第一幕
容姿端麗で常に学年一位。それが彼女、真鍋桔梗だ。あまりにも優秀すぎた故に僕ら凡人にとって、彼女は縁遠い存在である。
おまけに『変人』というレッタル付きだ。実際、男子の間で話題に上がった際に大抵、『なあ、三年の真鍋先輩って美人じゃね?』から始まり、『けど、あの真鍋先輩だぜ?』と二秒で終わる話題。『触らぬ神に祟りなし』という諺があるように、人は彼女に近寄ろうとしない。だから、彼女は常に一人だと聞く。
そんなある日、彼女が所属している文芸部は廃部寸前まで追い込まれている、という情報を耳にした。この絶好のチャンスを逃してはいけない。逸る気持ちを抑えつつ、僕は文芸部に足を運んだ。
記入済みの入部届を握り締めて、いざドアにノックしようとしたその時、それが開いた。
「ああ、やっぱり。雄の気配がすると思ったら、本当にいるとは……。はあ……」
憧れの彼女に開口一番でそんなことを言われた上にため息まで吐かれた。幻滅する要素なんていくらでもあるだろう。
「どうせ君もヤツらと同じでしょ? 廃部寸前の噂を聞いて私と接近するチャンスだと見込んで駆け付けたヤツらと。はいはい、ご苦労様でした」
一発で下心が見抜いて、おざなりの手振りで追い払われた。けど、僕の足は地に貼りついたまま。だって、こんな大女優にでも匹敵するような容姿の前に、何ができると言うんだ。
「あ、ついでに言っとくけど。ウチは男子お断わりだから。それ込みで言いふらしてもらえると助かるわ。それじゃ」
一方的に別れを告げられドアを閉めようとする。これでは告白するどころか近付くことすらできない。このままじゃ、と咄嗟にドアの隙間に足を滑らせた。
「……一体どういうつもり?」
ハッと顔を上げる。しかめっ面に直面して思わず固唾を呑んだ。てか、マズい。何か言い訳をしないと怪しまれる……!
「ぼ、僕は――ゲイなんで絶対に真鍋先輩に恋をしません!」