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ブレーメン  作者: もちっぱち


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29/44

トラブル発生

とあるレッスンスタジオで事件は起きた。


キーボード担当のクレアと

ベース担当のリアムのバトルだ。


元々、ピアノは得意とされるリアムは本当はキーボードを担当したかったが、クレアが担当を希望するのがキーボードしかなかったため、リアムは諦めて、ベースに変更したが、全然、ピアノすら、触ったことのないクレアにリアムが講師の代わりに教えるということに自然の流れでなってしまった。


リアムの縦に伸びた長い耳が疲れにより徐々に垂れていくのが分かる。


「だから、さっきも説明したように

 ここに左手、右手でホームポジション。

 そこから、楽譜通りに

 引けば良いんだけど…。

 クレア、どう考えても、

 キーボードは無理なんじゃないの?」


「なんで!?

 だって、私、ピアノは

 習ったことないけど

 エレクトーンはあるの。

 でも、右手を片手で弾くことしか

 できなかったから…

 両手弾きはちょっと…。」


「うん、それは習ったことに

 なってないと思うよ。

 そうだなー、どっちかというと

 ベースの方がやりやすいんじゃないかな。

 ピアノやエレクトーンは指を

 全部の使って音階作るけど、

 ベースは簡単なものなら初心者でも

 できると思うよ。

 どうする?」


「やだ。やだやだやだやだ。

 私はキーボードがいい。

 今は

 できないけど…

 やりたいんもん。」


クレアはパタパタと上に飛びながら

駄々をこねた。


リアムは、大きくため息をついた。

話は平行線で、どうにもならない。


バンドメンバーの初演奏はあと1か月と

いうのに…。



バタンと大きな音でドアが開いた。



「おはようございます。

 お2人ともレッスンの調子は

 いかがですか?」


ひよこのルークがやってきた。


「ルークさん…おはようございます。

 調子も何も…。

 今、揉めています。」



リアムは眉毛を下げて困った顔で答えた。



「え、揉めているの?」



「だって、やだって言ってんだもん。」


プンッとそっぽ向いて腕を組むクレア。

両手を上に上げて、お手上げのような

素ぶりを見せるリアム。


ちょうどそこへ、隣のスタジオにいた

アシェルがルークを追いかけてきた。


「あのさ、さっきのことなんだけど…。」



「アシェルさん、どうかしました?」



「あ、アシェルだー。」


クレアはアシェルが来たことが分かるとすぐに、腕をべったりしがみついた。

アシェルは嫌だなと思いながらも

ルークと話していた。



話している内容は

音楽配信アプリの件だった。



「IDとパスワードって俺決めるより、ルークに決めてもらった方が安全じゃないかと

思ってさ。」


「確かにそうですね。 

忘れられたら困るので、私が決めますよ。

あとでメッセージで送信するので待っててください。」


「おう。わかった。」



「ねえねえ、アシェル〜。

 私はどれをしたら

 良いと思う?

 キーボード…私はやりたいって思ったけど、

 全然できないから

 リアムにはベースが

 いいんじゃないって。」


「ちょっと、悪いんだけど、腕掴むのやめて。

 そうだなあ、人から言われてやるのも

 悪くないんだけど、

 1番は何がやりたいかじゃないの? 

 イヤイヤやったら、聴いてる人にも

 届かないよ。」


「う、うん。

 そうだよね。

 でも、演奏できないし…。

 私、キーボード、やめた方がいいのかな。」


「違うなって思ったのなら

 違うんじゃないの?

 クレア、やりたいことと、できることとって

 必ずしも一緒ではない時もあるよ。

 もちろん好きこそ物の上手なれとも

 言うけれど、クレアの場合はできることから

 伸ばした方がいいじゃねえの?」


「…うん。

 そうだね。

 できること…。」



クレアはリアムとルークの言うことは聞き入れないのに、アシェルのことは納得できるのかうんうん頷いている。


とりあえず、揉めごとも丸くおさまってきた。



「ルークさん、私、昔からフルートを

 習っていたんだけど

 それではダメかな。」



「フルートですか。

 異色のバンドメンバーになると思いますが

 まー何とかなるかも?」


「やった。んじゃ、私、フルート奏者に

 なりまーす!」


「いいんじゃないの?  

 クレアにはやりたいことやらせようよ。」


アシェルはそういうと、

リアムの左肩を軽くたたいた。


「お疲れさん。

 これで心置きなく、リアムは

 キーボードに専念できるよね。」



「あ、ああ。そうだな、ありがとう。」



「おう。」


アシェルは手をパタパタ振って立ち去った。


リーダーらしい行動ができたかなとご満悦の

様子だった。


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