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ブレーメン  作者: もちっぱち
41/44

夜が明けた

丸い丸い月が浮かぶ真っ暗な夜を過ごして、

あっという間に夜が明けた。


アシェルとボスはそれぞれの部屋で、ベッドに横になっていたが、一睡もできなかった。

ベッドから窓を除いては月と星を眺めていた。


明日は、大丈夫なんだろうか。

滅多滅多にやられて、終わるんじゃないと

恐怖と不安に包まれていた。


案外朝になってみると、

すっかり恐怖心は消えていた。


一本のタバコを咥えて、空に煙を漂わす。


明け方の午前5時。


ボスは外にある縁石に腰をおろして、

一服していた。


アシェルは、その様子を部屋の中から

見ていた。

外に出て、ボスの横に静かに座った。


「寝てないんすか?」


「ああ、何だか寝付けなくてな。

 お前もか。」


「そうっすね。」


「クレア、大丈夫か?

 気持ち、落ち着いたわけ?」


「あーー、関係性は、

 ちょっと微妙ですかね。

 種族が違うって言ったら、

 落ち込んでました。」


「ルークから聞いてたけど、

 そういうの気にせんで、

 演奏してる時くらいは優しくしろよ。」


「わ、わかってますよ。

 俺、一応リーダーなんすよね。

 しっかりやりますわ。」


「公私混同しちゃうとな、

 面倒になるもんな。」


「そーなんすけどね。

 別に嫌いなわけじゃないんですけど…。」


「人間関係…いや、動物関係は大事だから。

 てか、あいつは妖精だから、

 や、ややこしいな。」


「でしょう!?」


 隣同士座って、話が盛り上がってきた。


「今日、あいつと向き合うんだ。

 いつか、戦うであろう相手って

 思ってたから、まさかこんな短時間で

 勝負するとは思ってなかったから。

 実績もまだまだだし、

 動画配信の再生回数もまだまだで

 不安ではあるけど、ジェマンドの事務所と

 直接対決して結果次第では、

 俺、この会社、

 諦めようと思う。

 スプーン作りもやめるわ。」


「え?! 結果出せなかったら、

 全部やめるんですか?」


 アシェルは目を丸くさせた。


「ああ。

 それくらいの意気込みってことだよ。

 そうだなぁ。

 プラスなこと言えば、あいつらに

 勝ったら、ずっと会社をやり続ける!

 それが俺の今の目標だ。」


「……マジっすか。

 まぁ、それくらい目標があった方が

 やる気出ますね。

 やってやりましょう。

 練習の成果を。

 みんなやる気ありますし、

 まとまりも出てきたので

 できそうな気がしますよ!」


 ガッツポーズを胸元でつくった。


「そうだな。

 期待してるぞ、アシェル。」


 アシェルの目はキラキラしていた。

 無職の時は、すさんで、

 死んだ魚の目をしていたのに、

 今はまっすぐ目標に向いている。

 お金はたくさんまだ稼いでいなくても

 やりたいことを必死にやっている自分に

 自己肯定感が上がっていた。


 聴いてるみんなを幸せにしたい。

 喜ばせたい。

 その一心だった。


 リップロールをして、部屋に戻っていく。


 ボスも何だか、心落ち着いてきて

 やる気がメキメキ出てきていた。



***



 青く澄んだ青空にトンビが

 高く飛んでいた。鳴き声が響き渡る。

 

 だだっ広い公園に鉄筋のステージが

 組み立てられていた。


 次々と楽器が運び込まれていく。


 観客はまだ入っていない。


 スタッフがまばらに準備していた。


 ブレーメンのメンバーは

 初めてロックフェスに参加する。


 到着してすぐに会場の広さに驚いていた。


「こんなに大きな会場で行うんですね。」


 リアムが頭の耳をくいっと動かして言う。


「そうだな。

 観客も結構な人数入れるらしいぞ。

 確か20000人くらいかな。」


 ボスが説明した。


「そ、そんなに?」


「バンドメンバーは

 俺ら以外も出てるって聞くけど、

 お客さんに本当に響くか心配だ。

 シーンってなって、

 盛り上がらなかったらどうしよう。」


「あらぬ妄想をするなよ。

 楽しんでやったら、響くもんあるんだよ。

 ここに。」

 

 左胸に拳をたたくアシェル。

 オリヴァは少し気が楽になった。

 楽しんでやるという言葉にほっとした。


「アシェル、私、緊張しすぎて

 できないかも。

 ほら、手足震えてるし、

 唇もいつもと違う。

 フルート吹けないかも。」


 不安が押し寄せる。


「クレア、心配しすぎだよ。」


「だって、アシェルには種族が違うから

 無理って振られるし、何を糧に

 頑張ればいいのか

 わからなくなってくるよ。

 一緒にいてもつまらないんでしょう?」


 クレアの目からうるうると涙がこぼれる。


「ちょ、待ってって。

 今、外だしさ。

 これは仕事でしょう。

 プライベートじゃないから、

 一旦忘れよう。

 だから、言っただろう?

 嫌いなわけじゃないって。

 つまらないとかそういうの

 全然ないから。」


 両手でまぁまぁと気持ちを

 落ち着かせようとした。


「え、それは望みを持っていいってこと?」


「えー、望み? 

 うん、持ってもいいじゃないの?」


 アシェルは訳がわからなくなって、

 適当に返事をする。

 その言葉に元気になったのか、

 その場をパタパタと上に舞い

 上がったクレア。すごく喜んでいる。


(あれ、俺、何か、間違ったこと

 言ってるのか?)


 自分の言ってることに理解できていない。


「うん、それじゃぁ、がんばるね。

 ありがとう、アシェル!」


 クレアはアシェルの

 ふさふさの頬に口付けた。

 

 よくわからない感情が生まれた。

 病気じゃないのに、すごい心臓が

 早くなる。なんだろう、これ。


 会場にオルゴールの音楽が流れ始めた。


 観客がこれから会場入りするようだった。

 

 ブレーメンのメンバーは、楽屋の方へ

 移動して、出演する順番を 

 待ち構えていた。


 ジョーカーと言われるジェマンドの

 バンドメンバーも到着したようで、

 お互いピリピリムードになる。


 背格好もメンバーの雰囲気も

 似たり寄ったりしていて、

 観客からはメンバー名以外は

 区別がつかなんじゃないかの勢いだった。


 花火が打ち上がる。


 これから演奏が始まろうとしていた。

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