告白
校門を潜れば、奴の顔があった。
大杉健太。俺の最もキライな男だ。やる気の無い言動とあのボサボサの寝癖頭。何よりあの目がムカつく。人の心を見透かしている様なあの瞳が。
朝っぱらから嫌なものを見た。今日はついてない。
しかし、何であいつがあの山本と仲が良いのか不思議だ。今も楽しげに話してやがる。イライラする。
顔を上げると奴と目が合う。あっちが気付いたかは分からないが、俺ははっきりと奴の目を見た。あのムカつく目を。
苛立ちながら足を進めると、奴が山本に何かを告げ、その直後に山本が俺の方に顔を向ける。一瞬、目が合い、ドキッと体が震えた。
平常心を保つ様に軽く深呼吸をし、足を進める。視線を戻すと大杉の姿が消えていた。あいつの方も俺を嫌っているのだろう。あまり俺に関わろうとしない。空気だけは読める奴だ。
一呼吸置き、俺は笑顔を山本に向け手を振る。
「おはよう。こんな所で誰か待っているの?」
優しく問い掛け、さり気なく彼女の頭を撫でる。適度なスキンシップは相手に良い印象を与える。これは、常識だ。それから、爽やかな笑顔。これさえあれば、大抵の女性は落ちる。
まぁ、俺はそんなセコイ手を使わなくても女を落とす自信はある。何せ俺はイケメンだからだ。自信過剰と思う奴もいるかも知れないが、それはモテない奴等のひがみだ。モテない奴は、そうやってモテる男をけなす事しか出来ない。全く救い用の無い連中だ。大杉もその一人に過ぎない。
山本の頭を二・三度撫で顔を覗き込む。
「もしかして、俺を待っててくれたのかな? だとしたら嬉しいな」
「あっ、そ、その……」
慌てる様に両手を振るい、赤面する山本。コイツは実に分かり易い性格をしている。間違いなく俺を待っていたのだろう。なら、次に行う行動は簡単だ。
「待っててくれてありがとう。キミみたいな娘を待たせるなんて、ごめん」
軽く頭を下げる。すると、
「えっ、あ、あの。そ、そんなに待ってないから。そ、それに、私もい、今来た所だったから」
全く分かり易い嘘だ。さっき大杉の奴と話しをしていたじゃないか。だが、そんな野暮な事は口にしない。あくまでも何も知らなかった様に振舞う。
「そう。だったら、良かったよ。女の子を待たせるなんて、男のする事じゃないからね」
笑みを向けると彼女は俯いた。やはり彼女は分かり易い。ここまで分かり易いと、逆に芝居なんじゃないかと疑いたくなってしまう。だが、彼女にそんな芝居が出来るか、と言うとノーだ。彼女は芝居できる程器用じゃない。それは、普段の彼女を見ていれば分かる。
素直でとても人を騙せる様な娘じゃない。あくまで俺のデータ上では、だ。
俯く彼女に大らかに笑い、優しく声を掛ける。
「どうしたの? 何か用があったんじゃないのかな?」
「えっ、あ、あの……そ、その……」
口篭る山本。何か大事な話でもあるのだろう。
「ここで話し辛いなら、移動しようか?」
「そ、それじゃあ……」
山本は俯きながら歩き出した。何か話しにくい事なのか、人気の無い所へと移動する。ある程度予測はしている。こいつは俺に気がある。さっきの反応でそれが分かった。それじゃあ、これからする事と言えば、告白だ。それ以外考えられない。
俺の予測通り、体育館裏へやって来た。告白の定番の場所だ。やはり、告白するつもりらしい。
彼女が足を止めると、俺も同時に足を止めた。
沈黙。そして、
「好きです! わ、私と、付き合ってください!」
予測通り、彼女は告白した。