第２４話 新たな出会い
『ギャオオオオ！！』
「チェストォォォォ！！！」
『グワーッ！』
まずは虎の穴の、ウチの【触手】をちぎった大剣により、目の前にいた合成超生物は一撃で両断される。
恐れを知らない彼らは、その光景を見てもなお、果敢に立ち向かう。あるいは蛮勇か。
「オラァッ！」
『ギャッ！？』
ウチとて負けてはいない。飛びかかって来た奴の顔面を、硬化した腕で引き裂く。
めちゃくちゃ硬い金属になる【シン・硬化】は、ただ力を込めて指で引っ掻くだけでも、場所によっては致命傷を与えることができるのだ。
「そっちか！」
『オギョ……』
手だけではない。【触手】も硬化することができる。
先ほど、『ガーバーバーガー＆ザッツピザダンジョン支店』の件で片方の触手が半分ちぎれてしまったウチだが、硬化の前ではさほど問題ではない。
硬化した【触手】が、金属の槍となって合成超生物達をまとめて貫いた。
「ショクシュ・フェンシング初めて見た」
「レオパルドンが一撃で退場しそう」
「虎の穴こそ！ そんなガタガタの刃物でどうやって斬っとんねん！」
本当に、どうやってそんな芸当ができるのかさっぱり分からない。分かるのは凄い技量を持っているくらいだ。
しかし、そんなこと気にしている場合ではない。殺しながらブロワーマンがサポートしてくれるルートへ前進しているとはいえ、合成超生物達はまだまだいる。
『ギリリリリ！！！』
「クソッ、こいつは硬そうやなぁ！ オラオラオラァ！！！」
硬そうな甲殻を持った奴を、硬化させた拳で何度も殴る。
ウチの【シン・硬化】は全身を硬化することはまだできないが、そもそも硬度自体が凄い。
だからこそ、より硬いウチの方が勝つ。
『ギンッ！？』
「ブッ潰れろや！」
甲殻は急所を包んでいたらしく、そこを打ち砕かれた奴は死んだ。
しかし、どうやらそいつは見た目通り盾の役割を果たす奴だったらしく、隙をついた何匹かがわきを通り抜けて行った。
狙いはドンと虎の穴だろう。理性のない化け物だと思っていたが、誰を狙うかくらいは判別がつくのか？
「こいつらそんな知能あるんか！？」
「恐らく声の主が操っているのかもしれないよ！」
ありえそう。
後方へ駆け抜けて行った合成超生物達は、ドンに喰われるかブロワーマンの空気砲で死んだ
まあ、抜けられたところで問題なさそうやな。
「で、ブロワーマン！ 道こっちで合ってるんか！？」
「ああ。もうすぐ見えて……あれだ！ あっちから風が漏れてる！」
通路のちょっと遠くの方に、扉が見えてきた。
厳重な扉のようで、重要な場所に繋がっていると予想できる。
「待って、扉の前に何かいる！」
「んん？」
その扉の前には、明らかに他の合成超生物とは違う奴がいた。
複数のモンスターが交ざっているのは共通している。だが、そいつは人間の上半身を持っていた。
『イヒヒヒヒ！ し、侵入者はここで殺す！』
なんかさっきの放送と矛盾してる気がする。
生け捕りとか何とか言ってなかったか……まあ、そんなことどうでもいいか。
奴は、殺すべきモンスターだ。
「虎の穴、周りの雑魚は頼む！ ウチはあいつを！」
「分かった！ 何か策があるんだね！」
虎の穴は周りの合成超生物を狙った。ウチの標的は当然、あの人間っぽい奴だ。
「避けられるかッ！」
ウチは硬化した【触手】を伸ばした。当たれば貫通は免れない。
『ヒィッ！？ ま、守れ！！！』
「ギッシャアアアア！？」
奴は周りの合成超生物を盾にして、ウチの【触手】を防いだ……が、言ったはずだ。当たれば貫通は免れないと。
『う……！？ ギャアアアアッ！？』
盾となった合成超生物を貫通し、その後ろにいた人っぽい奴にまで貫通。
奴はもがいてどうにか抜け出そうとするが、【触手】を曲げることによって釣り針のようにし、抜けなくした。
