第一話 政府に拉致られる
現代文の授業中おばあちゃん先生の優しい声の音読に睡魔を誘われクラスの半分以上が寝ていた。翔は窓の外に広がる田園とその奥にある海と水平線を見ながら時間がたつのを待っていた。
授業も後半に差し掛かり寝ていた人たちもちらほら起きだしたそんな時だった。廊下の奥のほうから大きな話し声とともに何人ものスリッパの擦れる音が聞こえた。その音たちは翔たちの教室の前でとまった。おそらく校長であろう声で
「こちらです。」
と言い放ち教室の前の扉が開く。それに伴い偉い感じの3人とその人たちを守るようにサングラスと黒いスーツをまとったムキムキの強面のボディーガードのお兄さん6人と担任が入ってきた。クラスは何事だとざわざわしている。
翔が(どこかで見たことあるなー。誰だっけ)と考えているとそれ呼応するように真ん中に立っている一番偉そうな人が話し始める。
「はじめして。日ノ出高校の皆さん。私は副総理大臣で総務大臣の高田早香です。そして向かって右が文部科学大臣の田中真由美、左が防衛大臣の山野太郎です。」
しかし翔はまるで自分とは関係がないこととして視線をすぐに窓の外に向ける。だから次に放たれる一言に反応することができなかった。
「さてさっそく本題だが、このクラスに月見里翔くんがいると聞いたのだが手を挙げてもらってもいいかな?」
その言葉からクラス中の視線が翔に集まる。その視線に気が付いた翔はやっと自分が指名されたことを理解する。そして前を向くとさっきまで話していた女性と目が合う。
「どうやら君のようだね。ちょっと外まで来てくれるかな?」
と言われ、促されるまま翔は廊下に出る。出て早々
「改めて私は早香、君は月見里翔くんで間違いないね?」
と問われる。翔は訳が分からないまま反射で
「はい。」
と答える。早香は続けて
「ここでは話しにくいが簡単に言うと手伝ってもらいことがある。だからついてきてくれるかな?」
と言われ一気に不信感が募る。翔は日本に対して全幅の信頼はおいていない。だからいくつか質問することにした。
「いくつか聞きたいことがあるのですが、質問よろしいですか?」
と聞いてみる。相手は翔の口から予想外の言葉が出てきたのか一瞬固まる。ボディーガードの人たちも警戒したような不機嫌のような表情を浮かべる。少しの沈黙ののち早香が
「イエスかノーと言われると思っていたから少し面食らったよ。質問ね。いくらでもどうぞ。」
と微笑みながら言ってきた。質問の許可が出たので翔は遠慮せず質問をすることにした。
「なぜ僕でなければいけないのですか?」
「それは翔クンがついてきてくれば話すよ。」
「もし行くとしたらいつ行けばいいのですか?」
「できれば今すぐがいいねぇ。」
「学校に早退ってつけたくないんですけど。」
「何のために文科の者を連れてきたと思ってるの?」
「もし行かないって言ったらどうします?」
「もちろん構わないよ。でも、、、、、、ねぇ」
ほかにもいくつもの質問攻めをしたが微笑みながら、しかし少し圧をかけながら即座に答えてくる。ここまで質問して気が付いた。
(この人たちはお願いではなく命令するためにこれだけの人員と労力をかけてここまで来たんだ。)
と。翔はあきらめて隣にいた担任に
「早退します。」
と力のない声で言った。
担任と校長は何が起きたかわからず惚けており、翔の声にもただうなずくことしかできなかった。
翔が荷物を取りに行くために背を向けると後ろから「公欠にしてあげてねぇ」という弾んだ声が聞こえたが気にしないことにした。