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第55話 臨時リーダーの判断


 迷宮町のとある病院にて。

 病室のベッドに眠るソラを、ブロワーマン、マコト、ガーランド、グレゴールが囲んでいた。ちなみにドンは衛生上の観点から留守番である。

 マコト以外は非常に背が高く、広いはずの室内が狭いと錯覚してしまうほどだった。


 「先生ェ、ソラの容態は?」


 ブロワーマンは普段のおちゃらけた雰囲気を消し、まじめな表情で医師に聞いた。

 それに対し、医師は沈痛な面持ちで答える。


 「非常に良くはないと言ったところでしょう。四肢の損失、鼓膜の破裂、網膜損傷、出血多量……生きていること自体は不思議ではありませんが、今後の生活を思えば……」

 「ポーションは試したんですか?」


 横からマコトが質問する。沈痛な面持ちで、心の底からソラを心配している様子だ。

 事実、彼はソラの惨状を目の当たりにした時、しばらく呆けて声も出なかった。だが、マコトはソラの半身が消失した場面を目撃していたので、命に別状がないと分かればすぐに立ち直っていた。

 彼の質問に対し、医師は(うなず)きながら答えた。


 「はい、止血などのために。ですが、この怪我を治せるポーションは存在しないでしょう。それこそ伝説とすら呼ばれた『エリクサー』などの薬を使うしかない。しかし、その薬は死すら覆すと言われ、各国が狙っているまさしく財宝。入手は非現実的を通り越し不可能です。S級探索者ですら、大枚をはたいて手に入れようとするでしょうな」

 「そうですか……」


 ポーションでは大怪我は直せても、四肢を生やしたりすることはできない。

 ブロワーマンとマコトは、そのエリクサーをめぐって科学者と死闘を繰り広げたが、あのような物が他にあると思っていない。

 そして、医師はさらに続けた。


 「そもそもです、彼女の治癒能力は()()()()()。止血特化のポーションを使っても血が止まらなかったのは異常だ」

 「おい、マジかよ。それってまさか……」

 「パンツァー・ベーゼの魔剣、『シェルブリンガー』のせいだろう」


 魔剣シェルブリンガー。

 異形の剣に込められたスキルは、【封印】。


 「奴の言葉を信じるなら、そのスキルは【封印】! それでソラの【超再生】を封じてる! しかも……」

 「ああ。【超再生】に紐づいた、普通の治癒能力そのものを阻害している」


 つまり、【超再生】と一緒に、ついでに普通の、人間に本来備わっているはずの治癒力も阻害されているということである。

 これが恐るべき魔剣の力。しかも、使い手によっては変なオマケまでついてくる。


 「なら話は簡単だな? 奴の持つ魔剣を打ち砕く……少なくとも、私かガーランド、同じく魔剣を持つマコトならそれが可能だ。問題は奴の居場所だが……」

 「協会には報告済みだ。魔剣持ちの人型モンスターとなれば、協会も本気を出してくるだろうさ。その間、オレ達は『中級者の洞窟』を探索して奴の痕跡を見つける」


 場はブロワーマンが仕切っていた。

 探索者としてならば、ドンを除いて一番付き合いが長く、かなり頼りになるからだ。

 それに、ソラも臨時のリーダーとしてブロワーマンを指定していた。


 マコトは学生としてなら小学校からの付き合いだが、探索者としてはまだ若手も若手なので、ブロワーマンに任せている。

 グレゴールも長らくソロ活動だったため、場を取り仕切るような経験がない。そもそも、ソラのパーティに正式に入っているわけではない。なんなら不可抗力とはいえ不法入国一歩手前だ。

