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第59話 ブラック鉱山

 『迷宮町第一資源鉱山』。大阪全域を巻き込んだ大迷宮都市の中でも、最初に確認された『鉱山』である。最初に発見されたからといって規模が大きいだとか、貴重な鉱石が産出されるということではなかったが、採れる鉱石の量は平均よりやや多かった。

 だが、岩盤は硬い上に、天井は崩れやすく崩落が多い。おまけに内部は、夏は玉子を放置するだけで目玉焼きが作れるほど暑く、冬はペットボトルの水が氷るほど寒い。


 数年後か、数十年後か。いわゆる『ハズレ鉱山』と言われ誰も手を付けなかったここを一般企業が権利を買い取り、多くの従業員が働くようになった――今や、超の付く立派なブラック企業だ。


 「――よっし、ようやっと壊せたぜ」

 「流石だな、諸星」


 ソラの父親……諸星(もろぼし)凱郎(がいろう)が働く鉱山がこの場所だ。

 彼はちょうど、同僚達と協力して硬い岩盤を砕いたところだった。


 「後は奥にある岩だな」

 「あれを砕かにゃ先へ進めんってのに、邪魔だな。ハァ……またあのハゲデブ社長に給料カットされるぜ」


 男達は()()()()を持って、坑道を進む。

 『鉱山』の内部では、通常のダンジョンと違い、ほとんどの機械が機能しない。ゆえに、こういった道具で地道に掘り進めるしかないのだ。

 あまりの危険さに、本来なら会社が福祉を充実させるのだが、彼らが働く会社はブラック企業。そんなものは存在せず、日々従業員を使い潰していたのだ。


 彼らがこの会社から出られない理由。

 それは、ここ以外に行くあてがないから。義務教育すら受けられていない者達すらかき集められているせいで、他の企業へ就職できる見込みがないと分かっているのだ。

 かつてインテリと(した)われるが皆に勉強を教えていたこともあったが、彼は()()()()()を遂げた。


 「よっこらせ! ……おん?」

 「どうした諸星?」

 「これ見ろよ。また()だ」


 凱郎が持つのは、手のひらサイズの薄平たい黒い鉱石。


 「かぁーっ、またハズレか。こいつクソ硬ぇんだよなぁ」

 「保管庫に置いとくぞ」

 「代わりに掘ってるからそうしてくれ。ったく、そいつに何度道具を壊されたことやら……って、結構デカいのもあんじゃねーか!」


 彼らは薄給と劣悪な環境の中、働き続ける。

 探索者協会はこうしたブラック鉱山には目を光らせているが、やはり目の届かないところというのはある。


 「ま後にして掘るか――」

 「やっほ」

 「えっ」


 同僚が再び掘り進めようとした時だった。

 いきなり岩が斬り裂かれ、その奥から何者かが現れた。


 「ここって『迷宮町第一資源鉱山』?」

 「あ、ああ……」


 そこにいたのは禍々しい鎧をまとった人物。

 危険色で塗られた色合い、ドクロなどの装飾、異形の剣からして、まともな人物ではないことがうかがえる。

 その人物は、ここが『迷宮町第一資源鉱山』であることを知ると、喜色を含ませた声色で言った。


 「当ったりぃ~、じゃあ早速だけど人質になってもらうね」

 「えっ」


 異形の剣が首に押し当てられる。

 薄皮を着られた同僚が、命の危機を感じた。


 「おーい、どうした……おいおい、どうしたってんだよ」

 「おや? お仲間さんか? ちょうどいいや、ここの従業員全員集めてよ」

 「も、諸星……逃げろ……」

 「ちょっと黙ろうね」

 「ぐぅっ!?」


 強くつかまれ、苦しむ同僚。

 この凶悪な人物を見た諸星が下した判断。


 「分かった、分かった。あんさんの要求に従おう……ここで働いてる連中の命を取らねぇってんならな」

 「殺すなんてとんでもない。君らには人質なんだ、誰か一人でも欠けてもらっちゃ困る」

 「お優しいお言葉で涙がちょちょぎれるね、うちの社長たぁ大違いだ」


