親友
校門を潜った私は、親友の山本 若菜の姿を発見した。誰かと話している様だが、人波でその人物の姿は見えない。そうこうしている内に、二人は体育館裏の方へと消えていった。
一体誰だろう。不意に考え込む。
男である事は確かだ。二人が移動する時に学生服を着ているのが、チラッと見えた。
和葉が男と会話。中々珍しい事だ。
相手は大杉だろうか?
けど、それなら珍しくも無いが、別に体育館裏へ行く必要性は無い。
なら、誰だ。
考えてみるが答えは出ない。大杉以外に、親しい男なんていただろうか?
そもそも、和葉があの大杉と親しい事も不思議なくらいなのに……。
これは、私から見た価値観だが、彼、大杉 健太は一言で言えば、掴み所の無い少し変わった奴。と、言うより存在が無いみたいに思える。
教室に居ても周りの事に無関心だし、昼休みはすぐ居なくなる。一部の噂では人の皮を被った悪魔だと、言われた事もあった。
そういわれる様になったのは、校舎裏にたむろって居た不良数名を、そりゃ酷い位にボコボコにし、病院送りにしたと言う事件が起きたからだ。
その時、一人の不良が『悪魔が――』何て言う不可解な言葉を残した事と、その時間帯に校舎裏付近で大杉の姿を見たと言う証言があった事から、大杉が悪魔と言う事になったが、結局証拠が出なかった為、それも単なる噂と言う事になった。それが、真実がどうなのかは未だに不明だ。
そんな危険人物が、和葉と親しい事は私の中では学園七不思議の一つになっている。
だが、今はそんな事はどうだっていい。結局、和葉は誰と一緒なんだろうか。
それだけが気になって仕方がなく、いけない事だと思いつつも彼女の後を追う様に体育館裏へと急いだ。
私が体育館裏へ着くと丁度、和葉の声が聞こえた。
「最低ね。男としても、人としても」
やけに怒気が篭っており、すぐに何かあったのだと気付いた。けど、私は状況を把握する為に、壁に隠れながら様子を窺った。
和葉の姿が男と重なる。何が行われているか分からないが、危険な状況な事だけは察知し、すぐに飛び出す。
「和葉!」
声に男が反応を示す。と、同時に和葉が男の手を振りきり走り出した。私の横を駆け抜けるその目に、僅かに涙が滲んでいる様に見えた。彼女の姿を目で追い、すぐに男の方を睨んだ。
振り返った男は、私の顔を見るなり不快な表情を見せた。
「邪魔が入ったか……」
「井上……。あんた」
そこに居たのは井上優樹だった。成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗。大杉とはまるっきし正反対の非の打ち所の無い彼が、どうして和葉を――。
頭の中は錯乱する。
「千葉、何してくれてんだよお前」
低音の声。いつもと違う雰囲気に、私も目尻を吊り上げ反論した。
「あんたこそ、何してんの。私の親友に何かしたら許さないわよ」
あくまで強気にそう言うと、井上は平然した表情で笑い、その場を去っていった。彼が去った後、私は暫くその場を動く事が出来なかった。