告白しちゃった
告白しちゃった。遂に、井上君に。
なが~い長い沈黙。彼の返答はまだ無い。
緊張が高まり、胸が張り裂けそう。脈動する心音が体内を巡り、体が震える。
彼の顔を見る事が出来ず、俯いたまま目を瞑りひたすら願う。こんな時、人は神に願ってしまう。神様なんて信じてないけど。
無音の闇の中で返答待ち。僅か数秒が、何十分にも長く感じる。合格発表の時より緊張する。
木の葉が舞い静けさが破られた。迷惑な話だ。この場面でなんで木の葉が、空気読めって。
長い長い数秒が過ぎ、ようやく井上君が口を開いた。
「俺なんかでいいのかな?」
遂に返ってきた返答に、私は耳を疑う。
これは夢?
誰かホッペを抓ってくれ。
『俺なんかでいいのかな?』だって。
エッ、それってどういう事?
てか、それってオーケーって事じゃないの?
はやる気持ちを抑えながら、私は顔を上げる。すると、あの爽やかな笑顔が私の胸を打ち抜く。
アウッ。やられたぜ。と、よろめくと同時に彼が右手を掴み、体を支えた。
「大丈夫?」
「は、はい!」
思わず声が裏返り、緊張しているのがモロバレ。それでも、何も無かった様に微笑むと、彼も微笑んでくれた。
落ち着け、落ち着け。そんな言葉を自分に言い聞かせ、小さく深呼吸する。もう何が何だかサッパリ分からず、私の脳内は拍手喝采と、某野球球団の優勝の時の様な騒ぎとなっていた。
喜びたい気持ちを必死に抑え込む。まだちゃんとした返事を貰っていないからだ。これで、ぬか喜びだったら、私立ち直れないよ。
彼の目を真っ直ぐに見据えると、彼がもう一度微笑んだ。あの笑顔は反則だよ。私はどうすりゃいいんだ。完全に魅了されちゃってます。
自我を保つのに精一杯の私に、彼は優しい口調で言葉を掛ける。
「嬉しいよ。キミみたいな美しい女性に好意を持ってもらえるなんて」
「そ、そんな」
美しいだなんて、と思わず口にしてしまいそうになったが、それを呑み込み、目を逸らした。面と向かってそんな事を言われると、どうも照れてしまう。もう絶対目を合わせらんないよ。
困り果てていると、井上君の声が耳に届く。
「それで、付き合うに当って、キミにお願いがあるんだ」
「お願い?」
突然なんだろう。まさか、結婚を前提にとか。そ、それは速過ぎるよ。井上君。
妄想が更なる妄想を生み、巨大に膨れ上がる中、井上君が口を開く。
「お願いって言うのは、大杉健太とはもう二度と関わらないでくれ」
膨れ上がった妄想が一瞬で音を起てて破裂した。
何を言ってるんだろう。
何かの冗談かな、と笑い飛ばそうとしたが、彼の目が本気だった。
そして、更に言葉を続ける。
「キミの様な娘が、彼の様な低能な人間と仲良くしていると、キミも彼の様になってしまう」
健太を馬鹿にする様な言葉遣い。それが少しだけムカついた。何も知らないくせに、好き勝手言うなよ、とも思った。
それでも、怒りを堪え笑顔を保つ。何かの冗談だって、言ってくれると信じていたから。
「それって、何かの冗談だよね?」
「冗談? そんなわけないだろ。俺、アイツの事正直キライなんだよね。何の取り柄も無いくせに、強気なあの目が特にキライ。アイツを見てると、ムカつくんだよ。だから、キミも、アイツに近付かないでくれるかな?」
プツン、と何かが私の中で弾け、怒りが湧き上がる。
何も知らないくせに、好き勝手に言いやがって。
拳を握り、キッと睨んだ。しかし、彼は気付かず言葉を続ける。
「それでさ、キミの返事はどうなんだい?」
返事。そんなの決まっている。返事は――
「断るわ。そんな馬鹿な条件聞けるわけないでしょ」
はっきりと言ってやった。けど、相手は全く動じない。それ所か、予期していたかの様に笑う。
「ハハハッ。やっぱり。そう来ると思ったよ」
高笑い。さっきまでとはまるで違う雰囲気。後退ると、壁が背中を押した。逃げ場を失ってしまった。
「俺さ、馬鹿には興味ないわけ。所詮、お前も馬鹿ってわけだ。こんな人気の無い所に連れ込んでさ」
「クッ……。最低ね。男としても、人としても」
目付きだけは強く、相手を睨み付けながら言葉を発する。だが、彼は恐れず着実に私に近付く。