 凱郎はこの不審者に従うことにした。

 この会社の社長は従業員のことを代えの効くパーツか何かくらいにしか思っていないのは周知の事実だった。

 いつ死ぬかも分からない環境。先ほどまで話していた同業が落盤に巻き込まれ死ぬのは日常茶飯事。


 一秒だって坑道に長居したくない、この不審者に従わなければ同僚の命が危ない。

 恐らく、凱郎でなくとも指示に従っていたかもしれない。それほどまでに、労働環境は酷いものだった。


 坑道の外に、従業員が集められた。

 彼らは酷く汚れた身なりで、疲れ切っている。


 「……俺が言うのもなんだけど、ここってホントに日本?」

 「チガイホーケンってやつだ。ここじゃあ社長が王様なんだよ」

 「それちょっと違くない? まあいいや。取りあえず皆さぁん、ここで待機しててね。してないとぶっ殺しまーす」

 「へぇ、待ってりゃ死なずに済むのか」

 「じゃあ遠慮なく休ませてもらうぜ」

 「殺されるよか、坑道の方がこえーよ」

 「ねぇやっぱりここおかしくない?」


 不審者……パンツァー・ベーゼとしては、もっと抵抗されたり通報されることも想定していた。

 しかし、従業員達はろくな抵抗もせず、しまいには一言も発さずうつむいているだけの者もいる。


 「じゃあちょっとそのままでいいから話聞いてもらいたいんだよね。君らに『アダマンタイト』を採掘してもらいたんだよね」

 「アダマ……? 何だそりゃ」

 「あ、鉱山で働いてるのにアダマンタイトを知らない……え、えーっと、そうだなぁ。めっちゃ硬くて黒い鉱石を集めて欲しい。そのために使い潰してもいい護衛もつけるよ」

 「護衛か……ありがたくて涙が出そうだ。今より労働環境がよくなるなら、喜んで従うぜ」

 「ここ闇深くない?」


 ベーゼが困惑している時だった。

 鉱山の入り口に、けたたましいブレーキ音と共に、複数台の大型トラックが止まった。

 最初に停止したトラックの荷台から現れたのは、異様な集団。


 「見つけたぜ、パンツァー・ベーゼ」

 「おやおや、見つかったか。どうしてここが分かった?」

 「お前が爆破した通路から高純度の魔鉱石が見つかったぜ。んで、この辺で一番近い鉱山はここしかねぇ」

 「なるほど、まるで探偵みたいだな?」

 「ピンク色の脳細胞に解けない謎はねぇのさ……マコト君のな」

 「えぇ!? ボクゥ!?」


 現れたのは、ブロワーマン、マコト、ガーランド、グレゴール。

 そして、武装した風雲団の面子。彼らがベーゼの場所を特定し、やってきたのだ。


 「残酷な話だが、マコト君はともかく、オレとガーランドとグレゴールは人質が殺されようがテメェをブッ殺すぜ」

 「ハッ! 面白いこと言うねお前。殺されるのはそっちなのに」

 「何だと?」


 ベーゼが異形の魔剣『シェルブリンガー』を振るう。

 すると、鉱山の壁から大量のリビングアーマーが現れた。


 「この鉱山はリビングアーマー達が戦争した跡地にできたんだ。彼らを操れば、無限の兵士の出来上がりさ」

 「皆、来るぞ!」

 「さぁ! もうちょっとで目的は達成できるんだ! 邪魔者を殺して悲願達成だ!」


 鉱山にて、人間とリビングアーマーの戦争が始まる!




 ◇




 「パンツァー・ベーゼェ……」


 魔人が目覚める。

 光を失い、音を失い、四肢を失い。

 それでも、第六感とも言える感覚はパンツァー・ベーゼの出現を感知していた。


 「『ドラゴン召喚』」


 床に魔法陣が現れる。

 そこから出てきたのは、屈強な肉体を持つ勇ましいオオトカゲ。


 「場所は……ウチが教える。ウチを乗せて連れてってくれや」

 「ジャア!」


 少女を背に乗せたコモドドラゴンが、窓から脱出する。

 その日、病院から一人の患者が忽然と姿を消した。




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