大杉健太
教室では邪魔が入ったが、ここなら安心。
私は、人の皮を被った悪魔こと、大杉健太と非常口前に居た。特に人気もなく、さっきの様に空気を読まない馬鹿は存在しない。完全に大杉と二人きり。
様々な噂が私の中に広がり、恐怖が脳裏に過る。体の震えが止まらず、表情を読み取られない様に背中を向けたまま言葉を発する。
「あ、あんたに、話がある」
声が震える。それに大杉が気付いたのか分からないが、返答が返ってきた。
「あの……話って?」
あれ? 意外に普通。と、言うより何処か弱々しい様に感じる。悪魔って呼ばれる位だから、もっと怖い返答が返ってくると思っていた。「なんだよこのアマ」とか、「ぶっ殺すぞ」とか、暴言を吐かれるものだと思っていた。
イメージとの違いに呆気に取られていると、不思議そうな表情を彼が向ける。
「あのさ、話が無いならそろそろ……」
「あっ、待って。話って言うのは和葉の事なの」
その言葉に大杉が沈黙する。不意に振り返る。すると、動きを止めた大杉の姿があった。背中を向けたままだが、圧倒的な威圧感。これが、悪魔と呼ばれる男の放つオーラ。
そのオーラに呑まれない様、自らを落ち着かせる為、息を静かに吐く。そして、意を決し言葉を告げる。
「今朝の事だけど、和葉が井上と体育館裏で何か話してたみたいなの。それで――」
「な、何で俺にそんな話を?」
僅かに声が震えている様に感じたが、悪魔と呼ばれる男がそんなわけあるはずが無いと、聞き流し言葉を続けた。
「あんた、和葉と仲良いみたいだから」
「そ、そう。でも、俺にそんな話してもしょうがないって」
彼がそう言い歩き出す。えっ、それだけ? ちょっと冷たすぎるんじゃ――。そう思い更にその背中に私は言葉を続ける。
「でも、彼女泣いてたんだよ。それでも――」
私の言葉を無視して、彼は去っていった。まるで自分には関係ないと、私に告げる様にして。一人残された私は、誰も居なくなった廊下に叫ぶ。
「この人の皮を被った悪魔め!」
と。