雨のち晴れて… 【完】
泥まみれの衣服。
しかし、派手にやられてしまった。まさか、あそこで回し蹴りをくらうとは、我ながら不甲斐無い。
傘を肩に掛け、楽しそうに前を歩く若菜。のん気なものだ。コッチは人とすれ違う度に白い目で見られているって言うのに。これも全て、若菜の所為なわけだが、アイツはいつまで傘を開いているつもりなのだろう。
ため息を吐き肩を落とすと、不意に振り返った若菜と目が合った。澄んだ瞳に思わず視線を外すと、若菜が歩み寄り頭に巻かれた包帯に手を添える。
「――イッ! 何すんだよ」
「ゴメン。でもさ、これどうしたの? また喧嘩?」
困った表情の若菜。またって、俺は年がら年中喧嘩してるわけじゃない。と、言うより、腕っ節に自信が無いのに、ワザワザ喧嘩なんかしない。そうでなくても、広まった悪名で恐れられているのに、喧嘩なんかした日には退学モノだ。
「喧嘩なんてするわけないだろ。ただでさえ、誰かさんの所為で悪名が広まってるんだから」
「へ~ッ。そうなんだ」
「他人事みたいに言うなよ」
「だって、他人事じゃない。まだ」
完全に他人事の様だが、半分以上は彼女が原因だ。今、思い返せば散々濡れ衣を着せられてきた。中学一年の時は学校一の不良集団を壊滅させ、仕舞いには町中の不良集団を次々と潰していった。中学二年時は、修学旅行の宿泊先である旅館の一室を破壊。その時部屋に居たのは俺と若菜だけ。日頃の行いが悪い所為か、俺がその犯人にさせられ部屋の修理代を請求されたのは、凄く覚えている。
他にも話せば色々あるが、思い出せば出すほど、悲しくなってしまう為、この辺にしておこう。
深いため息を漏らし、首を振ると若菜が不満そうな表情を見せる。
「ねぇ、バカにしてる?」
「いや。ただ、色々あったなって思って」
「色々って?」
「まぁ、そりゃ色々さ。それより、今日は何もやってないよな?」
「うえっ? な、ななな、何い、いいい言って」
見て取れる完璧な動揺。コイツ、さては――。
「お前、何やらかしたんだ?」
「べ、別にたいした事じゃないよ。チョット、三人程のしただけ」
「三人……って、まさか」
脳裏に過る放課後の鮮明な記憶。この様子だと間違いない。井上達の事だろう。
しかし、これでまた俺の悪評が――。
ため息と一緒に肩を落とすと、若葉が頭の包帯の事を思い出す。
「そ、それよりも、その包帯の事だけど――」
「あのな……」
そこで言葉を呑んだ。若葉が心配そうな表情で俺を見ていたからだ。そんな顔をされちゃ、流石に皮肉を言う事も出来ず、小さなため息を漏らし、素直に答えた。
「殴られたんだよ。ホウキで」
「ホウキ……って、もしかして――」
何かを思い出した様に若葉の表情が変わり、不適な笑みと共に、指の骨を鳴らした。
「そう。あいつ等ね。そうなんだぁ。フフフフッ……」
不適な笑い声を発する若葉は、悪魔の様な表情を見せる。そう。本当の人の皮を被った悪魔は、俺ではなく若菜の事を指す。それを知っているだけに、怖い。怖すぎる。一体、何を考えているんだろうか。
想像するだけで悪寒が走るが、とりあえずここは宥めなくては。俺の悪評が更に広がってしまう。
「別に大した傷じゃないし、若葉が気にする事ないって」
「何言ってんの! あんたは、私の彼氏になるのよ! 大体、傷痕残ったらどうするのよ」
「まだ、彼氏候補じゃなかったっけ?」
「そ、そう。彼氏候補。でも、顔の傷はマイナスなんだから」
何やら顔を赤らめているが、何か変な発現でもしたのだろうか。とりあえず、ここは話を逸らす事が出来たので、よしとしよう。
一息入れる様に、深く息を吐く。隣りを歩く若葉の顔を横目で見る。きっと、俺はまだ彼女に相応しい男じゃない。それでも、こうして彼女の隣りを歩いていられる幸せを噛み締め、沈み行く夕日に自然と笑みを浮かべた。
どうも。作者の崎浜秀です。
いかがだったでしょうか? 『雨と傘と恋心』
語り手が目まぐるしく変わる……と、言うスタイルで書かせてもらいましたが、読みづらかったでしょうか?
まぁ、自らの力量も分からず、こんな事に挑戦してみたわけですが、この作品は自分が昔書いた作品です……。つい懐かしくなり投稿したわけです。
短い作品でしたが、最後までご付き合い頂きありがとうございます。感想や評価、アドバイスなど貰えれば嬉しいです。
次回恋愛小説を書く事があれば、また読んで頂けると嬉しいです。