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第23話 今からここの資料全部持って行きます


 「はぁっ!」


 虎の穴の裂帛と共に振り下ろされた触手が、異形の合成獣を切断する。

 ウチが倒した奴がいた部屋の更に奥には、奴らがそこそこの数ひしめいていたのだ。それを迎え撃ったのは、速攻系剣士である虎の穴だった。

 その斬撃は的確にキメラ達の弱点(首や心臓っぽいところ)を両断し、再び(むくろ)へと戻した。


 「まるでSAMURAIみたいだぁ」

 「何かニュアンス違いません?」


 どんなに身体能力が上がっても、技はちゃんと練習しないと身につかない。

 虎の穴のそれは、磨き抜かれた技と鍛え抜かれた筋力による、確かな積み重ねの感じられるものだった。

 ただ、惜しむらくは武器の規格が合っていないこと。あの硬化したままの触手は、虎の穴には大きすぎる。だから討ち漏らしあるのは当然だ。


 『ギギョビャアアアア!!!』

 「お、抜けてきたな……ちょうどいい、ここらで【罵倒】を試してみよう」

 

 ブロワーマンが身構える。

 そして大きく息を吸い込み、声を張り上げた。


 「おーい! アニマル・ボリス!」

 『グギャアアアア!!!』

 「マジで釣れるのか……というかアニマルでもボリスでもねーじゃねーか、よッ!!!」


 ブロワーマンの挑発に乗った個体は、至近距離からの空気砲を受けて死んだ。

 というか、罵倒というよりは挑発だな……


 「ウチも働くか! そらっ! ふんっ!!!」

 『ギャギ!?』


 向かってきた敵を【触手】で絡めとり、もう1匹を素手で受け止める。

 1匹を【触手】で締め上げ、もう1匹の口に手をかけ、そのまま引き裂いた。

 沈黙したそいつらを、さらに前方から迫りくる連中に投げつけると、虎の穴が隙をついて切り殺した。


 「……終わったか?」

 「生命反応ナシ! 死んだふりでもねぇ、終わったぜ」


 やがて戦いは終わり、床が死屍累々の惨状になっていた。

 ただ、机のはほとんど血が飛んだり破壊されたりしていない。彼らの技量がうかがえる戦いだった。

 ウチは、地味に何体か倒していたドンに近づき、食われまくったその死体を見た。


 「しっかし、こいつら何なんや?」

 「その説明をする前に今の銀河の状況を理解する必要がある。少し長くなるぞ」

 「長すぎや、もっとかいつまんで」

 「まあ分からねぇから、この部屋の資料全部持って行こうぜって話さ」

 「なんか強盗みたいだね」


 虎の穴がちょっと苦笑いする。

 確かに、普通のダンジョンならともかく、こうも人工物そのまんまな場所では強盗だの空き巣だのと思ってしまうのは分かる。


 「よし、やるか。虎の穴君は周囲の警戒! オレらで資料漁ってくぜ!」

 「おう!」

 「了解!」

 「ジャア」




 ◇




 「パソコンは……おっ、起動した。どないする?パソコンごと持ってくか?」

 「そうしよう。USBとかねぇしな。後、データ消える仕組みとかあるかもしれねぇ。それの確認はオレがやるから、他を見てってくれ」

 「了解」

 「虎の穴くん、こっち持ってくれ――」


 パソコン、というかコンピューターは全部ブロワーマンと虎の穴がやってくれるらしいので、ウチとドンは紙媒体をあたってみることにした。


 「ドンは向こうの方見てきてや」

 「ジャラー・ジャラー」


 ドンはウチとは別の机がある場所を探索しに行った。

 さて、どこから見ようか。取りあえず引き出しを漁ってみるとしよう。


 「資料……」


 流し読みしただけでも、よく分からない謎の資料が出てきた。

 研究レポートのようだが、専門用語が多すぎて知識の無い者が読むことには適していない。


 「他んとこ行こ」


 他の机の引き出しも開けてみるが、中には同じような資料だったり、そもそも入ってなかったりする。

 ドンが調べた場所も同じで、鍵のかかったところを強引に壊しても変わりはなかった。


 「もう無さそうやなぁ」

 「ジャアア」


 もう探しても無駄だと思い、2人の元へ行こうとした時だった。


 「一旦戻るか……おっおお!?」


 開けっ放しにしていた引き出しに、ガンッと(すね)をぶつけてしまった。

 ぶつけた場所が硬化したおかげで痛みはなかったが、衝撃で驚いてしまい変な声が出た。


 「あービックした。閉めとかへんから……おん?」


 引き出しを閉めようとした時、ウチはあることに気づいた。その引き出しの底が、ちょっとだけズレていたのだ。

 まさかと思いそれを持ってみると、底が綺麗に外れた。


 「二重底! こないな古典的な隠し方って……」


 デジタルまみれの研究所では、逆に効果的な隠し方かもしれない。

 その他にも二重底があるかもしれないと考え、全ての引き出しを確認してみる。すると、全ての机に二重底が存在した。

 どうなっとんねんこの机。何個かの引き出しの内、1つは絶対に二重底やんけ。


 「いっぱい見つけたで資料」

 「ほう、資料か。オレにも見せてくれ……これは!?」


 ブロワーマンの表情が驚愕に染まった。


 「な、何が書いてあるんや?」

 「この研究所と『ガーバーバーガー』と『ザッツピザ』との癒着だ!」

 「いや……ええ?」


 ちょっと反応に困る。

 いや、ウチも食ったことのある世界的チェーン店が、こんな研究所と癒着してるのは驚愕に値することだ。

 けど、ちょっとこのタイミングではインパクトが薄くないか?


