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第51話 必殺キック


 『henshin! Henshin!! HENSHIN!!! GREGOOOOR=THE=ZAMZAAAA!!!』『DIE VERWANDLUNG!!!』『Yeahhhhhhhh!!! HAHAHAHAHAHA!!!!』

 「我が名はザムザ……名乗らせていただこう、グレゴール・ザムザと!」


 ザムザさんが、いきなり変身した。

 その姿はまるで、誰もが知っているニチアサでやってる特撮ヒーローのような……


 「オレ的にはあれ純正ライダーじゃなくて、怪人の力を直接(そのまんま)使って変身するタイプの擬似ライダーだと思うんだよオレは。もう身体と融合したタイプのバイオ・メカニカル・ヒーローみたいな奴とか昭和と平成初期くらいしか無いだろ? 昔はともかく今の奴らにとってはかなり異質に感じられると思うんだオレは」

 「どうした急に」


 急にブロワーマンが早口になったが、まあ手は止まってないからいいだろう。

 というかウチらの頑張りでほぼ全員死んでる。


 「お前の目の前にいるのは毒虫だ。冷徹無情にスズメバチ以上の激痛で身も心も苛んでやる」


 その言葉を発した時にはもうすでに、ザムザさんは走り出していた。

 地面スレスレを、まるで這うような低空走行。正直、ゴキブリみたいな動きで気持ち悪かった。


 「蝶のように舞い――」

 『ゴガアッ!?』


 かと思えば、まるで蝶のように軽やかに跳躍し、鎧オークの死角へと回り込む。

 その動きに鎧オークは全くついていけておらず、圧倒的な速度に翻弄されていた。


 「蜂のように刺す」

 『ガァァァァ!?』


 縦横無尽に動き、何重にもフェイントをかけてからの攻撃。

 まるで針のように尖った脚が、鎧の隙間を的確に貫く……いや、鎧すらも貫通している。あまりの鋭さに鎧が機能していないのだ。


 「モハメド・アリのスタイルをこれ以上なく表した言葉だ……何故こんなことを言ったか分かるか? 私はボクシングだってできるということだっ」

 『ガボッ!?』

 「いや、どういうことやねん」

 「恐らくだが、ザムザはドイツ人だから日本語に慣れてないんだ」


 風を切り、大気を破裂させるような音を響かせ、ザムザのパンチが鎧オークに突き刺さる。

 防御しようとする腕を()()け、無理やり振り抜かれた大剣すらも弾く。まるで相手になっていない、圧倒的な実力差がそこにあった。

 鎧を砕かれ、血を流し、それでもオークはザムザを睨みつけていた。


 『ゴ……ゴガッ……』

 「耐久力は中々だ、技量も良い。怪力も目を見張るものがある。しかし、スピードが足りなかったな……ゴホッ、ゴホッ……! ……私も限界が近い。これで終幕としよう」


 ザムザさんの背中から異形の鞘翅(さやばね)が展開し、彼女に驚異的な推進力を与える。

 二又の角から走るラインが毒々しく輝く。その禍々しい光が胸から腰のベルトを伝い、鋭く尖った脚へと蓄積する。

 明らかに危険と分かるそれは、必殺技の前触れだ。


 「このバイオ・ニードルで心の臓を刺し貫いてやる」


 ザムザさんが消えた。いや、目にも止まらなぬ速度で跳躍し、空中で鎧オークに狙いを定めたのだ。


 「はぁぁぁぁ!!! フェイタル・キィィィィック!!!」

 『ゴガ――』


 紫電が走った……ように見えた。

 瞬きをしていないのにもかかわらず、全く見えない一撃により、鎧オークが真っ二つに。そして、一瞬遅れて爆発が巻き起った。

 ザムザさんの軌道上には、炎が(わだち)のように燃え上がっている。


 「あの程度の相手に1分もかかってしまった。目的を達成したのが原因の燃え尽き症候群か。私も衰えたな」

 「いや、半分くらいキックの動作やん」


 大体30秒くらいか?

