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第67話 猟

 「ガァッ!」

 「せいっ!」


 いの一番に襲いかかってきた個体の頭部を砕く。

 反射で振り抜かれた爪がウチの腹をわずかに斬り裂くが、【超再生】によって修復される。


 「ガウアウァッ!」

 「グルウウアア!!」

 「ぐっ!? しゃらくさいんじゃボケェ!」


 同族の死などお構いなしに、狂乱した様子のクマは止まらない。

 巨大な爪を開閉させながら迫る二体のメガクローを触手で締め上げる。締めつけを選んだのは、距離が近くて貫けないと判断したからだ。


 「ガウッ!」

 「しゃあっ」


 真正面から突撃してきた奴を、硬化した膝蹴りで粉砕。

 命が尽きたことで巨体が急激に活力を失うが、慣性は殺し切れずに転がりながらウチにぶつかる。


 「ガアアアア!」

 「がっ!?」


 背後から爪が突き刺さり、腹まで貫通する。

 裏拳で殴打しつつ、頭部を握って潰す。血と肉で濡れた毛皮と、頭蓋骨と脳漿(のうしょう)が入り混じった不快な感触が手に残る。

 しかし、それを無視して未だに触手の中でもがき続けるクマにトドメを刺した。


 「ドンッ!」

 「ジャア!」


 今は話しかけるな、と言いたそうにしているドンも、メガクローの首を食いちぎったり、猛毒で失血死させたりしている。

 危険なダンジョンで鍛えたパワーと、規格外に成長した体格は伊達ではない。


 「せいっ……お前で最後やな?」

 「ゴアアアア!!!」


 残ったメガクローの首を手刀で斬り飛ばす。硬化しているとはいえ、その断面は荒かった。

 そして、最後に残ったひと際大きいメガクローを見る。


 「ガァァァァ!!!」


 幾多もの戦いを切り抜けてきたのだろう傷だらけの巨大な身体。

 巨大な爪を持つメガクローの中においてなお、異常発達というのに相応しい異形の赤黒い爪。

 まるで炎のように赤く染まった毛皮。


 間違いない、こいつが受付嬢の言っていたメガクローだ。


 「ガァッ!」

 「ッ!? 速ッ……」


 豪快な咆哮とは裏腹に、脱力した状態からの爪の一撃。

 ほとんどノーモーションで行われたそれは、ウチの不意をつくのに十分だった。

 しかし、何とか硬化した両腕によって防ぐ。だが……


 カチン!


 「えっ」

 「ジャア!?」


 金属と化したウチの腕の、奴の爪が激突したことによって火花が散る。

 そして巻き起こるのは、至近距離での大爆発……このメガクローは、スキルを持っていた。


 ドガァン!