 「こりゃすげぇぜ……ちなみにこの研究所は『超生物研究所』で、あのキメラ共は『合成超生物』らいい」

 「そっちを先に教えんかい!」

 「わりぃわりぃ、ちっとおふざけが過ぎたな」


 カラカラと笑うブロワーマン。

 彼の知識にはいつも助けられているが、少しお調子者なのが玉に(きず)か。

 しかし、生きるか死ぬかのダンジョンでは、これくらいがちょうどいいのかもしれない。


 「ふーむ、何々……ほぉ、合成超生物は人間の代わりにダンジョンを探索する目的で研究されてたのか。素材はモンスター、狙いは探索者の死亡率を減らすこと」

 「なるほど。でも、正直それってロボットで良くないですか? 最近ニュースでやってる」


 確かに崇高な目的だ。

 だが、わざわざモンスターを()()ぎしてまでこんな連中を作り出す意味はあったのだろうか。


 「モンスターはダンジョンから無限に()き出る。つまり、そのモンスターを捕獲して改造しちまえば、無限に合成超生物が作れるわけだ」

 「それ効率悪ないか? 改造すんのもコスト馬鹿にならんやろ」

 「どうやら、ここの所長が改造の超低コスト化に成功したらしい。金属製品を使うよりもはるかに安上がりだ」

 「そりゃあ……まだまだ連中がうじゃうじゃおるってことやん」


 ウチは次の部屋につながる扉を見た。

 1匹1匹は弱いかもしれないが、数は強さだ。


 「狭い通路に誘い込めば何とかなるかもな。ま、次の部屋に行こうぜ」

 「できる限り慎重にね」

 「……せやな!」


 ウチらは、扉の先へと入り込んだ。




 ◇




 その後も、襲い来る合成超生物を撃破しつつ、その場にあった機器や資料などを根こそぎ奪い去ること3時間くらい。


 「これで全部か? ドン、そっちもう無い?」

 「ジャァ」

 「じゃあええか」


 大体の部屋や研究室を探索し、そこにあった物品はほとんどドンのマジックバッグ? に入れた。

 もう何も残っていないだろう。そう思っていると――


 WARNING!!! WARNING!!!


 「……!? 警報!?」

 「な、なんだぁっ」


 けたたましい警報が鳴り響く。

 ふと疑問に思ったのだが、こんなダンジョン化した研究所に誰が何をしてるというのか。まさかモンスターが設備を利用しているのかと思ったが、次の瞬間にはその疑問が解消された。


 『違和感があると思ったら、まさかドブネズミが紛れ込んでいるとは。汚らしいゴミ共が……私の研究を奪いに来たのかね?』

 「!」


 放送で、女の声が聞こえてきた。

 まさに機械越しでも、その精神性が伝わってくる。


 『ごきげんよう、底辺労働者の社会の屑さん達。ダンジョンに飽き足らず、こんな研究所にまで盗みを働くなんてね。やっぱり探索者って社会のゴミでしかないらしい。今から君達を捕まえて実験の材料にするよ。せいぜい大人しく捕まれば、死なずに済むかもしれないね』


 それっきり、放送は途切れた。

 相当なヤバい奴のようだ。会話する気もなさそうだったし、探索者を徹底的に下に見ている。


 「なんだぁ? 今の放送」

 「恐らく女の子の日だと思うぜ。だからピリピリしてるんだ」

 「セクハラはまずいですよ!」

 「そういやウチ……生理きてないねん」

 「えっ」

 「マジ?」

 「嘘に決まっとるやろ」


 アホな会話をしていると、部屋の外から唸り声が聞こえてきた。

 どうやら、放送していた女が合成超生物を解き放ったらしい。しかし、活かして捕まえるような口ぶりだったのに、理性の欠片もなさそうな奴らに任せて良かったのか?


 だが奴らは待ってはくれないだろう。

 そうなれば、ウチらがやることは1つだ。


 「分かっとるな? 正面突破や!」

 「やあってやるぜ!」


 ウチらは、合成超生物のひしめくだろう扉を見つめる。


 「ウチが盾になる! 虎の穴は思う存分暴れろ!」

 「オッケー!」


 扉を開けた先、多数の合成超生物に、まずはウチと虎の穴が切り込んだ。




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