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第56話 情報収集


 「ってなワケで、パンツァー・ベーゼの情報があったら教えて欲しい」


 ブロワーマンとマコトは、探索者協会の迷宮町支部に来ていた。

 彼らは推定ユニーク、あるいは変異種モンスター被害の関係者として、応接室に案内されていた。


 「困った時の組織頼み。いやぁ、将来有望なブロワーマンさんのお願いと来れば、応えないわけにもいかないっスねぇ」


 高級品であるふかふかのソファに座る2人の前に、1人の女性が座っていた。


 「どうスか? 今晩、ご一緒にお食事でも……」


 長い赤髪、胸元を開いたスーツ姿。誘惑するように脚を組み替え、あえてタイトスカートと黒タイツの間にある絶対領域を見せつけて誘惑しているようだ。

 その顔は、男としての反応を期待するかのように笑みを浮かべている。


 しかし、ブロワーマンは女性でさえ思わず注目してしまうだろう扇情的な姿を見ても、見向きもしなかった。眉一つ動かさず、普段通りの何食わぬ顔をしている。

 ちなみにマコトは胸も脚もガン見している。


 彼女はいつもソラを担当している受付嬢だった。


 「申し訳ねぇが、オレぁソラの復活祝いに、ソラのタコ焼きをたらふく食べるって決めてんだ」

 「おや、振られちゃったっスね、残念ス」

 「マコト君ならいくらでも差し上げるが……」

 「ブロワーマンさん?」

 「サイズは?」

 「馬並み」

 「ブロワーマンさんそれどこ情報です???」

 「ソラ」

 「えっ」

 「学校では有名な話らしいよ」

 「どうスか? この悪魔的魅力のボディを一日好きにしても……」

 「あ、はい結構です」


 マコトはまたぐらをいきり勃たせながらも拒否した。

 彼は性欲旺盛だが、理性で物事を判断できるのだ。


 「まあ不真面目な話はここまでにして。パンツァー・ベーゼに関しては協会でも該当する情報があったっス」

 「流石協会、仕事が早いな。んで、どんな情報なんだ?」

 「これをご覧ください」


 受付嬢が出したのは、ホワイトボード。

 そこには見慣れない人物やダンジョンの記録が張られていた。


 「もう一度お聞きするっスが、パンツァー・ベーゼはめちゃくちゃ反応が早くて、対モンスター用閃光手榴弾と魔剣を持ってたんスよね?」

 「ああ」

 「その情報を元に調べた結果、該当する()()()が見つかったっス」


 受付嬢はレーザー・ポインターでホワイトボードの写真を示す。

 使い慣れていないのか、ポイントがプルプルと震えている。


 「そいつは?」

 「甲島(こじま)(いわお)、32歳、男性。スキルは【反射神経】、【剣術】、【投擲(とうてき)】、【隠蔽(いんぺい)】。うだつの上がらないC級でも下位の探索者、というのが周りからの評価でした。協会からはそこそこの頻度で素材を持ち帰ってくれる堅実な人、という評価っスね」

 「普通の人……に見えますけど」


 無骨な防具を着こみ、あの『シェルブリンガー』を携えた優し気な男性。

 マコトは、彼がどうにもパンツァー・ベーゼと結びつかなかったが、ブロワーマンはそうではなかったようだ。


 「待てよ、もしかしてこの甲島って奴が()()なのか?」

 「可能性は高いっス」

 「え、どいうことですか?」


 受付嬢は微笑み、マコトに詳しい説明をした。


 「この甲島氏は、ちょうど1年ほど前から失踪してるっス……【中級者の洞窟】で」

 「失踪?」

 「はい。しかも、彼は【中級者の洞窟】の深層まで潜っていたみたいっス。彼はダンジョン探索の際、必ず発信機をつけてたっス。それが深層で途切れたんスよ」

 「モンスターにやられたんじゃ……」

 「そう思って捜索隊を派遣するとあら不思議。現場には防具のみが残されてたっス」


 ホワイトボードには、脱ぎ捨てられたような防具の写真。

 それは、写真で甲島が着ていたものと同じ武具だった。


 「【中級者の洞窟】に、防具だけ残して殺すようなモンスターはいない。オークにやられたならもっと傷ついてるはず、リビングアーマーなら防具も持ち帰って同族にする、その他モンスターも同じだ」

 「結局見つからなかったので捜索は打ち切り……けど、甲島氏の失踪地点には()()()()()()()()()()()()()()があったっス」


 ブロワーマンが受付嬢に目を向ける。


 「オレはスキルの応用で誰でも声真似ができる……『俺の名前はパンツァー・ベーゼ』、こんな声だったか」

 「はい、間違いないっス」


 受付嬢が立ち上がった。


 「それは紛れもなく甲島氏の声っス。パンツァー・ベーゼの正体は甲島氏っス」

 「もちろん、死体を乗っ取られてるという可能性もあるが……」

 「操られている以外は、討伐対象指定っス」


 ブロワーマンと受付嬢が頷く。

 それを見たマコトは、疑問を口にした。


 「もしそれが本当なら……もし彼がまだ生きてるなら、人を殺すんですか?」

 「……マコト君、残酷な話だが、オレは親御さんと約束しちまってんだ。『全身全霊、あのクソヤローをブッ飛ばすことに邁進して参ります』ってな」

 「探索者として活動する以上、力におぼれた愚かな探索者と戦闘になることもあるでしょうし、殺すこともあるかもしれないっス。今の人類社会を守るには、避けて通れない道なんスよ」


 ブロワーマンと受付嬢の、深淵の如く深い、吸い込まれそうな瞳がマコトを見る。

 だが、マコトはその瞳に込められたある種の優しさにも似た何かを感じ取っていた。


 「最低限、その魔剣は斬ります。それが無理ならベーゼも斬ります」


 マコトは覚悟を口にした。

 それを聞いた2人は、小さく笑う。


 「それでいいさ。汚いことはオレやこの人みたいな大人に任せとけよ」

 「やなことはやらないに越したことはないスからね。さ、改めて今後の協会の作戦やらを教えるっス。ちょうどお茶も沸いたし飲んでくっスよ」


 彼らは、今後のことを話し合う。

 そこでふと、ブロワーマンが口を開いた。


 「なあマコト君、君はあの女研究者を普通に殺してなかったか?」

 「あっ、そういえば。すみません、あんまりいい思い出でもないので普通に記憶から消してました」

 「あー……ごめんね? 思い出させちゃって」

 「いえ、別に後悔とかはしてないので」

 「うーん、うちのパーティー、ヤバいのばっかだな」


 話はまだまだ続きそうだったので、ブロワーマンは呟きながら茶菓子を食べた。

 あまり美味しくなかったので、ブロワーマンは眉をしかめていた。




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