 「――ッ!?」


 ウチとドンは爆発にさらされ、錐もみしながら吹き飛んだ。

 そして、体感的には数十メートルくらい吹き飛ばされ、ようやく巨木に激突して止まった。


 「うぅ……痛ったぁ……ん?」


 痛いが、それだけだ。

 超再生もあるしすぐに治る。しかし、ウチはふと自分の状態を目にしてしまった。


 「ほぼ全裸やんけ!」

 「ジャァァァァ?」


 爆発で服、というかほぼ水着みたいな布が消し飛び、実質的な全裸なのが今のウチである。

 ほぼ買い換えていなかったとはいえ、ついに限界が来たようだ。


 「着替えとか持ってないねんで」

 「ジャア……」


 ドンが布を持っているので最悪なんとかなるが。

 しかし、ショットガンとホルスターは無事だったので良しとしよう。


 「ガァァァァァ……!」

 「追いかけて来おったか。まあええわ、迎え撃ったる!」


 全力疾走で迫りくるメガクロー。

 ウチはそれに合わせ、距離を詰めて腹に拳を叩き込んだ。


 「グムゥゥゥゥ!!!」

 「き、効いてないんか……」


 通常のメガクローなら難なく貫ける金属の拳は、奴の筋肉によって受け止められた。恐らく、肉体そのもので受けたのではなく、衝撃そのものを殺された。

 接触して分かったが、こいつは他のメガクローとは一線を画す実力を持っている。


 「じゃあなんぼでも殴って……お゛お゛ぉ゛!?」

 「ジャア!?」


 さらに、その拳の()()()は、ウチの股間への蹴りだった。

 クマの後ろ脚は短いが、こいつの脚は異常なまでに筋肉質で、蹴りも的確で速い。

 クマが蹴りを使うという不意を見事に疲れたウチは、モロに股間を蹴り上げられてしまったのだ。


 しかも、足にも鋭い爪はあるので、それがクリーンヒットしてしまった。

 間違いなく、このクマは狙ってやっていた。ウチは悶絶した。


 「……ッ! ……ッ!」

 「ジャア、ジャアジャア? ジャッジャッジャ」

 「……す」

 「ジャア?」

 「殺す」

 「……」


 悶絶しながらも立つウチに、まあそうだろうなという顔をするドン。

 そう言えば何度も股間に攻撃を食らってる気がする……最初は邪悪なサウナーだった気がするが。


 「ウチの新しい力、見せたるわ!」


 雄叫びを上げるメガクローは、その荒々しい行動に反して冷静にこちらの様子をうかがっていた。

 だから、ウチは遠慮なくその力を発動する。


 「【シン・硬化】――」


 ウチの右腕が、どんどん巨大化する。

 まるで巨大なガントレットを装着したような、金属の腕。


 「【装甲化(アーマード)現象(フェノメノン)】!」


 装甲化現象。

 身体を鎧とする技である。

 効果は至って単純。ゲーム風に言うなら……攻撃力と防御力と、重量が増すだけだ。


 「死にさらせぇぇぇぇ!!!」


 ゴウッと風を切る音が鳴る。

 今や目の前のメガクローさえも超える圧倒的な物量を前にしても、奴は冷静だった。


 「ゴアアアア!!!」

 「!? 受け流し!?」


 当たる直前、奴はウチの腕の側面に左腕を差し込み、強引に軌道を変えようとしたのだ。

 まるで人間の格闘家のような動きに、ウチは面食らう。しかし、装甲化(アーマード)現象(フェノメノン)は防具ではない。ウチの腕なのだ。


 「当たれぇぇぇぇ!!!」


 手刀が受け流される直前、ウチは苦し紛れで親指を動かす。

 存外、リーチが足りたのか、その親指はメガクローの顔面に命中し……


 「ゴアッ――」


 その顔面を削り取ることに成功した。

 顔の半分を失ったことで、奴は力を失い、やがて倒れ伏す。


 「おっしゃあ!」

 「ジャア!」


 やはり重量と硬度は正義!

 見事にクマを討ち取ったウチらは喜んだ。


 「いやぁ、終わった終わった」

 「ジャアジャア~」

 「せやなぁ、今日は熊肉鍋や!」

 「ジャ」

 「ああ、ドンは料理食わんかったな。ええで血の滴る(レア)のステーキをたらふく食わせたる!」


 捕らぬ狸の皮算用ならぬ、殺った熊の肉算用だ。


 「さて……このクマどないする?」

 「ジャア、ジャアア?」

 「せやな、取り合ず動かすか」


 ベアクローを解体するにも、段差とかで妙に位置が悪い。

 そのため、一旦動かすことにした。ウチが頭、ドンが下半身を動かす。


 「行くで? せーの――」


 力を込めて動かしたその時だった。


 パァン!


 「な……なんやあっ!?」

 「ジャ!?」


 明らかな発砲音と共に、メガクローの死体に衝撃が走る。

 ウチらはとっさに死体を盾にして隠れた。


 「……なんや、一体誰が」

 「ジャア?」

 「……横取りぃ? あり得るな」


 たまにあるのだ、他人から獲物を横取りしたりすることが。

 そいうった悪質な探索者は協会によってしょっ引かれるものの、そんな連中は近年増加傾向にあるらしい。


 「そうでなくともヤバいモンスターかもしれんしな。ウチが先に行く。ドンはもしもの時に奇襲頼むわ」

 「ジャア」


 ウチはホルスターからショットガンを引き抜き、弾を確認してから構えた。

 ……何となく分かる。気配が近づいてくるのが。その気配が死体の前で止まった時、ウチは一気に飛び出した。


 「他人様(ひとさま)の獲物横取りしようなんざええ度胸しとるやないか、えぇ!? ……えぇ?」


 ショットガンを向けて威嚇するが、それよりもウチは驚愕した。

 目の前にいる者が、あまりにも常識外れの奴だったからだ。


 「な、何やお前は」


 赤く光る眼。それも一つではなく、複数存在する。

 異様に細身の、まるで骨組みのような身体は、大量の銃火器で武装されている。

 シルエットはノッポな人間。しかし、その存在は紛れもなく――


 「ロボットか?」


 全身余すところなく金属の身体を持つ、ロボットだった。


 「やっと追いついたぜ……なんだお前!?」

 「ロボットの次は痴女かいな」

 「いや……全裸の奴に言われたかねぇけど……」


 ロボットの背後からやたら薄着の、ウチよりはちょっと背の高い女がやってくる。

 そいつも銃で武装しており、ウチに銃を向けていた。


 果たしてこの混沌とした状況は、どう転ぶのだろうか……


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