「ふんっ！」
『アギャ！？』
ウチは近くにいた合成超生物を殺し、その甲殻を引き剥がした。
まるでタイルのような、モンスターならではのちょうどいい甲殻だ。そう、投げるのにはちょうどいい。
「オオオオラァァァァッッッ！！！」
『ヒ……ヒィィィィッ！？ うわッ――』
参考にしたのはギリシア彫刻、『円盤投げ』。
まるでフリスビーのように投擲された甲殻は、吸い込まれるように人間が混ざった奴の首へと命中。
胴体と泣き別れした首が恐怖に染まる中、その身体は崩れ落ちた。
「今だ畳みかけろ！」
「はぁっ！」
合成超生物達は、指揮官がやられたことで瞬く間に統率を失う。
指示が無いことにオロオロする奴らなんぞウチらの相手ではなく、１匹また１匹と数を減らしていった。
「ジャアッ！！」
『ギャボッ！？』
ドンが食い殺した奴で最後のようだ。
他に動く者はない。せいぜい、ピクピクと痙攣している肉片くらいで、それすらも念入りに踏み潰している。
合成超生物を全て殺すと、ブロワーマンが話し出した。
「この先から合成超生物の匂いがプンプンするぜ。気をつけろよ、多分あの声の女もいるぜ」
明らかに人間とモンスターを混ぜるような相手だ。まともに話しは通じないか、相容れないことは確かだろう。今まで以上に気を引き締めてかからなければならない。
ブロワーマンは罠がないか扉を確認し、電子ロックに手をかけた。
「ほう、これは厳重なロックだな。でもオレってば機械も得意なんだよね」
一瞬でロックが解除され……なかった。
「何これむっず！ ソラさん頼んます！！！」
「おい……まあええけど。ふんッ！！！」
ウチはロックをブッ壊すと、開いた扉の隙間に手をかけ、一気に開いた。
中には……大量の合成超生物がひしめいている。そいつらが音に反応し振り向く前に、ウチらはすでに駆け出していた。
「うおぉぉぉぉ！！！」
塊になった合成超生物を貫き、引き裂き、叩き潰す。
時折、硬化していない場所に噛みつかれもするが、気合いで耐えている。つまり、こいつらはウチに対してその程度のダメージしか与えられないのだ。
ならば、恐れることなど何もない。ただ真正面からブチ抜く、それだけでいい。
「はっ！」
虎の穴も弱点を的確に切り裂き、一撃のもとに倒している。
大剣の重みと遠心力を最大限に生かした、流れるような動きだった。
横に何体と並ぶ合成超生物を、一気に両断していくのには、一体どれほどの技量が必要になるのか。到底、Ｄ級探索者の動きとは思えなかった。
「オラッ！ 空気砲！」
この場で唯一の遠距離攻撃持ちのブロワーマンは、空気砲で口内を狙うことにより、内部から合成超生物を破裂させていた。
どんな風圧があればそなことになるのか、考えたくもなかった。
「ドンッ！」
「ジャアッ！！！」
ウチが全力ダッシュで突貫する。
その討ち漏らしをドンが残さず狩り取り、胃袋に収めた。
「ヌゥゥゥゥアッッッ！！！」
勢いのあまり、ウチはガラスを叩き割る。
その頃にはちょうど、合成超生物のも全滅しており、３人ともこちらにやってきていた。
だが、ガラスの向こうには、合成超生物よりもなお異形の存在がたたずんでいた。
「！？」
黒いコート、黒いボルサリーノ、黒いズボン、黒い靴、黒い手袋……全てが黒で統一された怪人物。
だがそれよりも驚くべきところは、その顔が灰色の炎のように揺らめいていることだろう。赤い双眼がウチらを射抜く。
ウチは思わず声を上げてしまった。
「な、何やコイツ。モヤモヤが喋っとる」
「この人どっかで見たなぁ。なあアンタ探索者か？」
「ちょっと失礼だよ！ マネキン先生みたいな人かもしれないよ！」
「む、むぅ……」
その人物は少し、困惑していた。
