第68話 痴女と機械とコモドドラゴン
「何やお前ら」
痴女……露出の激しい特殊部隊みたいな格好の女は、変わらずこちらに銃を二丁構えていた。
片方は見たことがある。ウィンチェスターM1887だ。あのスピンコックができるやつ。映画で見たことがある。
もう片方は良く分からない。ドラムマガジンがついているが、ショットガンなのかライフルなのか分かりづらい。
ただ人に向けるべきものではないのは明らかだ。ダンジョンに持ち込んでいるということは、その銃弾は全て超威力を誇る『対モンスター弾』であることを意味するのだから。
ロボットの方はもっと分からない。
紅く光るカメラアイを右往左往させ、直立した姿勢のままである。背負った銃火器や手榴弾にも手をつけようとすらしない。
一見隙だらけだが、そこはロボットだ。人間にはできない動きをしてくるかもしれない。
ウチの質問に対し、痴女が口を開いた。
「アタシらは賞金首を狩りに来たんだよ」
「賞金首やぁ?」
「そこに転がってるデケぇクマだよ」
ウチに頭部の半分を削り取られて死んだ、傷だらけのメガクロー。
こいつらの言い分を信じるなら、このメガクローは賞金首ということになる。
『賞金首』。
多くの探索者を殺したとか、モンスター同士で争って力をつけた危険な個体に、今日かいなどが賞金をつけたモンスターの総称だ。
それを専門に狩る者達のことをバウンティ・ハンターとか賞金稼ぎと言うらしい。
「こいつ、賞金かけられとったんか」
「まあ、協会からじゃねぇがな。コイツに食われた奴の仲間がかけたんだとよ」
「そういうことかい」
仲間がやられた復讐のため同業を雇う……というのはよくある話だ。
知り合いの探索者に頼んだり、ネット掲示板に情報をバラまいて興味を煽ったり、協会に報告して直ちに対処してもらったり。
今回は、非公式に賞金をかけることによって、強い探索者を集めようとしたようだ。
「で、撃ってきた理由はなんや? 事と次第によっちゃ……」
「わー、待て待て待て! そういきり立つな! アタシ達はそのクマが死んでるなんて気づかなかったんだ、いきなり動いたから撃ったんだ」
「何ィ?」
確かに、ロボットはともかくとして痴女からは殺気が感じられない。
まだ銃は構えているが、こちらが銃を下ろしていないからだろう。
「そっちのロボットはどないなんや?」
ロクな返事は期待していないが、ロボットに質問する。
すると、ロボットはカメラアイをウチに向けた。
「リスクを考慮すれば、撃ったこと自体は誤った判断ではない。しかし、結果としてそれは間違いだった。この度は誤射の件について謝罪する。この通りだ」
意外なことに、ロボットの返事は謝罪のものだった。
しかし、ロボは直立不動だった。頭を下げる気はないらしい。
「あれ? 頭下げたりは?」
「私の行動プログラムに『謝罪の際に頭を下げる』という行為はインプットされていない」
「何やコイツ」
訳の分からないコンビだったが、害意はなさそうだったので銃を下ろした。
すると、向こうも恐る恐る銃を下ろした。痴女の顔には安堵の表情が浮かんでいる。
「ふー、誤解が解けてよかったぜ」
「お互い様やな」
「で、アンタは全裸で何してんだ? そーゆーシュミか?」
「ちゃうわ。このクマとの戦いの余波で、服なくなっただけや」
「クマとの戦いで服全損するってなんだよ」
「離せば長くなるが……先に服やな。ドン!」
メガクローの死体の上から、ヌッと顔を覗かせるドン。
「うおっ!? 何だコイツ!?」
「ウチの相棒、コモドドラゴンのドンや」
ドンはウチの側までやってくると、布を出してくれた。
ウチの全身をすっぽり覆える大きさっだったので、全裸よりいくらかはマシになるだろう。
「そういえば、自己紹介がまだやったな。ウチは諸星ソラや。お前は?」
「アタシか? アタシはミニラプターだ」
「お前の本名はジークロリータであると訂正する」
「やめろよ! アタシそっちの名前あんまり好きじゃないんだよ!」
“ミニラプター”ジークロリータ
中々に複雑な事情を持っているようだが、ウチには関係ないのでミニラプターと呼ぶことにしよう。
「で、そっちのロボットは?」
「私はK2‐HTA。旧マキシマ・ヘビーインダストリー製の暗殺ドロイドだ。今はマキシマ社所属ではなくフリーの立場であることを明言しておく」
「ほーん、暗殺ドロイドか……」
謎のロボットはK2‐HTAと言うらしい。
だが今物騒すぎる単語が聞こえた。
「暗殺ドロイド!?」
「一般及び裏社会からの依頼は受け付けていない」
「そういう問題か!?」
「ガチだぜ。K2は卑怯な暗殺はしない主義なんだ」
「まるで卑怯じゃない暗殺はするみたいな言いぐさやのぉ」
「待った、暗殺が卑怯って言いたかったんだ」
「……せやな。まあ殺さんかったらええか」
ギャーギャーと騒ぐウチらを、呆れたように見るドン。
ウチとこの珍妙な奴らの出会いは、どんな結果をもたらすのだろうか。
【賞金首】
・主に探索者協会から指定される、賞金付きの高危険度モンスター。
多くの探索者を殺したモンスター、モンスター同士での争いに勝利し続けた歴戦の個体、放置していれば社会に対し悪影響を及ぼすと判断されたモンスター……理由は様々だが、高い賞金がかかっている。
危険度に比例して賞金は高くなるが、挑んだ際に死亡するリスクも跳ね上がる。