 ガーランドは普通に論外。


 「じゃあまずは一旦、協会で詳細な作戦会議を――」

 「ソラは!? ソラは大丈夫なんですか!?」

 「おぉ?」


 ブロワーマンが話しかけた時、病室の扉が開け放たれた。

 病室に入ってきたのは、ガタイの良い大きな男性と、ソラを大人にしたような、お(しと)やかそうな女性の二人だった。

 それを見た医師は、二人に近づいて落ち着くように促した。


 「娘さんをご心配する気持ちは痛いほどよく理解できます。ですが、どうか一旦落ち着いてください。他の患者様もいらっしゃいますので……」

 「面目ねぇ……」

 「どうもすみませんでした……」

 「いえ! 娘さんを心配する気持ちがあるのは分かります。ですので以後、気をつけていただければ……」


 医師の言葉で落ち着いた二人は、ブロワーマン達の方を見た。


 「あんたらが娘のお仲間さんかい? って、マコト君もいるじゃないか」

 「諸星さんのお父さんとお母さん、お世話になってます」


 マコトはペコリとお辞儀した。

 それを見た彼らも、二人に挨拶をする。


 「どうも初めまして。今日、成り行きでソラ殿と知り合った、グレゴール・ザムザと申します。以後、お見知り置きを」

 「こ、これはご丁寧に」


 まずはグレゴールが、綺麗なカーテシーで優雅に頭を下げた。

 彼女は家族と共に暮らしていた時代、淑女としての礼儀作法を学んでいたのだ。


 「……ガーランド」

 「……そういえば、娘がオークを仲間にしたと話していました。あなただったんですね」

 「グム」


 ガーランドは短く自己紹介した。

 元々口数が少なく、声帯の影響でうまく話せないので、特にそれ以外に言うことはなかった。


 「それで君がソラの言っていた、最初の仲間の……」

 「初めまして。オレ……いえ、私は(いぬい)風男(かぜおとこ)と申す者です」

 「風男……?」

 「風男……?」

 「あ、ブロワーマンです」

 「あんたがブロワーマンだったのか」


 ソラの両親は、ブロワーマンという名前しか聞かされていなかったので彼の本名を知らなかった。

 金髪で長身、軽薄そうな感じと、話で聞いた特徴とは一致していたものの、名前のみ違ったために混乱したのである。


 「ああ、こっちの自己紹介がまだだった。俺は諸星凱郎(がいろう)。見ての通り、近くの鉱山で『鉱夫』をやってるモンだ」

 「妻の諸星笑壱(えむい)と申します。すみません、お恥ずかしながら夫は敬語に慣れておらず……」


 諸星夫妻も頭を下げた。


 「いえ、何せ()()()()()ですから。そうでなくとも私は全く気にしませんよ」

 「そう言ってくれるとありがてぇ……で、聞きたいんだが、うちの娘をこんなにした野郎は、どこのどいつなんだ?」


 凱郎は粗野な印象を受けたが、決して野卑ではない男だった。

 今は無理やり笑みを浮かべているが、その顔は引きつっており、怒りの大きさを物語っている。こうして冷静になっているのは、彼の理性によるものだろう。


 「申し訳ありません、我々がついていながら、娘さんをこうして危険に(さら)してしまったことをお詫び申し上げます」

 「いや、危険だとかは別にいいんだ。探索者なんて商売、命の危険と隣り合わせだろう? 鉱夫(俺ら)も似たようなもんさ。だけどなぁ……納得できるかは別の問題なんだ。下手人を教えてくれよ」

 「ええ、おっしゃる通りです。一から説明します。あれは我々が『中級者の洞窟』へ行った際に――」


 ブロワーマンはそこであった出来事を事細かに話した。

 基本的には混乱を避けるため一般人には秘匿されるべき、パンツァー・ベーゼのことも。


 「なるほどな……ったく、バカ娘が! こちらこそ申し訳ねぇ。1人で突っ走って、迷惑かけてねえかい?」

 「いえ、私共の方こそ、彼女には頼り切りでお恥ずかしい限りです。ガーランドが入ってくれた以上、マシにはなるかと思われますが」

 「そういってくれると助かる」


 お互いに一呼吸。

 ブロワーマンは凱郎の目を見て言った。


 「……失礼かもしれませんが、我々が娘さんを(おとしい)れた、とはお考えにならないのですか?」

 「ん? ああ、そんなの決まってるだろ」


 凱郎と笑壱がブロワーマンの方を見た。

 彼の純粋さが宿る瞳は、ソラと良く似ていた。

 彼女の金色に光る瞳は、ソラと良く似ていた。


 「ソラが信じた仲間なんだろ? 俺達も信じるぜ。あんあまり自分を卑下しなさんな」

 「ソラは人を見る目は確かです。あの子が信じた自分自身を信じてください」


 信頼。

 夫妻はブロワーマン達を信じていた。


 「全身全霊、あのクソヤローをブッ飛ばすことに邁進して参ります!!!」

 「今回はボクも頑張ります! 絶対そいつを倒しますから!」

 「弱体化していることは否めませぬが、微力を尽くしましょう」

 「次ハ……逃ガサナイ……」


 一行は、パンツァー・ベーゼの討伐を誓った。




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