 まあ、A級探索者からすればそれでも遅いのだろうが。


 「本来なら一撃で殺せているさ。それで……君達は一体誰かな?」

 「ウチは諸星蛸羅。C級探索者です」

 「ジャア」

 「このコモドドラゴンはドン、ウチの仲間です」

 「同じくブロワーマンだ!」

 「……ガー……ランド」

 「なるほどイカれたメンバーだな、(うらや)ましい限りだ。改めて自己紹介を。私はグレゴール・ザムザ。グレゴールと呼んでくれ、敬語も不要だ」


 仮面じみた異形の顔のせいで、それが皮肉か本心かは読み取れなかった。

 だが、どこかしみじみとしたような声色な気がする。見た目では分からないが。


 「不躾(ぶしつけ)で悪いのだが、このダンジョンの出口まで案内してくれないか?」

 「ええで……というか、あの目印をたどっていけば出口につくで。まあウチらも帰るから一緒に帰るか?」

 「かたじけない、恩に着る……む?」


 ザムザさん……グレゴールが、暗闇に目を向けた。

 またモンスターかと思ったが、聞こえてきたのは足音だけではなく、拍手も一緒だった。


 「いやぁ、お見事、お見事。まさか奴を真っ二つにするなんて。これもA級探索者の力かな?」

 「お褒めに預かり光栄だ……貴様から、邪悪な気配が垂れ流しになっていなければ、だが」


 男の声だ。

 暗闇から、声の主が姿を現す。


 「おっと、これは手厳しい。ま、邪悪ってのは否定できないけど」

 「何者だ?」


 その男は、グレゴールのように全身をアーマーで包んでいた。

 刺々しく、黒、紫、赤。危険色で彩られ、各所にドクロなど死の気配を彷彿とさせる意匠。

 見ただけで理解できる危険人物。


 「俺はパンツァー・ベーゼ。そこに転がってるデケぇオークを作ったリビングアーマーだよ」

 「敵か」


 その瞬間、ウチらは構えた。

 あの鎧オークを作ったという発現、そして隠す気もない悪意と敵意。


 「お前の目的は?」

 「そうだなぁ……」


 男、パンツァー・ベーゼは顎に手を当てて考えるような素振りを見せる。

 余裕の態度だ。この数を相手に、勝てるか逃げおおせるような自信があるのだろう。

 そして、ベーゼはクスクスと笑いながら言った。


 「人間の……皆殺しってとこかな?」

 「その前にお前を殺したるわッ!!!」


 未知の敵との戦いが幕を開けた……!





 【Lアーマードオーク】

 ・リビングアーマーの変異種を、オークの変異種が着用した超変異種。

 通常のオークやリビングアーマーの倍以上の体格を誇り、戦闘能力も大幅に向上、B級でも上位の実力に格上げされている。



 【オーク】

 ・平均2メートルの体格を誇る人型モンスター。

 基本的に肌は緑、体毛は無し、屈強という分かりやすいパワーファイター。

 夜目がきき、興奮状態になれば眠気や空腹も無視できる。器用に武器を使いこなすことも可能。

 ただし、生物として破格の熱量のため、大量の食糧が必要で、低温環境では著しく動きが鈍くなってしまう。


 【リビングアーマー】

 ・いわゆる、さまよう鎧。

 生物ではなくアンデッド系と物質系の中間に属するモンスターであり、痛みを知らない身体は死ぬまで活動を続ける。

 習熟が必要ではあるが、基本的に人間の持てる武器ならどんな武器でも使いこなすことができる。その反面、純粋な格闘戦はやや鈍重な動きもあいまって苦手。

 中身、つまり骨子となるものが存在しないので、バランスを崩されると不利になる。また、体重もそれ相応で意外と軽く、20キロ以上、50キロ前後ほど。

 部位ごとにバラバラにされたり、激しく破損すると活動を停止する。

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