけど……ウチでええんか?」
「ああ、だってアンタ強ぇし、銃弾が横飛んでてもビビらねぇ前衛だ。そこで、この腕のいいガンナーを仲間に入れてくれねぇかってワケだ。それに……」
「それに?」
「クランで物資を購入するなら、クラン割がきく。その中には弾薬も含まれる」
「それが目的やなぁ~?」
K2のカメラ・アイが目を逸らすように動く。
まあ、ウチとしてもこれほど正確な射撃の出来るメンバーが入ってくれたら言うことは無い。
「ええで、これからウチの仲間や」
「ありがとよ!」
「感謝する」
二人と握手を交わす。
すると、それを見ていた受付嬢が口を開いた。
「じゃあ報酬の受け渡しが終わったらクラン設立に移るっス」
「お願いします」
「でもその前にクランに入ってくれるメンバー集めた方がいいっスね」
「じゃあ呼ぶわ」
ウチはスマホを取り出し、電話をかけた。
◇
協会の応接室に入ってきたのは、ウチやK2と比べてなお異様な四人組だった。
その中の一人、チャラそうな金髪の、ヒョロリと背の高い大男が軽快に口を開いた。
「どもっス! オレはブロワーマン。風吹き荒ぶいい男たぁオレのことよ」
キラリと真っ白な歯が光る。
ウチの最も信頼する先輩探索者、乾風男ことブロワーマンである。
「あ、どうもこんにちは。虎の穴マコトです」
ペコリと頭を下げた、美少女と見紛うほどの美少年。
しかしその実体は見るもの全てに欲情するレベルで性欲の強い人間オークだ。
ちなみにある研究所で作られた合成人間という哀しき過去を持っている。
「……ガーランド」
この場で最も筋肉質な大男。
その肌は人間のものではなく緑……そう、彼はオークなのだ。
コロシアムで勝ち続けていたチャンピオン、オークのガーランドだ。
「初めまして、私はグレゴール・ザムザ。以後、お見知りおきを……」
優雅なカーテシーを披露したのは、ブロワーマンやガーランドを超える身長を持つ女性。
長い髪に、陰気な微笑みを浮かべるその姿はまるで幽霊にも見える。彼女はドイツあたりから転移の罠によって日本まで飛ばされてきたA級探索者、グレゴール・ザムザである。
「どうや、この人らがウチのクランに入ってくれるんや」
「よくもまあ、こんな異様な面子集めやがってよ」
「全員、かなりの実力者だ」
彼らは共に激戦を乗り越えた仲間達だ。
クラン設立に誘うと、喜んで脚を運んでくれた。
「は、ハジメマシテ。ミニラプターです」
「当機はK2‐HTA。賞金稼ぎをしていたが、今はクラン・メンバーだ」
K2とラプターも挨拶をする。
これから同じ釜の飯を食うのだ。仲良くてなんぼや。
「よし、じゃあクラン設立だあっ」
「やったぁ!」
一人ひとり、クラン設立の名簿に名前などを書いていく。
そして、大体の項目を埋めた頃、ブロワーマンが言った。
「で、名前はどうすんだ?」
「えっ」
クランの名前何も考えてなかった……
【K2‐HTA】
・マキシマ・ヘビーインダストリーで製造されていた殺人ロボット。もちろん、存在自体が非合法のヤバい奴。
一応は量産型であるものの、要人暗殺(探索者含む)を目的とした設計をされているため高性能である。
タングステンと複数の金属を合金され更にメッキされたボディ、探索者の探知スキルに引っかからない高度なステルス性、細身のボディからは想像もできない怪力と頑丈さ、ガシャガシャと鈍重に見えて機敏な動き、機械特有の反応速度と高度な電脳戦能力、内臓された必殺の武装の数々、敵の攻撃位置を瞬時に予測するガン=カタシステム、360°の視野角と色彩感知に赤外線・紫外線などをキャッチする高性能センサー……などなど、挙げればキリがないほどの恐ろしい機能を備えている。
普段は協会にかけられた賞金首(突然変異のモンスターや、強化個体など)を倒すことで莫大な賞金を得ていた。
【装備】
・対モンスターライフル L96A1 AWM:狙撃用。
・対モンスター短機関銃 スターリングSMG:セミオート(装填のみ自動、単発ずつ手動で引き金)に設定されている。
・対モンスター短機関銃 AKM:セミオート。基本的にスターリングとの2丁で使用する。
・対モンスター短機関銃 UZI:サプレッサー付き。ステルスからの強襲用。
・対モンスター機関銃 MG42:大型かつ複数のモンスター用。
・対モンスターグレネード&グレネードランチャー:硬いモンスター用。
・キラーワーム(体内に侵入し、内部から食い荒らすロボット兵器)
・スタンフラッシュ(カメラアイからのフラッシュと、不快な金属音。スタングレネードのような機能で何度でも使える)
・高周波アサシンエッジ
・特殊合金ワイヤー
・超高圧電流
・光学迷彩機能
・神経ガス
・応急処置用キット
【ダンジョン産魔道具】
・マジックバッグ(小):比較的容量の少ないマジックバッグ。装備の持ち運び向き。
【“ミニラプター”ジークロリータ】
・下半身が獣脚類のように変形するサイボーグ。
元はどこかの特殊部隊の隊員だったらしいが、本人は頑なに語ろうとしない。
ミニラプターという名の通り身長は小さいものの、体重は百キロをゆうに超える。
K2と共に、賞金稼ぎとして暮らしていた。
【装備】
・ウィンチェスターM1887
・AA‐12




